第16話16 お兄ちゃん。

16 お兄ちゃん。



それは、ある日の出来事だった。


「 ふぎゃ 」


そんな声を上げて理緒は転んだ。おにゃんこさんを踏みそうになって、避けたら転んだのだ。



「 あったー。おにゃんこさんは、大丈夫?潰れてない?」

「 んなな。」


おにゃんこさんは、大丈夫と言うように鳴いてみせる。


「 よかった、潰れてない。」


理緒が、ホッとしてそんな事を言ってると 拓人が、呆れ顔で理緒の側にやってくる。


「 派手な音がすると思ってきたら、理緒が、転んだ音だったのか。まったくドジだな。おにゃんこさんの心配もいいけど、お前は、怪我してないのか? 」

「 多分。してない。」


理緒は、立ち上がろうとする。


「 右足首が、痛くて立てません。」

「 ちょっと、足見せてみろ。」


拓人は、理緒にそう言って足出させる。


「 転んだ時に、ひねったか?」

「 わかんないけど。多分。」

「 捻挫かもな。病院行かないとな。お父さん仕事だし。お母さんは、夕食の支度とかあるし。よし、僕が一緒に、行こう。」

「 俺、一人で行くからいいよ。クラスの人に見られたら恥ずかしい。」

「 歩けないのに、どうするんだ?」

「 ……お願いします。」


理緒は、拓人に突っ込まれて、拓人と一緒に病院に行く事をしぶしぶ了承した。


拓人は、母から保険証とお金を預かって、理緒を連れていく。



「 ねぇ、お兄ちゃん。恥ずかしいんだけど。」


かかりつけの病院は、街の中心にあるので、バスで行くのだが、足が痛くて歩けないのでタクシーで行く。

拓人は、タクシーから降りるなり理緒をおんぶした。


「 歩けないんだから、仕方ないだろ。」

「 車椅子あるじゃん。」

「 僕が、おんぶしたいの。」

「 何それ、意味わかんない。」


理緒は、ポフポフと拓人の頭を叩いて無言で抗議する。


「 ちょっ暴れんな、落ちるぞ。」


拓人は、理緒をしかる。


「 なら 早く、下ろして、椅子に座らせってば。」

「 あーもう。わかった。」


拓人は、待合室の空いてる椅子に、理緒を座らせた。


「 あ〜恥ずかしかった。」


理緒は、おんぶから解放されて、一息つく。

受付を済ませた拓人が、理緒のもとにやって来る。


「 理緒、これに乗って整形外科に行くから。」

「 うん。」


理緒は、拓人が持ってきた車椅子に乗ると、車椅子を押す拓人に質問する。


「 このまま、おんぶするかと思ってたのに、どうしたの?」

「……さっき、知り合いに見られてさ。妹さんが、可哀想だから車椅子に乗せてやれって、言われたんだよ。」

「 ふーん。」


理緒は、相づちをうちながら、拓人の知り合いに密かに、感謝した。


診察が終わり、会計を済ませて帰る為に、タクシー乗り場で、タクシーを待っていると二人の前に、一人の少女が話かけてきた。



「 妹バカの林原くん。今お帰り?」

「 うるせ、桜庭。妹バカじゃない。」

「 お兄ちゃん。誰?」

「 お兄ちゃんの同じクラスの桜庭ななこです。ついでに、言うと涼の姉です。 弟がお世話になってます。」

「 はわわ、こっちこそ、お世話になってます。はじめまして。林原理緒です。」

「 噂通りの娘だね。おもしろい。」

「 おいこら、うちの妹と話して勝手に盛り上がってんじゃないよ。」



ななことの会話に、存在を忘れられた拓人が、割り込んでくる。


「 あーら。それは、悪かったわね。ほら、タクシーきたわよ。妹バカの林原くん。 バイバイ、理緒ちゃん。またね。」

「 はい、さようなら。」


ななこは、ニコニコと笑いながら理緒に手を振りながら去っていった。

タクシーに乗りながら、拓人は、悪態をついていた。



「 桜庭の奴。なんなんだよ。」

「 そういえば、ななこさんなんで、病院にいたのかな?」

「 なんか、子供の頃からアトピーに悩まされてるとかで、ここの皮膚科に通ってるんだと。」

「 ふーん。」


理緒は、ニヤニヤしながら言う。

「 理緒、なんでニヤニヤしてるんだ。」

「 別に、詳しいから。ななこさんの事好きなんだなって思ったの。」

「 誰が、あんな奴。」


拓人は、そう言って黙りこんだ。

家に、つくなり理緒は、いつも涼の事でからわかられるので、お返しとばかりに、拓人に、ななこの事を根掘り葉掘り聞きまくった。



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