みさざき きょう 2
「あんたさー橋の近くで待ってって私言ったよねこの間? なに勝手に一人でずんずん進んでんのよ」唇を尖らせて不機嫌そうに言う少女…女子。おれと同い年くらいの女子。
「ああ、ごめん…姿が見えなかったからさ。先に歩いていったのかと」
「たく、余計な世話かけさせないでよね。こっちだって暇じゃないんだからさ」
「……」ならそもそも平日のこんな深夜に呼び出さなきゃいいのでは、とは思ったが口には出さない。出すとこの子はうるさそうだ。
切れ目の長い瞳、ツンと尖った鼻先、真一文字に結ばれた口元…スマホのライトが気の強そうな顔を照らしだす。
あとこの間と同じように黒い革ジャンを彼女は羽織っている。女物としては少しサイズの大きい、元は高級そうだが若干着古した感も漂う革ジャン。
「じゃ、さっさと行くわよ」そう言ってライトの灯りの範囲から離れていく少女。
「あ、待ってよ三佐崎さん」
三佐崎 喬。
みさざき、きょう。それがこの間教えてもらったこの子の名前である。
おれはずんずんと先に進んでいく三佐崎喬に置いてかれないようにやや早足で彼女のあとを付いてゆく。
しかしこのほとんど灯りの無い夜道をよく平気で歩いていけるな。スマホのライトで照らされている背中を見ながらおれはそう思う。
まぁおれと違ってこの辺りに来るのも初めてではないのかもしれないが。
そこから十分程…スマホの時間をみるにぴったり十一分歩いたところで前をいく少女は足を止めた。
結構川に近い場所だ。水が流れていく音がはっきりと聞こえる。さっきまで歩いていた砂利道は川沿いの道と言ってよかったが今いるのは川の岸に本当に近い場所だ。足元の道は塗装されていないどころか雑草が伸び放題となっている。
「はい、ここ。このあたりがそうだよ」三佐崎喬は言う。短く、事務的に。
「この辺…ですか」周囲を見渡す。
「そう。じゃ、そういうことで。帰りは一人でだいじょぶだよね?」
「ちょ、ちょっと! 三佐崎さんっ」案内するだけ案内して即帰るつもりかよ。
「なに?」
「一応確認するから待っててよ」おれは肩にかけているバックを下す。
「なにあんた疑ってるの? 私の事? ちゃんと案内したっての」腕を組んでこっちをにらみつけてくる。いやただ見ているだけかもしれないが、なにせ目元が鋭いので。
「疑ってるってそんな……ちょっと確認するだけだってば」相変わらず全体的に当たりの強い人だなぁ、と思いながらおれはバックから器具を取り出した。
器具……対フェローズようの機会である委員会から配布されたビデオカメラを取り出したのだ。
「えーと、うおっ、確かに多いな! いっぱいいる」
カメラを周囲に向ける。画面には宙を漂う幾何学の浮遊体…フェローズの姿が映し出されている。いるのは一体二体ではない。十、二十……数十体のフェローズがこのあたりを彷徨っている。
普通だったらありえないことだった。
通常の発生範囲の中でもこれだけ出るのはあり得ない
限られた範囲でのフェローズの大量発生はここがショートスポットであることを示していた。
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