第10話 理緒は理緒。

「先週やった、休み明けテストを返すぞ。呼ばれた者から取りにくるように。」


一時間目の社会の授業の初めに担当の山田先生は、そう言って一人ずつ呼んで、答案を返していく。

生徒は、返された答案を見てため息をつくもの。喜ぶ者それぞれ、様々な反応を見せていた。


「 桜庭。」

「はーい。」


涼が呼ばれて、答案を取りにいく。涼は、答案を見て、苦笑いする。


「 お前な。漢字の間違いが多いんだよ。それがなきゃもっと、いいのにな。まっ次頑張れよ。」


山田先生は、涼にそう注意する。


「見てくれよ。70点。漢字間違いってなかったらもう少し、いけたのに。」


涼は、席に戻る途中、理緒に答案を見せながら、そんな事を言う。


「 ちゃんと、見直ししないからだよ。」

「だよな。ところで、理緒は、自信あるのか?」

「 わかんない。 社会あんまり好きじゃないし。」

「ふーん。あとで、点教えろよ。」

「うん。」


理緒は、気のない返事をする。涼は、理緒の様子が気になったが、授業中なので席に戻る。


「 林原。」

「はい。」


理緒は、答案を見る。


「……79点かあ。」


呟いて、脳裏に嫌な記憶が浮かんできた。思い出すだけで、胃が痛たくなる。


『 リオなんで、お前は、こんな点しか取れないの? 全く、お兄様達は、満点をとってくるのに。お前ときたら。本当に、駄目な子』

『 申し訳ありません。でも、』


「 林原さん。お腹痛い?」


隣の席の男子が心配そうに、声をかけてくる。

理緒は、ハッとなり首をふって否定する。


「 大丈夫。 治ったから。」

「そう? ならいいけど。」



全員の答案が、返され、授業が始まった。

理緒は、テストの点数を知った時の香苗の反応が、怖くて全然、授業に集中出来なかった。



「 理緒、どうした? 顔色悪いけど?」

「なんでもない。」


一時間目のあとの休憩時間涼は、理緒の様子を気になって理緒の席にやってきた。


「 それより、俺の点数、訊きにきたんじゃないの? 」

「 別に、いいよ。理緒もう一度訊くけどな、本当に、なんともないんだな?」

「 ちょっと、嫌な事を思い出しただけ。」

「なら、いいけどな。 なんか、あったらおれや杏子に言えよ。」

「 うん。ありがと。でも、本当に、大丈夫だよ。」


理緒は、曖昧に笑って涼に、お礼を言った。

涼は、何も言わずに、理緒から離れた。


その日は、二時間目以降も、休み明けテストの答案が、返され点数を見るたび理緒は、嫌な気分になった。


放課後、杏子と帰りながら返された答案について話ながら、家に帰っていた。


「 テスト持って帰るのやだなーねぇ理緒。」

「 うん。」

「 お母さんの言う通りだったわ。春休み勉強しなかったから。 説教くらってしまう。遊び過ぎよって。理緒、どうしたん?元気ないね。」

「 いや、俺もあんまり勉強しなかったから、説教されるなって思って。」

「 まあね。休みってつい、遊ぶからね。成績うんぬんより、サボり過ぎると悲鳴あげるのあんたよって言われたのにね。」

「 そうだね。」


理緒は、杏子の話を聞き流しながら歩いていた。


「 ただいま。」

「お帰り。理緒。」


家に帰ると拓人が、リビングにいた。


「 あれ?お兄ちゃんもう、帰ってたの?」

「 今日は、学校午前だけだったんだよ。」

「そう。お母さんは、今日仕事休みだよね?」

「 おう、多分寝室じゃないか?いるの。」

「 俺、テスト見せてくる。」

「 テスト?見せなくていいんじゃね? まあ、理緒には、こっちのテスト初めてだもんな。見せてくれば。」

「 うん。」


理緒は、言われた事の意味がさっぱり分からず寝室に行く。


「 お母さん?ちょっといい?」


理緒は、両親の寝室のドアを明けて声をかける。


「 どうしたの?理緒ちゃん。」

「休み明けテスト返されたから見せにきた。」


理緒は、答案を香苗に差し出す。


「 点数教えてくれたら、それでいいのに。まあ、いいか。どれ。」


香苗は、答案をざっと見て。


「 全教科 ほとんど、80点以上だね。頑張ったもんね。春休み。」


香苗に、誉められて理緒は、驚いた。


「 怒らないの?百点一つもないのに。」

「 やーね。百点取らないくらいで、怒れるわけないじゃない。そりゃ、理緒ちゃんが、悪い事をしたら怒るけど。」

「………あっちの両親は、いっつも怒ってたお兄様達は、満点とれるのに、なんでお前は取れないの?って。満点とれない子は、駄目な子だって。」

「 お兄さんは、お兄さん。理緒ちゃんは、理緒ちゃん。大体ね、人は、テストの点だけじゃないのよ。満点とれない子は、駄目な子って意味わかんないわよ。理緒ちゃんは、駄目な子じゃない。」

「 なんか、凄いバカな心配してたよ。俺。テストで、 百点とれない子だから怒れるって。」


理緒は、自分のバカな心配していた事を恥じた。


その夜、理緒は、携帯で涼にメールで昼間心配してくれた事に対してのお礼と自身の事で、話したい事があるので、明日、家へ来てほしいとメールを送った。


「 涼に俺の秘密話そう。」


理緒は、自分の秘密を打ち明ける事を決心した。

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