まぼろしのくに 4
局地的な電波障害の原因として委員会が調査の初期段階で発見したフェローズの存在は当時センセーショナルな注目を集めた。
人間が知覚出来ない領域の電磁波で構築されたボディを持つ謎の浮遊体…その体の波動が局地電波障害の被災地の様々な電波を妨害し、電化製品にも悪影響を及ぼしていた訳だが、もうそもそもの騒動の原因を突き止めることよりフェローズと名付けられたそれらの存在に世間の目は当然のように向かう事となる。
まぁそれも当時のことであり発見から七年も経った今となっては世間から注目度も大分落ちてはいるのだが。
ともかく、フェローズのような明らかに異常な存在を政府も放置している筈もなく、電波障害の対策委員会はフェローズへの研究と対策するための機関へとその役割を変えていくこととなる。
グループの皆と除去活動を行った翌日の月曜日。
おれは学校帰りに一人、いつもの帰宅ルートを少し外れて大学へと向かう。
市内にある県下唯一の公立大学――ここにこの地域のフェローズ対策委員会の支部がある。
委員会はフェローズへの対策に路線を変更した後、その各発生地域に委員会の支部を置くことを決定する。支部の場所として選ばれたのは大学に代表される教育機関がほとんどだった。
おれは大学の門をくぐり敷地内に入った。
除去活動に関わるようになってから何度かここには来ているが…やはり未だに大学という場所には慣れない。高校とはまるで雰囲気が違うと思う。私服姿の大学生達が行き交う学内をなんとなく居心地の悪さを感じながら早足で歩く。
大学の構内にいくつかある棟の一つ――C棟の中に入る。屋内に入ると居心地の悪さはいくらか軽減された。
C棟の二階にある実験室――ここがこの地域におけるフェローズ対策委員会の支部兼研究室となっている。
おれは引き戸を開けてその部屋の中に入った。
「失礼しまーす」学校の職員室にでも入るような心持ち。
実験室は結構広い部屋で、普通の教室を三つくらい重ねたくらいの場所だ。蛍光灯に明るく照らされた室内で委員会の職員の人々が各々の作業をしている。
ドアに近い位置ではスーツ姿の数人の職員が並べられたスチールの机に向かい椅子に腰かけながら事務作業を行っていて、その人たちに軽く挨拶をしながら部屋の奥の方に進む。
部屋の奥のスペースにはなんというか色々とごちゃごちゃとしたおれにはどういうものなのかさっぱり分からない機材と共に大きなモニターが立てかけられている。
そのモニターの方を見ている、白衣姿の女性の背中におれは呼びかけた。
「こんにちは、宜保さん」
宜保凱子。この人が僕達のグループ管理官で委員会に所属する研究者。フェローズ対策委員会には国の内外を問わず世界中から科学者、研究者が任意で参加しているらしくこの人もその内の一人だという。
「う~ん、白戸新平くん、かぁ…」そうダルそうに言って宜保さんはゆっくりとこちらを振り向いた。委員会に所属する前は海外の研究所で成果を出していた物理学者…なんて肩書からは想像しづらいほど若い見た目で、年齢は27だそうだがこの大学に通っている女生徒のようにさえ見えるほど。
「あれ、迷惑でしたか…?」一応昨日今日ここに来る連絡のメールは送っておいたはずけど、もしかしたら忙しい時に来てしまったのだろうか。
「うんにゃ、全然」首をふるふると横に振る宜保さん。毛先にカールのかかった長髪が揺れる。
「ただこいつらっていったいなんなのかなーと改めて思ってさちょうっと考え込んでたところに君が来たからさ」
宜保さんの後ろのモニター…声を掛けるまで見つめたモニターには十体近くのフェローズの姿が映し出されていた。
おれがまだ見たこともないやつも見たことがあるのもいたが形は違えど総じて奴ら特有の光線を針金細工のように編み込んだような、特徴的なボディの構成要素は共通していた。
「はぁ、なんなのか、ですか…」
「まぁほんとーに今更なハナシなんだけどさ。気になると考え込んじゃうのが私の癖でね」宜保さんは人差し指でモニターに映るフェローズを撫でる。
「電磁派のボディを持つ謎の浮遊体…発見からいままで国の内外の科学者が知恵出し合った研究してきて、分かったこともあるけど、まだまだよく分かっていないことの方が多い…ほんとなんなんだろうなー・・・って」
宜保さんはモニターから指を離した。
「さて、白戸新平くん…確か私に頼みたいことがあったのだったなキミは」
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