B-SIDE 01「旅立ちと、ビッチ」

【前書き】

こちらは「B面」です。別カップルの話となります。

ピュアボーイ+マジ天使のカップルは南は九州に向かいますが、こちらは北海道へと向かいます。



【本文】

 ビッグスクーターのエンジンに火を入れる。

 アクセルを軽く吹かす。

 DOHC並列2気筒600ccの心臓が鼓動を刻む。


 よし。動いた。整備完了。

 燃料は満タン。

 出発の準備も完了。

 でっかいシートの下にはベビーベッドぐらいの収納スペースがある。旅に必要なものを収める場所もある。


 これで、あとはもう、走り出すだけ。


 免許? はっはっは。――ねえよ。

 だが文明が終わったいま、法律とかも終了したわけで、まったく問題はなかった。


 さて――。

 俺はビッグスクーターに跨がった。

 ゴーグルを引き下ろし、スロットルを捻ろうとした、そのときに――。


「ねえー、乗せてくんなーい?」

「は?」


 女の声がして、俺は思わず振り返っていた。

 いた。人がいた。


 〝あれ〟が起こってから、はじめて出会った人間だ。


 俺がまじまじと見つめていると、その女は――。


「ねえ――? 乗せてくれるの? くんないのー?」


 驚きもせずに俺のことを見つめている。

 向こうだって、いま世界になにが起きているのか、わかっているだろうに――。

 俺を見ても驚きもしていない。

 ひょっとして、こいつ――わかっていないんじゃなかろうか?


 髪の色から服装から、いかにもカルそう。ついでに頭もカルそう。


「乗せてくれたら。いいコトしてあげるー」


 観察する目を向けていたら、なにを勘違いしたのか、そんなことを言ってきた。

 言ってねえ。んなことは。


「乗れよ。――どこまでだ?」


 俺はそう言った。

 〝あれ〟が起きて、人がものすごく減った。ネットでは見かけるが、実際に出くわしたら驚くほど。

 残った人間同士、助け合いをしてゆくべきだろう。


「やったー! ありがとー!」


 女はシートの後ろに尻を乗せてきた。短いスカートなのにまるで気を使わない。ちらっと見えた。意外にも白だった。


「すわりごこち、いー! これ、おっきいねー」


 今日、俺のモノとなったバイクだが。まあ褒められて悪い気はしない。


「――で、どこまでなんだ?」


 俺は聞いた。このヒッチハイク女を、どこにでも送っていってやるつもりだった。


「ほっかいどー」

「はあぁ!?」


 思わず、叫んでしまった。

 ここは九州だぞ。北海道っていったら日本の北の果てだぞ。

 千キロ以上あるぞ。


「でっかいどー、って、言うでしょ? 行ってみたくなってー」


 行ってみたくなった――で、行くようなところか。

 だいたいどうやって行くんだ? 九州と本州と四国は橋と道路でつながっているが、北海道には橋は架かってないぞ。


「降りろ」


 俺は、そう言った。

 付き合えるか。


「えー? なんでー?」

「なんでじゃねえよ。アホ女」


「あー、ごめーん。キミ、どこか行くところだったの? することある?」

「いや……、ないが……」


 そういえば目的地など、定めていない。


 この青空の下――。

 どこまでも――。

 どこまでも――。

 どこまでも――。


 バイクで走って行ければ、俺は、ただ、それでよかった。

 後ろに女の子など乗せていれば、もっとよい。


 ……ん? ああ。まあ。いるわけか。乗せてるわけか。

 あんま美人でもないし。アホっぽいが。いちおう女だな。これは。


「北海道、だったな?」

「そうそう。でっかいどー!」

「いや。北海道だろう」

「だから。でっかいどー」

「………」


 まあいい。アホに付き合ってるとこちらまでアホになる。


「時間、かかるかもしんねえぞ?」

「んー、べつにいいよー」

「あと……」


 言いかけて、俺はやめた。

 男と女の二人旅で、間違いとかあっても知らねえぞ、と言いかけたわけだが――。それは胸に収めておく。

 わざわざ言うのは、なんだかカッコ悪く思えたからだ。


「じゃあ……、行くぞ?」

「うん! 出発進行ーっ!」


 アホ女をバイクの後ろに乗せて、俺は〝旅〟をはじめた。

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