A-SIDE 06「パクる?」

「どうしましょう?」

「どうしよう?」

「どうしましょう?」

「どうしよう?」


 ミツキちゃんと僕は、顔を見合わせて、困り果てていた。


 とある道沿いのコンビニ。

 店内にある食料品をレジのところに持っていって――。

 当然、レジの人なんかいるはずがない。無人の店内だ。

 ミツキちゃんと出会って旅をはじめてから、他の人に会っていない。姿を見かけたこともない。


 おもに食料品とかを、あれこれ見繕ったのはいいのだが……。


 お金がない。現金の持ち合わせが、とうとう尽きた。

 キャッシュカードや銀行にはお金が入っていたはずだけど。引き出す方法がない。コンビニにあるATMも、電気の終了とともに、沈黙したまま。


 これまでは、メモに品物を書いて、合計金額を書いて、「○○を頂きました。代金の○○円を置いておきます」と、書き置きを残していた。

 そうしておけば、盗んだことには、ならない……はず。


 すくなくとも、自分たちの気持ち的には、それで決着がつけられていた。


 しかし……。


「お金がない」

「お金がないですねえ」

「お金がないね」

「お金がないんですよねえ」


 はぁ……と、二人でため息をついた。


 冷静に客観的に考えてみれば、文明は崩壊してるし、他に人はいるのはわかっているけど、まだ見たことはないし。

 この店の持ち主や、働いていた人なんかも、もういないわけだし。


 仮に、盗――勝手に持っていったところで、誰も困る人はいないはずなんだけど。


 まあ自分たちの気持ちの問題だ。

 ミツキちゃんも、そこは同じであるらしく……。


「はぁ……。困りましたねー」


 二人して、そんなことで悩んでいる。

 こういうところをみると、やはり、あの仮説は正しいんじゃないかと思う。

 〝いい人仮説〟というやつだ。

 この世界に取り残された人たちは、皆、すべて、〝いい人〟ばかりだという説だ。

 ちなみにその説では、〝取り残された〟のではなくて、複製された世界に〝いい人〟だけが〝転送〟されたってことになっているけど……。

 それはさすがに信じられない。だって世界自体は、以前と、なにも変わっていないように見える。

 だいたい、世界一個まるごと複製するとかって……。それどんなSF現象?


 まあ、それはともかく……。


 メモを残して、お金を置いて、物を頂くということを、ずっと続けられるとは思っていなかった。

 そのうちお金がなくなるとわかっていた。

 前から分かっていたことなので、すこしは考えていた。

 結局は、覚悟を決めるだけだ。


 自分一人だったら、まだ悩んでいたかもしれない。

 でも僕にはミツキちゃんを無事に九州に送り届けるという義務がある。

 そのためには――。


「あの、ミツキちゃん、僕――」

「私。決めました」


 ミツキちゃんに言おうとしたのに、先を越された。


「私だけなら。いいんです。でもカズキさんがお腹がすいちゃうから……」

「え?」


 あれ? それ僕が言おうとした――。


「だから。私。盗んじゃいます。ごめんなさい。お店の人。でもごめんなさい。たべもの。持っていきます!」


 ミツキちゃんはどこかに向かって、大きな声でそう言った。


 あー? れー?

 先に言われてしまった。

 僕がミツキちゃんを守るはずだったのに――。

 なんか? 守られていたのは僕のほう?


 ミツキちゃんは、意外と男前だった。


   ◇


 お金はもうなくなってしまたっけど。

 僕たちは、迷うことはしなくなった。

 二人で生きよう。旅を続けよう。

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