まぼろしのくに 3

 周りにいたフェローズを全て消去するのにそう時間は掛からなかった。

 「よし、これで終わりだね」最後の一体が除去装置により消失したのを確認し、おれは言う。

 「でも来週の今頃にゃ、また同じ感じで湧いてきそうだなこりゃ」ユートがカメラを下す。

 「別にいつものことでしょ」とカヤちゃん。

 「いやなんかキリがないと思ってな。トロ―感ってのがあるぜ」

 「まぁこうして消して回っていけば抑制にはなるし無駄ではないと思うけどね」マコト君がレポートをタブレットに記し終える。

 「でもさぁ、似たようなのじゃ結局そんな点数もらえないんでしょ?」気怠そうなハナさん。

 「いつも言ってるように僕はそういう点数狙いで活動するのはあんまり賛成できないんだけど…なぜならフェローズ除去活動の意義は第一に社会貢献だからね…まぁそうだよ。除去活動には研究のための側面もあるから既存の種類よりも新種の方が委員会からしたら評価は高いかもしれない。でも既存の種でも電波妨害の原因となっているのは間違いないし、地道に除去していくのはとても大切な…」

 「あー、わかったわかった」

 話が長くなりそうなのを察してかハナさんがマコト君の話をそこで遮る。

 「じゃそろそろ次行こうか」

 皆の様子を見ておれは言う。マコト君が言う事も一理あるが…今日の本来の目的は新種を求めて新しいエリアに調査の範囲を広げることである。

おれたちはぞろぞろと集団で動き始める。

 

結論から言うと俺たちはまだ探索していない範囲に行ったが新種を発見することは出来なかった。

「なかなか見つからないねー新しいの」カヤちゃんが嘆息する。

「やっぱりそんな簡単に見つからないよ。探索範囲をちょっと広げたくらいじゃね」マコト君が言う。

「ちょっと広げたくらいってさぁー、結構歩いてんじゃんあたしら」ハナさんの言う通りおれたちは結構な時間歩き回ったと思う。探索を始めた時はまだ正午過ぎくらいだったが今は街を赤く染める夕日が完全に沈もうとしているところだ。空が藍色に暗く変わっていく。

「と言っても所詮徒歩で行ける範囲じゃね。本格的に広げるなら車を使わないと…大学生のいるグループはそうしてるらしいし」

「高校生の限界か~」ユートがビデオカメラを片付けながら唇を尖らせる。

「まぁバスや電車を使えば僕達でもかなり範囲を広げられるだろうけど……そもそもその前に委員会に複数の区画を調査する許可を貰わなくちゃね」

「宜保さん、頼めば許可くれるかなー」とカヤちゃん。

「うーんどうだろう、それなりに実績を積めば正式な研究員じゃないボランティアでも許可をくれるという話は僕も聞いたことがあるけど」

「実績を積むために範囲を広げようって話なのにそれじゃ堂々巡りじゃねーか?」

うん、そうだね。だから僕としてはやはり既存の種類のモノでも地道に除去していくのがいいと思うよ、と不平そうなユートにマコト君は言う。

「じゃ、おれ、今度行って頼んでこようか」おれは言った。できるだけ普通に聞こえそうな声色で。いかにも今思いついたというような調子で。

「え?」誰かがそんな疑問詞を放って、一瞬、みんなの視線がおれに集まる。

「うん、おれが行って聞いてみてくるよ宜保さんに会ってさ」

「でも頼んでも無駄だと思うけどなぁ」腕を組むマコト君。

「それにシンへ―くん面倒じゃない?」首を傾げるカヤちゃん。

「いや別に? おれの家大学から割と近いの皆知ってるでしょ? そんなに手間かからないよ。それに今日結構除去したし、一回これのデータも渡していかなくちゃいけないのしさ」おれはユートが片付けてケースに入れられたビデオカメラを指差す。

「じゃ、そういうことで、明日にでも学校帰りに大学に寄ってみるよ」おれは若干一方的にそう言って話を打ち切った。


その後はみんなで駅前まで歩き、そこからは現地解散で各々バラバラな帰路につく

マコトくんは自転車が停めてある駅の駐輪所、ハナさんは駅から出ているバスのバス停、カヤちゃんはお母さんが迎えに来ているようで駐車場へとそれぞれ向かっていった。

おれとユートは路線は違うが電車に乗り帰るので、二人で駅の公舎の中へと入る。

「お前結構熱心だったんだな、この活動によ」

二人とも電車の到着まで少し待たなくてはいけなかったので改札口近くの待合室で時間をつぶしていると唐突にユートが口を開いた。

「なに? なんの話」

「さっきのことだよ。わざわざ大学まで聞きに行くなんてさ。随分真面目じゃんか」

「別に…ただ思いつきで言っただけで真面目とかはそんな」

「ふーん、でも今までお前そんな積極的に動かなかったじゃんこのボランティアでさ。やる気ないのかと思ってたぜ、俺と同じでさ」

なんか変な感じだ、と後ろの壁に寄りかかるユート。

「そりゃマコト君みたいにシャカイへのコウケンガ―とか言う気はさらさらないけどさ、一応自分で思いついたことやる位は変じゃないだろ……つーか、おれはともかくユートは補習絡みで除去活動に参加してんだからやる気だすべきだろ、嫌でも。そこは」

「いや俺めっちゃがんばってるしー? ……あ、ところでいきなり話は変わるんだけどさ」

「なんだよ、今度は」ちら、と待合室に備え付けられた時計を見る。まだ電車の来る時間ではない。

「お前、カヤに告られただろ」

「え? なんでそのこと知って…」

「おうー、マジだったか。当たりだ」ひゅぅ、と下手くそな口冷えを吹く。

「……お前、ブラフかよ、汚ねぇ」

「へへーん、引っかかる方が悪いんだよーだ。お前の様子は今日なんか変だったからな。顔見たら分かる。カヤは普通だったけど。怪しいと思ったらこれだぜ」

うーむ、おれは隠し事が出来ない体質なのだろうか、思わず自分の顔を手で触れる。

というかな、そんな重大な報告を大親友の俺様にしないとはどういう了見なんだってーの」

「隠そうと思ってた訳じゃないけど……カヤちゃんがみんなにはとりあえず言わないでね、って言われたからさ」

「ふーん、カヤがねぇ…で、どうすんの付き合うのか?」

「……今、考え中」

「考え中って、うなもん好きか嫌いかしかねーだろ、なにを悩んでんだ?」

「そんな単純にいくかよ」

「なんで嫌いなの?」

「もちろん嫌いではないけど…カヤちゃん結構可愛いと思うし……」おれはあのくりりとした目と愛嬌のある笑顔を思い浮かべる。

「でも付き合うって言ったらさ、色々考えないといけないだろ? そんな簡単に返事できないよ」先週SNSで彼女からの告白のメッセージが来て以来、返事は保留のままである。

「そんなもんかね…でもなるべく早めに返事しといたほうがいいぜ? 女心は変わりやすいって言うし? あんまり気持たせると向こうも冷めちまうかもよ」

「お前に女ごごろの指導される覚えはないが…まぁ前向きに善処しとくよ」

「んじゃ、それだけ聞きたかったから俺はもう行くわ。電車まだだけどソバくいてーから中入っとく」

そう言ってユートは待合室から改札へと向かう。

その姿が見えなくなってからおれははぁ、と息を漏らした。

付き合うとか付き合わないとか、好きとか嫌いとか、今は別にどうでもいいんだけどな。

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