C-SIDE05「僕とナナさん」
はっ。と。
我に返ったときには、なんかテントの中で、ナナさんと二人っきりになっていた。
僕の隣にぴったりナナさんが座っている。
あれ? これってちょっと、まずいんじゃあ……?
ナナさんと二人で、並んで座って話しこんでるくらいなら、ともかく――。
一緒のテントに中にいたりしたら、テッシーに怒られてしまう。
でもいまテッシーは、ミツキちゃんと二人っきりで散歩しているわけだし。おあいこじゃないかと思ったりもしないでもないが。
「はい。これから質問をしまーす。――すべて、〝いいえ〟と答えてください。ホントとのことは、言わなくていいでーす。ぜんぶ〝いいえ〟ね。なんでも〝いいえ〟って答えるのね。――ルール、わかった?」
「いやよくわかんないんだけど。なにそのルール? いったいなんの質問を――」
「では一つ目の質問~ん。ずばり。カズキュンって、童貞?」
なんか一問目から究極の質問キター!
なんでそんなこと答えないといけないのかなー。
ていうか。ぜんぶ〝いいえ〟で答えればいいんだっけ。じゃあ本当のことを言う必要はないな。
僕は、安心して答えることにした。
「……い、いいえ」
「ふ~ん……、そっかー、そうなんだぁ」
ナナさんは、僕の顔をまじまじと見つめて……舌なめずりをした。
いいえ、って、いま答えたよね!? なんでいまこれバレちゃんてんの!
「じゃあ二つ目の質問で~す!」
「もうやだから。答えないから!?」
「ミッキーとは、ヤッてんの?」
「……なにそれ」
「セックスっていう意味」
「……いや意味はわかるけど。なんでそれ言わないとならないの?」
「んー。手とか口でとかも、ヤッてるうちに、はいるかなー。……で、どうでしょう? 答えて」
「いいえ」
僕はさっきと同じように答えた。「いいえ」と答えるルールだから、そう答えた。
こんどはカンタンだった。だって本当にしていないもの。
「ふーん……、そうなんだぁー」
ナナさんは、また、にんまりと笑った。
だからなんでバレてんの!?
「じゃ、付き合ってるってわけじゃないのね?」
「ない……、けど……」
「ほら。〝いいえ〟で答える」
「いいえ」
だからなんで僕、こんなこと聞かれてんの。尋問されてるの。
「あともういくつか質問~ん」
「もうやだよ」
「カズキュンって、テッシーとか好きなわけじゃないよね? ああつまり〝抱きたい〟ないしは〝抱かれたい〟って、そっちの意味で」
「あるわけないでしょ」
「ほら」
「いいえ!」
なんなのこの質問。
「じゃあ、最後の質問で~す」
ようやく最後になってくれた。
なんかよくわかんないけど。さっさと答えて解放されよう。
「あたし。カズキュンの範囲内?」
「はい?」
「つまり。あたしに欲情する?」
ナナさんはそう言うと、体をぐいぐい、くっつけてきた。
ぎゅううう、と、腕がおっぱい固めに持ちこまれる。
このホールドを外せる自信は、ちょっと僕にはない。てゆうか男子には不可能だと思った。
「ねー。あたし。欲情できる? ヤリたいって思える? イケるか、無理ぽか、どっち?」
「えと、えとえと……、なんでそんなこと……」
「ほら。ルール忘れてる。――欲情すんの?」
「い……、いっ、いっ、いっ……いいえっ!」
僕は答えた。力一杯、答えた。
「そっかぁ。アリなんだー。チョーうれしー!」
いいえって答えたのにー!? 答えたのにーっ!
「おっぱい。好き?」
「いいえ!」
「はい。どーぞ」
ぺろん、と、キャミソールをめくる。
おっぱ! おっぱ! ――おぱい!
ちらっと見たことはあったけど、これほどまじまじと見たのは、生まれてはじめてで――。
ナマおっぱいに、つい、見入っちゃっていると入っていると――。
「キスはしないほうがいいよね? やだよね。こんなビッチと」
「え? いやいやいやいや! だから! ――こーゆーことはっ!」
そんなことはないけど――でも! そういうことじゃなくて!
僕の話を聞いておねがい!
話しあおうよ!
「口でシテあげるねー」
「いやいやいやいや! ちょっちょっちょっ!」
ズボンを下げられそうになって、慌てて押さえる。なんでかもうベルトが外されている。
「その〝いや〟は、いいほうの〝いや〟だよねー? まかせて。あたし。うまいんだぞー。すぐイッちゃっても笑ったりしないからー」
「いやいやいやいやいやいや! ――まずいでしょ! まずいでしょ!」
「お試し? ――って、そういうカンジでいいからー。そんで気に入ったら、さっきの話、考えといてくんない?」
「さ、さ、さ? ――さっきの話って!?」
なんか話――した!? してないよね!? 襲われてるだけだよねっ!?
「したよ? ――置いてかれたら、連れてってくれるって? ……したよね?」
そもそも、まずそこから勘違いしている。
テッシーは、絶対、ナナさんを置いていったりしないし。
僕だってミツキちゃんと別れる――っていうか、べつに付き合っているわけじゃないけれど。ミツキちゃんを送る役目があるし。バイクには二人しか乗れないし。
「ないない! ないから! 大丈夫だから! 安心しようよ! してよ! 襲わないでよ! 僕も安心したいよ!」
僕は必死にズボンを守っていたが、ナナさんは意外と力が強くて、もう半分ずり下ろされている。半分っていうか四分の三ぐらい。いや五分の四かもしれない。
「クチでしてあげるね。ってゆうかぁ! さーせーろー!」
「だめーっ! だめーっ! だめだめーっ!
ナナさんの顔を、僕は押し返そうと必死。
「もう! あきらめようよ! ミッキーとテッシーが、くっついちゃったら? あたしら、どーすんのよ!?」
「えっ?」
テッシーはカッコいいし。僕なんかより頼り甲斐あるし。
そういえば……。ミツキちゃんに気があるみたいだったし。黒髪スキーっていってたし……?
あれっ? あれあれっ?
あれ? もしかして……、その可能性って……?
……あったりする?
「ないですからー!」
ばーんと、テントの入口がオープンされた。
ミツキちゃんが立っている。
髪の毛逆立てる勢いで、なんか……? 怒っていらっしゃる?
「ち、ちがうんだ! ミツキちゃん! これはちがうんだ!」
「わたしとテッシーさんが一緒に行くとか。――ないですから! わたしはカズキさんと旅をしたいんです! カズキさんじゃないと! だめなんです!!」
すごい剣幕でミツキちゃんは怒ってる。
「ちがうんだ!! これはちがうんだー!!」
僕の不潔と不実とを糾弾して……、って?
あれれ? なんかへんだぞ?
「カズキさん。悲しいです。だめです。いくないです。……わたし、だめですか? わたしと一緒に旅をするの、つまんなかったですか? ……わたし、邪魔でした? 迷惑でした?」
ミツキちゃんは目を潤ませて、訴えかけてくる。
「いやいや! ぜんぜん! そんなことないから! いいえ! いいえ! いいえだからーっ!」
ミツキちゃんは混乱しているようだけど、それなら僕のほうがずっと混乱していた。
ナナさんにテントに連れこまれてから――。いいや、ミツキちゃんがテッシーと一緒に散歩に出かけてから、ずっと混乱しっぱなしだ。
「僕を信じて! ミツキちゃん!」
無駄だと思ったけど。僕は大きな声で叫んだ。
「はい! 信じました!」
……えっ?
「えっと……、信じてくれた? ……で、いいのかな?」
「はい。信じてますよ」
ミツキちゃんは、もう落ちついている。目尻の涙を指先で拭いつつ、にこっと笑った。
マッハだった。マッハで疑惑が晴れた。ミツキちゃんマジ天使。
ということは……。
これで問題は解決したわけで……。
よかったー。
僕は、ほっと――。
「おい」
――できなかった。
テッシーの声がした。ドスのきいた声だ。怒気をはらんでいる。
「テッシーちがうんだ! これはちがうんだ!」
「ちがうの! これはちがうの! そんなんじゃないから!」
僕とナナさんは、手をバタバタと振って、言いわけをした。
いや。まだ言いわけにもなっていなかった。違うんだ違うんだと繰り返すばかりで――。なにが違うのかも言っていなくて――。
「てめえ!」
テッシーの力強い手が、僕の襟元を掴んできた。
僕はテントの外に引きずり出された。
「てめえ――! 人のオンナになにやってんだゴラアァ!!」
殴られた。殴られた。殴られた。
ぼっかん。ぼっかん。ばっこん。ばっこん。
僕はいいように殴られた。
「やめ――、やめ! あぶっ! おぶっ! ちが――! いた――! やめて!」
「ちがうのテッシーちがうの! カズキュン悪くないの! 悪いのはわたしなのおぉぉ!!」
「ケンカはだめですうぅ! やめてー! やめてくださいぃ!」
ナナさんがすがりついて止めようとする。
ミツキちゃんがガン泣きしている。
でもテッシーは止まらない。なんにも見えていない。なんにも聞こえていない。
ただめちゃくちゃに怒っていた。
ぼっかんぼっかん殴られ続けながら、僕は――。
テッシーが女の子を殴るような男でなくて良かった。……とか、僕はそんなことを考えていた。
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