第7話 7 呼び捨てかよ。


「 行ってきます。」

「行ってらっしゃい。 迷子に、ならないでね。」

「 昨日も、行ってるから大丈夫だよ。」


紺のブレザーにプリーツスカートの制服姿の理緒は、香苗にそう言って家を出た。

理緒が今日から通う学校は、家から徒歩二十分程の公立中学校である。

桃宮市立第一中学校。小高い丘の上に立っている、生徒数約六百人程の学校である。


理緒が、玄関の前に貼り出されたクラス表で、クラスを確認してると後ろから声をかけられる。



「 あれ、この前のオチビちゃん。本当に、中学生だったんだ。 」


( この声、この前の失礼な奴だよ。)


理緒は、回れ右をして声をかけた人物を睨みつける。


「 誰が、オチビちゃんだよ。俺には、林原 理緒って名前があるんだ。中学生なのに、老けた顔の少年A!!」

「 老けた顔って、おれの気にしてる事をズバンと言わなくても。それと、おれの名前は、桜庭 涼 だよ。」

「 ふーん。それよか、クラス確認したの?桜庭くん。」

「まだ 。そういう理緒は?」

「まだって、いきなり呼び捨てかよ。しかも、下の名前で。」

「 おれ堅苦しいの嫌いだから。」

「そういう問題じゃない。」

「はいはい。おーあった。六組 おれと理緒の名前。」

「……見えないんだけど。」

「そうか。オチビだもんな。理緒は、」

「 オチビ言うな!あと、呼び捨てにするなって」

「 わかったよ。理緒ちゃん。」

「 なんか、ムカつくから理緒でいい。桜庭くん。」


理緒は、そう言って、下駄箱に向かい上履きに履き替える。


「 理緒。おれに、ついて来ないとまた、迷子になるぜ。」

「 うるさいな、言われなくてもそうするし。」



( あーもう、なんっでこいつの言いなりなんだろ?俺。ムカつく事ばっか言われてんのに。)


理緒は、心の中でぶつぶつ言いながら、涼の背中を追いかける。校舎の二階一番端に六組の教室はあった。


「 お早う。」


涼は、あいさつしながら教室に入る。


「 お早う。桜庭。後ろの可愛い子は、誰だよ。紹介しろ。」

「 こいつは、理緒。林原 理緒 」

「 林原 理緒です。宜しく。」

「そう、林原さん。僕は、野々村隼人宜しくね。」

「 あれ、理緒。俺って言わないんだ。」

「 いちいち、うるさいな。」

「 林原さん、自分の事俺って呼ぶんだ。」


若干引きぎみに、隼人が訊いてくるのを、理緒は、感じつつ答えた。


「 うん。男兄弟の末っ子だったから。」

「あっそうなんだ。ならしょうがないね。」


それだけ言って隼人は、理緒達の前から立ち去る。


「 やっぱり、女の子が俺って言うと引かれるよな。前もそれが原因で、苛められたし。」

「 そうか?おれは、全然気にしてないけどな。まあ、大人になって働くまでに、直せばいいんじゃね?」

「 そういうもん?」

「おれが、言うから間違いない。」

「あっそう。」


理緒は、そっけなく返事をすると、席表で、席を確認し席についた。なぜか、涼もついてくる。


「なんで、来るの?俺のとこに。」

「別に、いいじゃん。理緒の側にいたいから。それに、今のところおれ以外に知り合いいないでしょ。」

「 まあ、いいけど。はあ、さっき、訊きそびれたけど、なんで桃宮高の制服着てたの?この前?」


「……あれ、葬式の帰りだったんだよ。じいちゃんの。なのに、制服前日汚してさ、仕方ないから、一番上の兄さんのお古借りたんだよ。」

「なんで、汚したの?」

「おじいちゃんのお葬式前日に、野球やってて汚したんだよね。」

「 杏子!理緒との会話に、割り込むな。」

「涼だけズルい。こんな、可愛い子と仲良くなるの。」

「 あの。二人は、どういう関係で、あと、貴女の名前を教えて。」


会話に、飛び入り参加してきた女の子に理緒は質問した。


「 ごめんなさい。いきなり。涼とは、小学生から同じクラスなんだ。笹木杏子。」

「 俺は、林原理緒。転校生です。宜しく笹木さん。」

「 俺っ子だあ!笹木さんってじゃなくて、杏子って呼んでよ。やーん可愛いからだきついちゃお。」

「ひぎゃーいきなり。何なの?杏子。離して〜」


理緒は、妙にハイテンションな杏子の腕のなかでジタバタする。

「 ごめん。理緒可愛いからついね。仲良くしようね。」

「あーうん。」


( 変な友達出来ちゃったな。)


「 変な友達出来とか、思ってないか。理緒。」

「 なんで、考えている事わかるんだよ。桜庭くん。」

「別に、理緒は、分かりやすいからな。」

「うう。 桜庭ひゅん。 あーもう、舌かんだ。ややこしいから、俺も涼って呼び捨てにしてやる。」


理緒は宣言した。


( マイペースだし、ムカつく奴。でも、こいつがいたから、友達出来たし。)


理緒は、涼のお陰で、学校生活を楽しく送れそうな事には、感謝した。




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