23 二人の味方


五月半ばの晴れたある昼間。理緒は、歌を口ずさみながら、商店街を歩いていた。


「 〜♪」



ある曲が、最近お気に入りでよく歌っている。

拓人や涼が、好きなバンドの曲で、昔アニメの主題歌にもなった曲である。



「 よっ理緒。」

「 わあ、涼か。びっくりした。」


歌を歌っていたので、涼の存在に気がつかなかった。


「 なんか、歌を歌ってたよな。聴いた事あるけど。」

「 涼が、好きなバンドの曲だよ。これ。」

「 ああ、デビュー 十五周年記念のアルバムに入ってるな。そいや。」


涼は、記憶を辿ってそう言う。


「 でも、理緒なんで、知ってるの? この曲。」

「 お兄ちゃんもこのバンド好きだから。涼が好きって言ってたの教えたら、なぜかアルバムくれたんだよ。同じのわざわざ買ってきて。」

「 へぇ。」

「 お兄ちゃんさ。涼の話するとたまに、変な事するんだよ。 さっきのアルバムもそうだけど。 この前、涼の誕生日に何あげたら、いいと思う?って相談したら、涼の趣味根掘り葉掘り訊いてきたし。」

「 拓人先輩なりに、妹の恋応援してるんじゃないの?多分。」

「 うーん。」


理緒は、腕を組んで考える。そういえば、熱が出て休んだ時、涼を家に無理やり入れたのは、拓人だったのを思い出した。


「 涼の話をお父さんにすると、むちゃくちゃ機嫌悪いし。お母さんは、キャーキャー騒いで、大変だし。お兄ちゃんだけなんだよね。涼の話出来るの。」

「 だろうな。」


( お母さんは、ともかく。お父さんに会った日には、おれ、絶対殺される。)


涼は、想像してブルリと震えた。


「 涼? どうかした? 顔青いよ。」

「 何でもない! ただ、ちょっと恐い想像しただけ。」


涼は、理緒を心配させないようにそう言った。


「 うちの理緒と、何やってんのかな?」


低い声で、涼は話かけられる。恐る恐る、涼は振り返った。

鬼の形相の中年男性が、一人仁王立ちしていた。



「 お父さん。」

「 理緒が、遅いから迎えにきてみれば。どこの馬の骨ともわからない奴と、一緒にいるじゃないか。」


理緒の父・治は、お決まりのセリフを言いながら涼に近寄る。


( 想像が、現実に。)


涼が、命の危険を感じたその瞬間。治が、いきなり、ずっこけた。

足元には、バスケットボールが転がってる。


「 わりぃ。父さんだったのか。ヤベー目付きのオッサンが、中学生相手に何かしそうだったから思わず、バスケットボール投げつけちゃったよ。」


ははと笑いながら、ボールを拾う拓人。


「 拓人!親に向かって、なんて事するんだ。」

「 だから、謝ったろ? 父さんこそ、二人の邪魔とか無粋な真似してんじゃねぇよ。」


拓人は、説教しながら治をズルズル引っ張って家に、無理やり連れて帰った。


「 あー助かった。」

「 本当に、お父さん。娘バカだな。口聞くの辞めようかな?」

「 理緒。そこまで、しなくても。」

「 冗談だよ。多分、帰ったらしょんぼりしてると思う。お兄ちゃんに、説教されて。」

「 ……ある意味、お父さん可哀想だな。」


涼は、思わずそんな事を言った。



おまけ。


「 理緒。グレたりしないよな?」

「 はあ? 何言ってるの? グレるって何?」



拓人に散々、脅された治は、理緒にグレるかどうか訊いたりして、理緒にウザいと言われたりした。

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