第16話 蹴る


「とりあえず、出て。お2人さん」純也が怯えている2人に言う。当然犯すつもりはない。ただ、啓太だけが歩と早くヤりたいらしい。そんな瞳で見ていた。


「な、何もしない…?」そう言う亜希子の声は震えていた。純也が微笑み何もしないことを言う。亜希子はそれを信用し座っていた体を起こし跳び箱の中に立つ。



亜希子と歩は跳び箱の中から出る。2人はまだ純也と啓太の言っていることが信用できない。渋々信用したがいつ襲ってくるかわからない。女子2人は男子2人とは距離を取り倉庫内の壁際に再び座った。男子2人はその前に座る。





男子2人、女子2人は何を話さず黙っている。話すタイミングとどんな話をしたらいいのかわからないのもある。物音のしない状態が部屋に広がっている。




その状況に我慢の限界になった純也が重い口を開く。


「あ、あのさ。亜希子さん。俺たちの何もしないからさ、話さない?」不自然な笑顔でそう言う純也。女子2人の表情は変わらない。まだ2人を怪しんでいる様子だった。



亜希子は悩んでいた。色々と複雑な気持ちだった。


―何してるの私!!好きな人がせっかく話しかけて来てるのよ!ここは強がらずに話すのよ私!


「あ…あ…」


返事を返そうとしたが緊張と恐怖と謎の興奮で声すら出なかった。亜希子の頬に汗が伝う。微妙に震えている感じもした。



―ちょっとー!!私しっかりしてよー!!平常心平常心!笑顔笑顔!!


亜希子は心の中で自分に自信をつける。微笑み純也の方を見る。なんか不自然だけれどそんな事を気にしている場合ではない。



「え、えっと…純也くんって…私の事好きなの?」亜希子は跳び箱の中に入っていた時の純也と啓太の会話を思い出しそれを純也に聞いた。亜希子の心臓はバクバク状態で、最高潮に緊張していた。



「う、うん…それは本当だよ。亜希子さん、ちゃんと言いたかったんだ。俺はお前の事が……」



最後まで言おうとした時、啓太が突然突然立ち上がる。そして亜希子と歩の方へと向かう。


「あーもう、俺我慢の限界だわ。歩ちゃん。ちょっといいかな」歩に近寄る啓太。純也は立ち上がりそれを止めようとした。啓太の肩に手をかける。しかし止まらない。


「おい、啓太!やめろ!手を出さないって約束だろ!」


「好きな人が目の前にいてもう我慢出来ねぇんだよ。早くヤりてぇんだよ」もう啓太は止まらない。歩に近づく。そして歩の前に行き後ろの壁に右手を押し当てる。壁ドンだ。そして体勢を変え歩の両足にまたがるようにした。四つん這いの状態だった。



「歩ちゃん、俺はお前が好きなんだ。ここでいいからヤらせてよ。な?いいだろ?」左手を歩の体を触ろうとしている。純也と亜希子が止めに入る。しかしなかなか啓太の体を動かせない。



「やめろって!啓太!」


「離して!歩ちゃんから離れて!」



2人が必死に止める。




歩が泣きそうになっている。その時歩は良いことを思いついた。


―私の足の上に…啓太くんの急所あるじゃん…ここを蹴れば…助かる!



その作戦を立てた歩は実行に移した。右足を蹴り上げ、啓太の(男の)急所に蹴り上げた足が直撃した。啓太の顔が苦痛の表情に変わっていく。そして啓太は歩の足の上にうずくまる。歩が足を抜き啓太が床にうずくまった。


「行くよ、亜希ちゃん」


「え…う、うん」


歩が亜希子の手を握り走り出す。そして2人は走って体育館倉庫を後にする。体育館を走っている時啓太の悲痛な叫び声が聞こえて来た。





「のおおおおお!!!俺の!俺の2つの玉が!!終わった…俺もう子供作れねぇ…」




啓太がうずくまっているところに純也が来た。そして体を仰向けにし、胸ぐらを掴む。痛みで泣きかかっている啓太だったが、そんな事は今どうでもいい。それより大切な事がある。



「啓太…お前何してんだよ!良樹に言われた事忘れたのかよ!手を出すなって言われただろ!」


純也がここまで感情的になるのは珍しかった。


「わ、わりい…我慢できなかった…ごめんな」


「お前も歩さんに想い伝えたいんだろ?あんな形でやったら嫌われるぞ?お前の気持ちもわかる。けどなやり方をちゃんと考えろ!」胸ぐらを離す純也。なぜか涙が出てくる。少しだけ息があがってしまった。



「啓太、お前は治るまでここにいていいよ。治ったらまた合流しよう。その間に俺、探しとくからさ」純也が振り返り開かれたままの体育館倉庫の出入り口へと向かう。



「おう、わかったよ。ごめんな…」啓太が申し訳なさそうに言う。それを聞き純也が右手を上げ手首を少しだけ左右に揺らせる。



そして純也は1人で亜希子と歩を探し始めたのだった。




純也と啓太から逃げる、亜希子と歩。


亜希子と歩を探す、純也。






鬼ごっこ開始から、6時間半経過する。




女子生徒、残り 85人。



ついに、100人を切ってしまった。



この後もまだ増え続けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る