B-SIDE 05「カモ」

 青い空のもと。バイクを走らせる。

 後ろに女の子――いや、ビッチを乗せて、走る。

 どこまでも。どこまでも。どこまでも。


 国道が放置車両で溢れていて走りづらいので、川っぺりの道路を走る。

 本来は車両が走る場所ではなくて、サイクリング用であるが、道は道だ。

 そして、すべての道は北海道へと続いている。


 ……いや。続いてねえか。

 しかし、どうやって渡る? 船にバイクを乗せる? 青函トンネル降りてゆく?


「あっ――!? 見てみてほら! テッシー! カモ! カモがいるーっ!」


 見ない。

 うるさい。


「見ないとチンコいじるぞ!」


 しかたないので、見てやった。


 用水路の水面を、カモの群れが泳いでいる。

 お。やっとくか。するか。


 俺はバイクを止めた。


「え? なに? する《、、》の? こんなとこで? ……い、いいけど」


 クソビッチがなにか勘違いをしている。酷い勘違いだ。


 カモの群れはのんびりと泳いでいて、川っぺりの人間を、あまり警戒していないように見える。

 俺はくくりつけた荷物のなかから、スリングショットを持ち出した。


「はい。いーよー」


 クソビッチのやつが、なんか言ってる。

 シャツをまくりあげてブラ出して、ホットパンツ半脱ぎでぱんつ見せて――。

 いつになったら気づくんだ? こいつは?


「俺は策をひょいと乗り越えると。川カモの群れに近づいていった


「あれっ? えっ? ……あのー? あたしー、なんか放置されてるんですけどー?」


 ナナのやつに手で合図する。


 うるさい黙れ犯すぞ。

 猟の邪魔をするな。静かにしてろ。


 ――と、そんなようなことを、身振り手振りと、表情で、伝える。


 口に指を立てて、しーっ、という仕草が返ってきた。ようやく伝わったらしい。


 俺はそろりそろりと、足下に気をつけて、音を立てないように注意して、近づいていった。


 途中で小石を一個拾う。

 スリングショットはゴム銃だ。ゴムを伸ばして、その伸縮力で弾を撃つ。昔はパチンコとも言ったらしい。


 俺はカモを狩ろうとしていた。

 いまは無人のスーパーやコンビニで、食料をいくらでも手に入れられる。

 この世界の人口は、おそらく物凄く減っているだろうから、食料が尽きることはないはずだ。

 しかし保存食にも保存期間というものがある。一年は問題ないし、二年も大丈夫だろうが、三年、四年と経っていったときには、だんだん食べられるものが減ってゆく。缶詰類は最後まで食べられるのだろうが、それだって十年、二十年となるとわからない。


 よって、自分の手で食料調達ができなくてはならない。


 カモを獲ることは、文明崩壊前なら、なんか法律があって、資格とか時期とかに決まりがあったはずだ。

 俺はもちろん狩猟免許とか持っていないし、いまが獲っていい時期なのかも知らない。


 ……が。もう文明は終了している。

 法律とかいうのは、文明崩壊前の決まりごとだ。いまとなっては、もう関係がない。


 俺は、そろーり、そろーりと進んでいった。

 石をスリングにつがえる。


 群れのなかの一羽。……いちばん大きくて、うまそうなやつに、狙いを定める。

 石を放とうとした瞬間――。


 ばさばさばさ――! ばたばたばた――!

 ――と。

 カモたちは一斉に飛び立っていってしまった。


「えっ……?」


 俺は石を引っ張って、射撃の姿勢のまま――。

 間抜けに固まっていた。


 なんで? どうして? なぜ気づかれた?

 音は立ててないんだけどなー。


 うーむ……。

 野生動物……。恐るべし。


 俺がぽりぽりと頭をかきながら土手をのぼってゆくと、ナナが待っていた。

 俺のほうを、じーっと見ている。


 あー、もう!

 くそっ! カッコ悪い!


 こっち見てんじゃねえよ。

 なんかこう――、うまいことスルーしろよ。

 空気読めよ。


「慰めックス……、する?」


 しねえよ!

 だからおまえはクソビッチといわれるんだぞ?


 いや……。でも……。


 生き物を狩ろうとして――。

 失敗はしたが、そのせいなのか、なんか不完全燃焼で――。


 ナナを見ると、なんかこいつも目が潤んでいるカンジで――。

 ああ。欲情してんな。


 俺はナナを、青々とした土手の草の上に押し倒した。

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