Ep.2 動揺オンパレード


「――っていう事があってさ」

 一人で抱えきれない事の大きさに、僕は日向亮と近所の定食屋で夕飯を食べながら、今日の一部始終を話す。

「ほ〜そんな事が。……ってあぁぁぁあ!?」


 なるよな、そうなるよな!! 僕はため息混じりに笑う。

「まま待て、その流れだと白雪姫がお前の事を好きだった、って聞こえるんですけど!?」


 亮の味噌汁を持つ手が震えすぎて、味噌汁が茶碗の中で暴れる。あまりの動揺っぷりだが、僕も負けたものではない。さっきから、煮豆が――掴めない。掴もうとしては豆が逃げていく! 動揺で箸なんて使えたものではなかった。


「てことは! 付き合うのか、あの白雪姫と!!」

 亮が声を荒らげ叫ぶ。


「それが一旦オーケーはしたんだけど、やっぱり考えようと思って、とりあえず保留」

「なぜだ!? わけがわからん! そこは即オーケーだろう!?」

「ん〜、蓮村さんと付き合えるって僕にとっては何か夢みたいな話なんだけど、蓮村さん、別の人に告白された時は「死んでも無理です」って言ってて、何で僕は良いんだろうって思ってさ」

「そんなの好きだからだろ〜? 他に理由なんてあるのかって話だよ」

「……そうかな」

「八尋って意外と頑固だよなぁ」

「うるさい」

「へい」



 それにしても連絡先も何も交換してないけど、どうやって告白の返事しよう。

 そう考えていた僕だったけど、何やら意識し出すと目に入るもので、僕はここ最近毎日彼女の姿を見かけていた。それに蓮村さんはよく、体育館近くの自動販売機を利用するのか、見る度にそこにいる。


「……見る度?」

 急におかしい気がしてきて、僕は体育館の方へ急いだ。

 蓮村さんは、やっぱりそこにいた。


「わ〜、藤先輩だ! どうです、やっと返事くれる気になりました?」

「蓮村さん……。その、なんていうか何でここにいるの?」

「先輩を待っていたかったからです」

「もしかしてずっと?」

「はい。授業中以外の全ての時間!」

「……た、確かに僕と君は連絡先交換してないしさ、接点はこの場所だけだけど」


 そこまで言いかけて、蓮村さんが「いえ」と口を挟む。

「連絡先なら勿論知っていますよ。藤先輩の基本情報ですから」

「んん? 待って。今の、僕の聞き間違いかな?」

「試してみますか」

「うん?」


 蓮村さんがスマホを操作する。その間に僕のスマホにも知らない番号から着信が入った。

 とりあえず出てみる。


「……もしもし」

「はい、繋がりましたね藤先輩」


 見ると蓮村さんもスマホを耳に当て、僕の方を見ていた。

 さすがに僕も驚きを隠せなかった。


 だって電話番号って個人情報!!

「あ、ストーカーだって思ってます?」

 正直そこまでは思っていなかったけど、言われてみればストーカー、という言葉にしっくりきてしまって僕は言葉に詰まる。


「仕方ないじゃないですか? だって私、ストーカーしてしまうくらい、藤先輩の事が好きなんです……」


 さらっと怖い事を言っている顔でさえ、蓮村さんは可愛いから、もう本当にどうしようって感じで、脳内会議が始まる。


僕「どうするどうする俺! 多分悪い子じゃないんだよなぁ」

僕「いやー、可愛い! 天使! サイコぉー! 」

僕「付き合っちゃえば?」

僕「でもほら、ストーカーだよ!?」

僕「ストーカーだけどやっぱり、可愛いすぎてツライ!」


 駄目だ、話にならない……。

 現実に戻り「あのさ」と蓮村さんに声を掛ける。


「この前、死んでも無理です! って告白断ってたよね? 何で僕は良いの?」

「……例え死んでも藤先輩以外、好きにならないからです。先輩は私のヒーローで主人公だから」


 その瞬間、彼女が白雪姫だって事とか、蓮村さんだからとか、可愛いから、だとか、そう言った下心がすっ、と無くなった気がした。

 僕は多分、自分の中でそこが引っかかっていたんだと思う。

 僕のことを好きだ、と言ってくれる蓮村さんに対して「可愛いから付き合いたいです」何てちょっと失礼すぎやしないかって。


「蓮村さん、本当に僕で良いの?」

 言った僕に蓮村さんがこくり、と小さく頷く。

「……っ先輩が良いんです」

 蓮村さんはそう言ってはにかんだ。



 こうして僕、藤八尋と蓮村胡麦は恋人同士になった。

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