A-SIDE 10「レトルトと缶詰と生魚」

 その日、僕たちは、とあるスーパーに立ち寄っていた。

 おじさんのところで貰った食料も、そろそろ底をついてきたので、道沿いに見えたスーパーに立ち寄って、暗い店内で物色しているところだった。


 ――といっても、探しているのは、そんなたいした量でもない。今日のお昼の分と、夕飯の分と、あとは明日の朝の分ぐらいか。


 バイクにはあまり荷物を載せられないし、スーパーならあちこちにあるし、そんなわけで、一度に探す食料は1日か2日分だ。


 「あれ」が起きてから、もうけっこうな日数が経っている。だから生鮮食料品などはとっくに全滅。冷凍食品も電源消失によって、すっかり融けて、でろんでろん。

 食料を探すといっても、おのずと、保存食系になってしまう。


 僕が缶詰めを見繕っていると――。


「うーん。レトルトにしましょう」


 ――と、ミツキちゃんが言った。


 僕は手にしていた缶詰めを、ひっくり返して、裏を見た。またひっくり返して、下を見て横を見て、ようやく数字の並びを見つけた。


「賞味期限……まだ、だいぶ残ってるよ。2017年の8月だって」

「レトルトのほうが、短いんですよー。賞味期限や消費期限」


 ミツキちゃんが手にしたレトルトの袋を渡してくる。


「2016年だ」


 こっちのほうは、1年後くらい。


「食べもの。まだ、い~っぱいありますけど」


 売場のまんなかで両手を大きく広げて、ミツキちゃんは言う。


「でも、先に食べるのは、先に痛んじゃうもののほうが、いいですよね」


 そっか。なるほど。ミツキちゃん。あったま、いー。


 僕らは今日、たまたまここに立ち寄って、食料を入手しているわけだけど……。

 また後で他の人が、ここにやってくることがあるかもしれない。


 人はいなくなってしまったわけではない。ものすごく数が減ってしまっただけだ。

 他の人がこの場所に食料を求めにやってくるのが、1年後なのか2年後なのかはわからない。

 だがそのときに残っているのは、消費期限の長い食料のほうがいいだろう。


 僕は缶詰めを棚に戻そうとした。

 これ、どこから取ってきたっけ?


「あーでも。食べたいものがあったら、いいと思いますよー。おサカナ。好きですかー?」


 僕が手にしていたのは、サンマ缶。

 べつに特別好きというわけでもないけど。

 炭水化物系の主食と、肉系の缶詰めばかりという食事をつづけていると、ごはんとサカナという、和のメニューが恋しくなってくる。


「釣りでもするかなー」


 僕はそんなことをつぶやいた。


「できるんですか!?」


 ミツキちゃんが、両手を握りしめて、ぐわっとアップになった。

 カオが近いよ……。


「あ。いや。……したことないけど。でも、釣り竿とか、道具があれば……、できるんじゃないかな」


「そうですね。そうですねー。いいですねー。おサカナ。このへんに川ありましたよね。道具は……、そうです。釣りの道具屋さんを――、ちょくちょく見かけましたよね! 道沿いに!」


 なるほど。自力調達という手もあるんだっけ。


    ◇


 食品調達をそこそこやったあと――。

 その日は、釣具屋さんを探した。

 釣りの本と、道具を持って、川へ寄った。

 「釣り」というものを、ミツキちゃんと二人してやってみたのだが――。


 一匹も釣れなかった。

 ボウズだった。

 釣りの本によれば、一匹も釣れないことを「ボウズ」というらしい。

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