EP2-この女神様との出会いに感謝を
「
とか言ってくる、アクアの相手をしながら俺たちは家へと向かっているところだ。
あの後、じゃんけんをしたのだが、余程の幸運持ちでない限り負けるはずはない俺はこうして勝利を収めアクアに、クリスを運んでもらっている。
「まあ、そんなこと言うなって。じゃんけんなんて運だろ。それに、俺が無敗なことは前にお前に言ってるだろうが。」
「そんなこと覚えてるわけないじゃない。」
この野郎・・・。どうしてこいつは学習という事を知らないのだろうか。
なんでこんな自信満々に覚えてない。とか言っちゃってるの。なに、バカなの?
「いつものおんぶに比べればマシだろ。それを考えれば得した気分にならないか?」
「それもそうね。いつもはネッチョリした子か、汚れた汚い子だものね。さすがねカズマさん。良いこと言うわ。」
確信した。バカだ。こいつはバカだ。今更ながら確信した。何でこんな簡単に騙されるんだ。一周通り越して
・・・はぁ、やっと家に着いた。
「–––たらまー! たらまー!!
めぐみんー?ダクネスー? 帰ったわよー。
おかえりを言って欲しいんですけどー!」
「おい、帰ったぞー!」
アクアは最近やたらとおかえりを要求してくる。
聞いたら、–––おかえりを言ってくれる人のありがたさを最近知ったのよ。と笑顔で言ってきた。
ちょっと心に来ることを言ってきたものだから、寂しくないようにと、夜中に笑うバニル人形をそのうち枕元にプレゼントしてやろうと思う。
「カズマ今帰ったのですか。ダクネスなら紅茶を淹れに台所に居ますよ。 というかアクアの背中のは何ですか、クリスはどうしたのですか。」
「あぁ、ちょっと色々あってな。 詳しくは落ち着いたら話すよ。」
「そうよ、よくぞ聞いてくれたわね!めぐみん聞いて。クリスはエリスなの!」
こいつは、しゃべり続けないと死ぬのだろうか。
さっきあれほどエリスのことは内緒だと言ったばかりなのに。
ホントにとっちめてやろうか。
「・・・クリスがエリス? アクアは何をいってるのですか? そんなこと言ってるとダクネスに怒られますよ。」
「めぐみんの目は節穴ね!私は前から薄々気づいてたのだけど、特別に教えてあげるわ。」
「アクアに言われたくないのですが・・・。まあ、ありがとうございます。秘密の共有をしてくれるのは嬉しいので一応お礼を言っておきますね。」
めぐみんはさすがだな。アクアのいつものか。
と言わんばかりに聞き流しながら、ちょむすけを撫でている。
ソファーに腰をかけると、
奥から良い匂いがしてくる、ダクネスか。
相変わらず紅茶だけは淹れるの上手いんだよな。
「帰ったか。2人の分の紅茶も出来ているぞ。もう少しで出来るから先に手でも洗って・・・こ・・い。
おい。クリスはどうしたのだ。見たところ気を失っているようだが。誰にやられた。」
「あぁ、ダクネス。詳しくは後で話すよ。」
「そうですよ、ダクネス。いきなり聞いても整理が出来ませんから紅茶を飲みながらでも話しましょ。」
「ダクネスは相変わらず落ち着きがないわね。」
三人から注意を受け、律儀にも、紅茶を置きつつも、言ってくる。
「いや、待て。・・・私が悪いのか? 仲間がやられたというのにどうしてそんなに落ち着いてられるのだ。」
ブツブツと何やら言い出すダクネスだが、はっきり言うとダクネスの反応が普通のはずだ。
ここにいるのが頭がおかしい子たちだから仕方がない。
俺がそんな事を思いながらアクアを見ていると。
「どうしたの、カズマさん。 変な顔がさらに変な顔になってるわよ。 さすがの私でも顔までは治せないわよ?」
「おい、馬鹿かお前は。何言ってるんだ。いいからとりあえずクリスを降ろしてやれ。」
クリスを背負ってるのをすっかり忘れてたのだろう、器用にも紅茶を飲みながら降ろそうとしてる。
降ろしてから飲めばいいのに。
・・・ふと思った。あの紅茶のコップを倒したら無防備なアクアにかかるよな、、、と思ってしまった。
さっきの仕返しもあるけど、ほんのいたずら心だ。
あぁ、そしてこれは俺の新スキルの性能を試すためだ。
俺は悪くない。
俺は気づかれないようにおもちゃの矢をセットして、
タイミングと位置を確認して、聞こえない程度の声で言った。
「–––ンスォゲキィッ!」
ンスォゲキィッ!スキルとは、運が強いほどに命中率が上がる俺にうってつけのスキルだ。
当然ながら外すわけがなく、矢は正確にカップへと命中する。
「あっつっっっ!!!ちょっと、クソニート何すんのよ!!零しちゃったじゃない!私じゃなかったら大火傷よ!ねぇ聞いてるの!?」
ふむ。やはり威力はないが命中率は申し分ないな。
改めて自分のスキルの残念さを感じながら、手をバタバタさせてるアクアに謝る。
「悪いアクア。今、虫が止まろうとしてたからついな。お前ほどの高貴な存在に虫がついたら一大事だと思ってさ。」
「あら、随分と殊勝な心掛けね。 このぐらいヒールでもかければ一瞬で治るからまあいいわ。 でも次からは口で言ってくれると助かるわ。 さすがの私でも熱いものは熱いんだからね。–––ダクネスー!ごめんなさい。カズマさんが
「あ、あぁ、それは構わんが。その、なんだカズマ、良ければ私にも今のをやってほし。じゃなくて、くれても構わないんだぞ。 飲みたいのにお預けをくらうというのはちょっとした我慢大会にも繋がるからな・・・」
あと一回、あと一回だけ...
俺はそのチャンスが今か今かと待ち続ける。
「ほら、アクア。持ってきてやったぞ。 次は綺麗なカップだから安心して飲むと良い。」
「ありがとね!頂くわ!」
無駄に隠密スキルを使い、
アクアが飲もうとした瞬間を待っていた。
–––今だ!
「ンスォゲッキィ!」
ンスォゲッキィ!スキルとは、・・・
解説しようとしたところ、肩をポンポンと叩かれた。
なんだよ、今いいところなのに。
「助手君。アクアさんをいじめると天罰が下るよ?」
後ろを向くと意識を戻したのか、笑顔のクリスが俺の真後ろに立っていた。
「クリスもう体調は大丈夫なのですか? と言うか、そのままその男を取り押さえておいて欲しいのですが。」
「あぁ、クリス。そいつを離すな! なぜか今日に限ってアクアにイタズラして叶わんのだ。・・・観念しろ。訳なら後で聞いてやるから大人しくしろ!」
やばい。2人がやる気だ。
当のアクアはと言うと、同じ手に熱湯を被ったらしく、手をバタバタさせてカズマさんがいじめるだの、何だのと言って泣いている。
「ほら、先輩泣かないの、先輩はすぐに泣くんだから、よしよし、アクア先輩は、悪くないですよ~・・・・・・あ。」
聖母かと思った。
どうやら気づいたようだ、アクア相手だからか、エリスが出てきてしまっている。
「うわああああん、エリス~、エリズゥゥゥ、ぐすっ、ぐすっ。今日は私ね、いつも怒られてばかりだから、色んなこと一杯学習してね、お利巧さんにしてたのに・・・」
こいつ絶対学習してないだろう。何を一杯学習してきたのか聞こうじゃないか。俺が手をワキワキさせていると、ダクネスがふとこう言ってきた。
「なあ、今、クリスのことエリスと呼んでいなかったか? おい、アクア泣いているとこすまないが、なぜクリスがエリス様なのだ」
「ぐすっ、ああ、ダクネスは知らなかったわよね。実はね、クリスはエリスなのよ。私の可愛い後輩なのよ」
「ちょうどダクネスが、紅茶を淹れている最中ですよ。私もさっき聞いたばかりなのですが、嘘だとばかり思っていましたよ。ホントにエリスなのですか?」
アクアがこんなことを言うのはいつも通りだ。と思っていたのだろう。
それが、現実味を帯びてきたせいでクリスへと視線が集中しているようだ
「や、やだな~、アクアさん、いくら髪と瞳の色が同じだからってエリス様と間違えるだなんて恐れ多いよ。私はクリスだよ」
まあ、そう言うわな。
クリスはバレない様に必死だ。
だが、今のアクアにそんなことは通じないぞ。
さあ、どうるすお頭・・・
「ねえ、エリスも私をいじめるの? ごめんね、エリス。私こんなだから悪いことしたって自覚が無いの、そのおかげでいつも痛い目にあってきたわ、だから学習したの。悪いことをしていなくても、常に自分を見続けようって。ごめんね、私は賢くないの、だからいつも一生懸命考えてるわ、でも失敗ばかりなのよ、ねえ、エリス?ごめんなさいするから許してほしいの。私言ってもらえないとわからないことが多いの。」
なんだろう、目頭が熱くなってきた。
嘘だろ。お調子者のこいつからこんなことが聞けるなんて、お父さん泣きそう・・・
「お、おい、アクア。クリスにそんなこと言ってもクリスが困るだけだぞ。もし弱音を吐きたくなったら、私が聞いてやる、そして解決するまで話を聞いてやるからクリスを困らせないでくれ」
ダクネスがすかさず止めに入るが、当のクリスはと言うと、いつもとは違うアクアの雰囲気に困り顔を浮かべている。
「ねえ、どうしてこうも面白い状況に私はなるのかな。君といるといつも何かに巻き込まれている気がするんだけど」
「それは、俺も同感ですね。俺とお頭なら間違いなく運はいいはずなんですが、毎度のことながら面白い状況になりますよね」
それもそのはずだ、運だけでここまでのし上がってきた俺と幸運を司る女神だぞ。
なのになんでこうなる。
「なあ、カズマ、お前らはなんでそんなに楽しそうなんだ。と言うかクリスなぜ否定しない。アクアがおかしなこと言い出すから早く止めてくれ」
―――フナオーッ!
「ちょっと痛いわよ、何するのこの黒い毛玉は」
「ちょむすけ。アクアにはちょっかいを出してはいけませんよ、後で何するかわかりませんから、こっちに来て一緒に遊びましょ」
ナイスだちょむすけ、よくぞこの空気を変えてくれた。後でブラッシングをしてやろう。おかげでダクネスも首を突っ込んでこなくなった。
すると、なにやらちょむすけをずっと見ている人が・・・
「え、助手君、もしかして猫を飼っているの?」
「ああ、めぐみんが拾ってきたんですよ。見た目はあんなですが、アクアには狂暴ですよ。と言うか、なんだかクリスのこと警戒してるように見えますよ」
「えーなんでだろう、そんなことより触ってもいいかな、少しでいいんだよ、ダメかな?」
「それは、構いませんが。おい、めぐみん、クリスにちょむすけを触らせてやってくれないか」
ねこじゃらしを使って、ちょむすけと遊んでいためぐみんに呼びかけた。
「ええ、いいですよ、ですが、なにやらちょむすけが警戒しているのですが、クリスなにかしましたか。この子はあまり人見知りはしない子なはずなのですが」
あいつは、クリスが女神だと感づいているのか、
そうだとするならやるな、ちょむすけ。
「ほら、何も持ってないから怖くないよ、ほらおいでおいで」
―――ナオーッ!
「いったーい、ちょっと何するのさ、酷いよ~。」
「ねえねえカズマさん、今見たかしら、あの毛玉がクリスを引っ搔いたわ。ええ、やっぱり間違っていなかったようね、ちょっと私カズマさんの真似してみるわ」
「おい、アクア、俺の真似ってなんだ、何するつもりだ」
「いいから見てなさい、私はカズマさんと伊達に喧嘩してないわよ」
こいつは喧嘩から、何を学んでるんだ。
はっきり言わせてもらうと、泣いてる記憶か、誤っている記憶しかないぞ。
するとアクアは、ニコニコしながら、クリスのもとへと近づいていくと、
「大丈夫、クリス? ヒールはいるかしら」
「アクアさん、ごめんね、お願い。と言うか結構ショックなんだけど・・・」
そんなことを言うと、フフンと鼻を鳴らして自慢げに語り出す。
「クリスに良いこと教えてあげるわ」
ヒールをかけ終えたところで、アクアが俺のことを、チラッと見た後に、
「あのね、あの毛玉は邪神なのよ」
「え?猫じゃなくて?」
「違うわよ、黒い毛皮をまとった邪神の半身なのよ」
「え、えぇ・・・あんな可愛いのに、全然良いことじゃないよ、むしろ悪いことだよ」
それを聞いたアクアは腕を組みながらこういい始めた。
「違うわクリス、あの子は高貴なるものには手を出してくるの、それがどういうことかわかるかしら」
「えーと、ごめんね、アクアさん・・・全く」
ごめんな、うちのポンコツ女神が。
ご迷惑おかけします、ほんと。
後であいつ引っ叩いてやる、俺がアクアにやめろと視線を向けるが、アクアは首を横に振り話を続ける。
「バカねクリスは、あの子が手を出すのは私たち女神や神族よ、だから私やクリスは引っ掻かれるのよ」
な、なんも言えねえ、、、へぇそうなんだ。としかそれじゃあ言えなないぞ。何が俺から学んだだ、やっぱりお前は学習してないじゃないか。
・・・と思っていたら、めぐみんやダクネスは意外にもなるほどと言った顔をしている。
もうやだこのパーティー。バカばっかじゃないか。
「おいカズマ、なんだその顔は、何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「いや、そのなんだ、お前らが可哀想に見えてきてな」
「待てカズマ、それはどういう意味だ? お前は私たちのことをどういう風に見ているんだ」
ダクネスとめぐみんが俺に講義をしてきた。
しょうがない、教えてやろう現実を・・・
そのほうが仲間の為だ。
俺は意を決して、
「ちょっと賢いゴブリンだな」
「「「・・・・」」」
「カズマさん、その仲にはもちろん私は入ってないわよね」
「あ?何言ってんだ、この穀潰しのなんちゃって女神が! お前とゴブリンを比べたらむしろゴブリンに失礼だろうが」
「わああああああああああ、かずまさんが言っちゃいけないこと言ったああああ、このクソニート!聖なるグーを食らわせるからそこに立ちなさい!」
「やだよ、誰が立つか」
「おいカズマ、仮にも乙女に向かってゴブリンとは良い度胸してるな、そこになおれ、成敗してくれる!」
「何言ってんだ脳筋女が、悔しかったら活躍してみろ」
「くっ、この言わせておけばさっきから、、、良いだろうぶっ殺してやる!!」
「ちょっと待ってください、今はクリスの話のほうが先ですよ、ダクネスも頭冷やしてください。カズマもアクアをからかうのはその辺にしてあげてください」
お、めぐみんが何も言ってこないとは。
最年少が一番大人ってどういうことだよ、やっぱりめぐみんは一番賢いゴブリンだな・・・
「カズマ、紅魔族は非常に知力が高いのです。カズマが何を考えているのか当ててあげましょうか」
「―――ごめんなさい、もうしません」
「はあ、まあいいですよ、カズマは今に始まったことじゃありませんしね」
「ダクネスもアクアもいいですよね」
「すまない、私としたことが取り乱した・・・」
「私は、ちゃんとごめんなさいが言えるのなら文句はないわ。」
「クリス、すみません、このパーティーはいつもこんなでして。話がそれてしまいましたね」
「いや、全然いいよ、むしろこのまま、それてくれてよかったよ?」
残念そうにクリスはヒラヒラと手を振っている。
◆◆◆
「はあ、やっと落ち着けたな、帰ってきて早々いつものことながら騒がしかったが、これでやっと話が出来るな。さて、クリス・・・」
「なにかな、ダクネス、急に改まって」
「お前はクリスなんだよな?」
「うん、クリスだよ」
ひとしきり騒いだ後、今はこうしてソファーに腰掛け、紅茶を飲みながら話が出来るくらいまで落ち着いている。
「ダクネス、ダクネス、クリスはエリスよ!」
「アクアややこしくなるからちょっと静かにしててくれ、後で当家自慢のお酒をあげるから」
「・・・そう。それならいいわよ! なら私は向こうでめぐみんと一緒にゼル帝にご飯をあげてくるわ。何かあったら呼んでちょうだい」
「私も行くのですか? こちらのほうが面白そうなのですが」
「今度お散歩に付き合ってあげ、「行きましょう! ゼル帝が美味しくなるまでご飯をあげましょう!」
「そこまであげなくても良いわよ。それじゃあカズマさんまた後でね」
爆裂魔法についてきてくれるのがそんなに嬉しいのか、アクアの返事を待たずに行ってしまった。
「すまんな、話が逸れた。さあ、クリスどうなんだ」
これはバレるのも時間の問題だな。
こうなったダクネスは正直めんどくさい。
早くもクリスがこちらをチラチラと見てくる。
助け舟だろ。そんなのわかってるよ。
「なあ、ダクネスちょっと話があるんだけどいいか」
「む?なんだ、今大事なとこなんだが」
頭の中でありとあらゆるパターンを想定したところで、俺は口を割る。
「いいか、ダクネス、俺にはこの世界で唯一尊敬できる人が実はいるんだ」
「そうか、わかった。今度暇なときにでも聞こう。」
俺は一喝されて黙り込んでしまう。
クリスが涙目になってこちらを見てくる。
まさかこれだけで終わるとは思わなかったのだろう。
仕方がない、たまには頑張るか
「まあ、待て、これは敬虔なるエリス教徒でないとわからない話なんだ。 さすがのダクネスでもやはり難しいか」
「クリス、すまん。ちょっと待っててくれ。 おい、カズマ、詳しく・・・」
「ああ、よく聞いてくれ、俺がこの世界で唯一尊敬している人物はな、––––エリスなんだ」
それがどうした。と言った顔でダクネスがこちらを不思議そうな顔で見ている。
よしきた、釣られたぞ。
これは勝ちが見えたな
「その方はな、人知れずな頑張り屋さんで、この世界が平和になるためならどんな苦労も惜しまない方でな、誰かに感謝されたりなんかしたら、すぐに顔を赤くしてしまう素直な人で、困っている人は放っておけない、素晴らしい方なんだ」
「ああ、それは勿論だ。たしかにエリス教徒のようにエリス様を普段から身近に感じていないとなかなか感じられない事だ。 ああ、その通りだな。改めて再認識できた。エリス様は本当に素晴らしい。今の私があるのはエリス様のおかげと言ってもいいくらいだ」
2人での褒めちぎりあいが始まってしまった。
クリスが両手で顔を覆って震えている。
「ダクネスは知っているだろ? 俺が死ぬたびにエリス様に会っているのは」
「ああ、勿論だ。不謹慎ながら羨ましい限りだ、一度でいいからお目にかかりたいものだ、そして是非お会いできた際はお礼を言いたい」
「そんなダクネスに教えてやる、エリス様にはな、大切にしている言葉があるんだ。」
「ふむ、さぞかし深い言葉なんだろうな」
「それはな-–––諦めない心だ。どんな時でも諦めない、みんなが諦めても私だけは諦めない、そんな健気ながらもエリス様だからこそ言える悲しい言葉だ」
その言葉を聞いた瞬間、ダクネスが止まってしまった。
と言うか、
俯いてしまっている、
どうしたんだ、あと一息なんだが、
すると、俯いてるダクネスから何か流れ落ちてきた。
え、泣いてるじゃないか。
今のところに泣く要素あったか、いやないだろ。
「す、すまない、私としたことが。いや、まさか、カズマからそんな言葉が聞けるとは思っていなくて、と言うよりも、エリス様のその言葉がとても他人事のように思えなくて、私自身すごく思うことがあるのだ。 少し長いのだが聞いてくれるか?」
横を見るとクリスは未だに震えている。
あれ、でも顔を覆ってない。
気のせいか目尻に涙をためているようにも思える。
クリスも聞きたいのだろう。
「ああ、頼むダクネス」
「・・・感謝する。
カズマ達が知っている通り、皆んなに会うまではな、私は友達どころか話をできる知人がいなかったんだ、それは私が貴族の出で世間知らずなこともあったのか、皆んなとどんな話をして良いのかもわからなくてな。
そんな中、毎日かかさずにやっていることがあって、それがエリス様へのお祈りだった。
神にもすがる思い。と言っていいだろう。
とにかく友達が欲しくてな、諦めずに通い続けた。
幼い頃に母を亡くしたせいもあって、買い物やお出かけなどもしだことがなくてな。お前が言うような箱入り娘だったよ
とにかく、一緒にいてくれる友達が欲しかった
そしたらなんだ、ある日、いつも通りエリス教会に足を運ぶとクリスがいてな、そこからは早かったな、今ではこうしてカズマ達のパーティにいる。
私のような貴族が、こんな思いを出来るなんて思いもしなかった。
カズマ達のパーティに入ってからも色々あったよな。
領主に求婚を受けたり、借金のために領主と婚姻だの。
普通に考えたら、これらは避けることは出来ない上に、断ることが出来ないものだ。
それなのに、お前らときたら・・・
ふふっ、思い出すだけで笑ってしまう。
あの時、私はもうダメだと思っていた。諦めようと思っていた。
なのに、お前達は諦めなかったな。
ありとあらゆる方法を取り、時には捕まり、時には前科がつきそうになったり。
やはり、お前達は可笑しいな。毎日いて飽きない。
諦めなければなんとかなる。道は切り開ける。
この地を収めていくものとして大事なことをお前達からたくさん教わった。
そんなことがたくさんあったからか、
私は、そのエリス様の言葉には本当にくるものがあった。
・・・取り乱してすまなかった。聞いてくれてありがとう」
気づけば、クリスが泣いていた。
そうだよな、今にして思えばとんでもないことやってきたんだよな俺たち。
「ダクネスは頑張ったよね、私ずっと見ていたんだからね、偉いよ本当に」
ああもうダメだ、言ってしまおう
こんなヤキモキする気持ちは、俺は嫌いだ。
頑張ったなら頑張ったと言われたい。
悪いことされたなら謝りたい。
良いことしたなら感謝されたい。
当たり前だが俺はそう思う。なのにこの女神様と言われたら、この国の国教ではある、崇拝もされている。だがずっと1人だ。溜め込むしかないのだ。
「なあ、ダクネス実はな、この話はこの間のエリス感謝祭でエリス様から聞いた話なんだ」
「そうか・・・それは良いことが聞けた。」
「この話にはまだ続きがあってな、実はエリスはこの世界を見守る以外にも、たまにこの世界に遊びにもきてるんだぜ。さらにな、エリスには可愛らしい一面もあってな、あの人花だったり可愛いものが好きなんだよ」
「ほぅ、地上にきているというならば間接的に私の気持ちも届いていると嬉しいところだ。そして、花ときたか。仮にも私は貴族だ。そういった嗜みは受けてきているから共感できるものがあるかもしれない。ちなみに好きな花を聞いてたりするか?もし聞いていたら今度持って行きたいのだが」
クリスが顔をあげてこっちを見て何かを言おうとしているが知らない。見えなかったんだから仕方がないさ。
「その花の花言葉はな、––––諦めない言葉だ。
どうだ、知ってるか?」
俺が核心をつくであろう言葉を投げかけた瞬間、ダクネスはと言うと、俺ではなく、クラスのほうを凝視している。
「私の知識に間違いが無い限り、その花言葉の花は、・・・クリスだ。
私に友達ができたきっかけ。何かあったらすぐに私のところにきてくれ。どこかおっちょこちょいで、でも解決しようと頑張ってくれ・・・いや、バカな...
だが、話は合うぞ、その容姿といい、さっきの話といい、じゃあ、私はさっきなんて言った。
クリス!?お前はクリスなんだよな!? あぁ、あぁぁぁぁ、私はなんてことを」
1人でぶつぶつと言い出し、先ほどのことを思い出したの崩れ落ちるダクネスがいた。
「お、お前は、本当にクリスか!?クリスであってクリスではないのだな。––––無礼を承知でお伺いしたい、貴女様はエリス様なのですか・・・?」
さすが、貴族令嬢。
佇まいが一転して変わった。
いつもこうならカッコいいのにな。
「い、いやー、アハハハ・・。参ったなぁ。」
「・・・・」
ダクネスは何も言わずに答えを待っている。
「ちょっとダクネス、なんか言ってよ!」
やばい、面白くなってきた。
楽しくなってきたぞ。
「お頭、照れてるんですか?照れてるんですよね。顔を見なくてもわかります。耳まで真っ赤ですよ。ほんと可愛いですね、俺と結婚しませんか。」
「しません!! もうっ、もうっ!カズマさんのバカ!アホ!ドジ!マヌケ! 私がこの状況で嘘をつけると思いますか!!?」
「思うわけないじゃないですか。だから俺がここまで言い続けたんですよ。こうでもしないとお頭は素直になれませんからね」
ついに観念したのか
エリスの口調のお出ましだ。
おい、またダクネスが泣いてるぞ。
どうしたんだあいつは。
「本当にエリス様だったとは・・・。実はエリス様に聞いて欲しいことが!」
「は、はい!何でしょうか! あの、出来ればもう聞きたくないのですが・・・私の容量がもう限界でして」
あんだけ言われれば当然か。
顔真っ赤っかだもんな。
「いや、ダメだ!言わせてもらう!
エリス様!
私と、私と友達になってくれてありがとう!
私を見ててくれてありがとう!
私にこんな幸せな時間をありがとう・・・!
私をエリス様に・・・
クリスというかけがえのない親友に出会わせてくれてありがとう...!!本当にありがとう・・・ございます」
あれ、なんだかいい話になってきた。
俺の思い描いてたのと違う。
こう、エリス様が恥ずかしがって、俺が好きな子をからかうかのようにいじる事で、エリス様の好感度が上がるはずじゃあないのか?
「・・・ダクネス。お礼を言うのは私の方です。
この世界のために頑張ってくれてありがとうございます。
初めて直接お礼を言えましたね。いつも感謝してましたよ。クリスではなくエリスとして」
そう言い終わると
突然光の柱がクリスの元へと降りてきた。
光の柱から現れたのは、紛うことなき、エリス様そのものだった。
「カズマさん?お礼は言いますけど、あまり女神をからかわないでくださいね。私たちはすごくピュアなんですから」
私たちって言ったな、アクアもそうなのか、あれはピュアというよりかただのバカな気がするが。
「え、エリス様だ・・・!!」
ダクネスが、感極まってきている。
俺は、ダクネスのそばまでいき肩に手を置いてやる。
ダクネスもすまないなと言いたげに俺の手を肩から降ろす。
そんなダクネスに俺は小さな声で呼びかけてやる。
「・・・ララティーナ」
「なっ、その名で呼ぶなー! どうしてお前はいつも、いつも・・」
そんな状況を見てか、エリス様はすっかりいつもの落ち着きを取り戻しこちらに話しかけてくる。
「カズマさん達は本当に仲良しですよね、羨ましい限りですよ、それじゃあ、一目会うことができましたし、騒ぎが大きくなる前に私はこれで失礼しますね」
「あ、あの、ちょっと・・・」
ダクネスが名残惜しそうに、それでいて引き止めるのを申し訳なさそうに手をゆっくりと伸ばしたが、途中で止め下ろしていく。
こういうところで抑えが効くあたり、やはりダクネスは素直になれない子だな。俺はダクネスの代わりにエリス様の背に向け話しかけてやる。
「エリス様ー! また遊びに来てくださいね。なんたって俺たちは秘密を共有しあうパーティですからね」
そう言うと足を止め、こちらへと向き直った。
「ふふっ、ダクネスは良いパーティに巡り会えましたね、本当に心配したんですからね!! カズマさん、あまりダクネスをからかわないであげてくださいね。」
そう言うと、指を一本立て、頬の横に当ててウィンクしてくる。あー、やっぱりエリス様は正統派ヒロインだな。
隣ではダクネスが、良しと言い、顔を上げている。
「–––あの、また会うことは叶いますか?」
ダクネスなりの精一杯の言葉だったみたいだ、見ると拳を作り手の先が震えてしまっている。
エリス様も嬉しかったのか、こちらへと歩みを進めてくる。
「私がこんなことを言ってしまうのは、可笑しな話なのですが、ダクネスにお願いしたいことがありまして・・・」
「はい!何でしょうか! この私に出来ることでしたらなんなりと!
「もうっ、そんなに固くならないでください!
言いづらいじゃないですか、実はですね・・・」
その後に言うであろう言葉は、俺には予測が出来ている。なんだかんだ言ってこの2人は良い関係だよな。
そんな時にここにいるのは少しお邪魔だろう。
アクアたちもそろそろ帰ってくるであろう、俺は気を利かせて席を立つ。
「–––その、クリスとは、また仲良くしてくれるでしょうか。あの子もなかなか気のおける友達がいなくて困っていまして・・・」
やっぱり女神にふさわしい人だな
こんな気の利いた言葉はなかなか言えないぞ。
玄関に手を当て外に出る時、後ろの方からは、声が聞こえてくる。エリスの慌てる声も聞こえてくる。
大方ダクネスが泣きでもしてるのだろう。
あいつも少しは女の子らしい一面があるんだな、
これは1週間は弄れそうだ。
そう思いながら、俺は今日もまた、、、
サキュバスの店へと行く・・・!!!!
そう、我慢はいけない!今日はエリス様だ!
–––いつも頑張り屋な、女神様にもたまにはこんな日があってもいいだろう。
あの人一倍頑張り屋な女神様に祝福を・・・
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