B-SIDE 04「俺たちの食料事情」

 青い空。

 どこまでも。どこまでも。どこまでも……。伸びる道。


 俺はビッグスクーターの後ろに女を乗せて走っている。


「おい。ひとつ言っとくぞ。――クソビッチ」

「あたしナナミってゆーんだけど。――ビッチだけど」


「おっぱい押しつけてくるんじゃねえ。――おまえ。わざとだろ」

「あててるけど?」

「あとな。腰に掴まれとは言ったが、腰をまさぐれとは言ってない」

「なんで? だめ? キモチいくない? ――うりうりっ!」


 腰よりも下のほうで、ナナは手を動かした。


 俺は急ブレーキをかけると――バイクを止めた。


「降りろ」

「え?」


 ナナの顔で、笑いが固まっている。


「え? ちょ――怒っちゃった? このくらいで? ちょっとフザケただけじゃーん? え? マジ? マジで激オコ? やっ――ちょっ!? ごめんごめーん! ほんと、ごめーん! そんな怒るならもうやんないからー! ね? 捨ててくなんて言わないでー!」


 ずいぶん長々としゃべるやつだな。俺は思った。


「ちがう。そこの店」


 俺は道端にあるスーパーマーケットを指さした。


 ナナという道連れが増えて、食い扶持が増えた。

 食料はコンビニでもどこでも補充できるから、そんなに積んでいない。そろそろ補充しておかないと、今夜と明日の朝のぶんのメシがない。


 ホームセンターと、しまむら? とかいう服屋には寄ったが、まだスーパーマーケットには寄っていない。


 しかし……。


「くっく……」


 俺は笑いをこらえきれずに、声を洩らしてしまった。


「わ……、笑ったー! 怖かったんだからねー!

「じゃ? またしていい?」

「運転中はやめろ」


 それは本当。マジで危ない。


「運転中じゃなければ……、いいの?」

「時と場合による」

「時って、いつー? たとえば、いまー?」


 ナナは甘えるように、俺のパーソナル・スペースにはいってくる。


「だーら! やめろっつーの、真っ昼間から」

「じゃあ夜ならいいんだー」


「………」


 俺はノーコメントだった。黙秘権を行使した。


「楽しみだねー」

「………」


 俺は黙っていた。なに言ってんの。こいつ。


「ねー、スーパーって、ゴム置いてあったっけー? いっぱい使うよねー?」


 だからそーゆーの、やめろっつーの……。

 やめてください……。


    ◇


「サバ缶。サンマ缶。シャケ缶。……あっ。中骨缶もあるー! すごいすごいー。あたしこれ好きなんだよねー。テッシーは?」

「三つ四つでいいぞ。一日分もあればいいんだから」

「あー! ごはんごはん! へー、炊かないでいいんだー。これすごくね? ねー、これ、すごくね?」


 ナナはくるくると、棚と棚の間を動く。

 昨日の服の店で選んだのは、手足を大胆に露出させた格好。

 目のやり場に困る……ことは、まあ、ないか。


 世界が変わって見えたりはしないが、女の子を見る目は変わったかもしれない。

 なんというか……、余裕がでた?


「日本人なら、やっぱー! ごはんっしょー!」


 暖めるだけのインスタント・ごはんを、一ダースも抱えて、笑顔で戻ってきたナナに――。


「だから三つか四つでいいっていうのに……」


 俺は苦笑を返した。

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