在ル、男ガ、恋ヲスル物
あなたは、人体のどこに美を見出しますか?
赤く熟れた唇?
柳にもたとえられるくびれた腰?
それとも、母性を誘う豊満な胸?
鉱石のごとく輝く眼?
私は、人の指。
特に、ほっそりと竹のように伸びた女性の指が好みです。
指の先についた爪なんて、先が緩やかにカーブして、白く白く煌めいて、まるで海の底に沈んだ貝のようだ!!
あぁ、あぁ、そんな指が動くさまは何とも優美で! 官能的!!
だから私は、そんな美しい指を見るたびに、いけない衝動に駆られてしまうのです。
下半身が熱を持ち、私の燻る大事な部分を慰めて欲しと心の中で美しい指たちに懇願してしまう……。
なんと、なんと、私は罪深い男でしょうか。
なんと、なんと、私ははしたない男でしょうか。
だから、私は彼女たちを集めることにしました。
美しい指を見かけるたび、その持ち主たちに出会って、指を譲っていただくことにしたのです。
やり方は簡単です。
指をひたすら褒めてあげればいい。そうすると、指の持ち主である彼女たちは、トロンとした眼で私を見つめ、愛らしい指を私に見せびらかしてくれます。
さらに私は彼女たちの指を褒めます。
すっかり気をよくした彼女たちは、私に笑顔を向けてくれます。こうなれば、もう彼女たちの指は、私の虜になったも当然です。
あとは、彼女たちを車に乗せて家に連れて帰るだけ。家に帰ったら、まず睡眠薬入りのお茶を飲んでもらい、彼女たちには眠ってもらいます。
そして、地下の手術室に彼女たちを連れていくのです。
手術台に彼女たちの体を固定し、局部麻酔を指にかけたら申し上げが待っています。
消毒しておいたメスで、彼女たちの指を1本1本丁寧に切っていくのです。
まずはメスで指の根元の肉を取り除き、次にメスでは切断できない骨を糸鋸で切っていきます。指の骨はとても固く、糸鋸を引くたびに私の手に痺れが走ります。それでも丹念に糸鋸を引き、私は指の骨を切断するのです。
切断した指は、容器に入れ大切に保存します。
そして、指をなくした持ち主たちはもちろん処分しますよ。もう、用済みですから。
家の裏には陶芸家の父が残した窯があるので、趣味で作っている陶芸作品と一緒に彼女たちの体も跡形もなく燃やしてしまいます。
収集方法も一通り話し終えたので、私の自慢のコレクションをご覧ください。
ほら見てください。この棚に洒落た硝子瓶がたくさん置いてあるでしょう。
ほら! 中をよく見て!! 私の愛しい指が ホルマリン溶液の中でふわふわと浮いています。
真っ白な指。貝のような爪もそのまま。
切断面からチラッと見える骨も魅惑的だと思いませんか?
そうそうホルマリン漬けだけじゃないですよぉ。
見てください。
指の骨格標本です。
ほら、硝子の容器の中に美しい指の骨が並んでいるでしょう。不格好で気に食わない指も、功に加工すれば白い芸術品に化けるのですから本当に不思議です。
それから、ほら指のはく製もありますよ。
僕の最高傑作は、この指の椅子です。
何千本もの指で組み上げた、この美しい椅子を見てください。ある日ね、この椅子がふっと夢に現れたんです。
それでね、思いました。
指で椅子を造ろうと。
私だけが座れる、最高の椅子を造ろうと。
私はひたすら集めました。
夢中になって、夢中になって、美しい指という指を。
そして、私は気がついたのです。
まだ1度も、私は理想の指に会っていないことに。私は、私自身の最愛の人に会っていないことに、気がついてしまったのです。
それは、悪夢以外の何ものでもありませんでした。
だから今日、あなたをここにお連れしたのです。
もうもう、それは運命でした。
図書館で江戸川乱歩の人間椅子を読むあなたの指を観たとたん、私は眩暈を覚えました。
すらりとしなやかに伸びた五指は、これまで見たこともないほど完璧な形をしていたのです。それは、私が求めていた究極の指たちでした。
ほら、この指の椅子に腰かけてください。
それから、手術を始めましょう。
あなたの愛しい指を私に下さい。
その指を、私の最愛の伴侶とするために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます