第2話 常識は嘘!!

「先生! 短編を読んで下さい! 新作です!」


「俺じゃなくて投稿サイトに出せ!! 新人賞は、うん、短編を出すところがないからしゃあないが!!」


「とにかく読んで下さい! 自信満々、剣戟に力を入れたアクションものです! お願いします!」


「そこまで言われたら読むが…………」


「……………………」


「……………………」


「………………………………………」


「………………………………………助手よ」


「はい!」


「この日本刀についての記述だが…………」


「……い、いやな、よか――」


「日本刀は片手で斬れるぞ」


「……………………………うそだああああああああ!!」


「嘘ではない! 貴様は、取材を怠ったのだ!」


「嘘、嘘、嘘、だって誰も彼もが言ってるじゃないですか!! 日本刀は両手で持つものだって!! 引いて切るものだって!! 西洋の剣とちがって叩き切るものではないって!!」


「いいか!!」


「は……はい……」




         「常識だと思ってるものこそ取材せよ!!」




「じ、常識だと思ってるものこそ、取材せよ……」


「人間、恐ろしいのは思い込みだ!! 司馬遼太郎が史実を書いていると思ったり、銃を撃ったら薬莢も飛んでると思ったり、新人賞を受賞したら作家になれると思ってたらレーベルが潰れたり!!!!!!!」


「最後にいきなり怖いことぶちこんでこないでください!!」


「うむ、いまのは余計だったな!! しかし、大事だぞ!! 死ぬほど大事だ!! みんなも賞に応募する際はどこにするか慎重に選ぶんだぞ!!」


「話を戻しましょうよ! 先生、常識だと思ってるものこそ取材せよ、とは?」


「そのままだ。お前、日本刀は五キロ近くなんてないよ。引いて切る、なんて面倒なこともしない。いいか、よく考えろ。両手で振り回さなくちゃあいけないほどに重く、引いて切るなんて面倒なことをしなくちゃいけない武器がなんで普及するのだ」


「なんでって……」


「疑問に思ったことはないだろう。危険なのだ、そういうのは。

 常識だと思っているから、編集なんかも素通りしてしまう可能性はある。もしかしたら読者も気づかずに結果オーライなんてことになるかもだが、間違った描写をするというのは作家的に大ダメージ。頭抱えて悶えてしまう」


「どうすればよかったんですか、先生……。そういうのは……」


「取材せよ! それだけだ!」


「で、でも先生、取材なんて簡単じゃありません! なにせ時間がないです!

 あってもそんな、専門家を探して、お話してだなんて、なにからどうすればいいのかさっぱりです! 日本刀を試しに振ってみるなんてできないじゃないですか!」


「そこまでせんでいい! いや、必要だと思えば力の限り取材をすればいいが、果てがない! 必要最小限のことだけを調べればいい!」


「必要最小限ってどのくらいですか!」


「今の時点から一歩だけ踏み込む! 心構えとしてはそんなものだ! 助手よ、お前、日本刀は片手で使えないと信じ切っていただろう!」


「はい!」


「そこで自分自身に聞くのだ! その証拠はあるのか、証言はあるのか、と!」


「証拠はあるのか! 証言はあるのか!」


「疑念を持て! そして、考えろ! 考えたら少し先が見えるはずだ!

 例えば、両手持ちで、なんか特殊な振り方しないと切れないって、ただのなまくらじゃないかと!」


「あ、ああ、たしかに……なまくら! くそ重くて、特殊な振り方しないと切れない刃物なんて、なまくらだ! 実用性がない! 欠陥品だ!」


「本でもネットでもなんでもいいから調べてみるのだ! 深くではなく、浅くでいい! その一手だけで、作品にリアリティが生まれてくるのだ!

 ちなみに、剣術の師範代が日本刀を片手で使っている姿が動画サイトに転がっているぞ。興味があったら見てくれ」


「うぅ……、なんて、なんてまともなアドバイス……。このシリーズ、熱血パロ漫画家漫画を読んだ勢いで始めたのに、普通に大事なことを書くなんて……」


「それともう一つ!!」


「もう一つ!? まだあるっていうんですか!?」


「これは次の機会に言おうか……」


「な、なぜなんですか!? いま言ってくれてもいいじゃないですか!」


「一話に語るテーマは一つ! でないとゴチャゴチャしてしまうからな! 別々のテーマをまとめ詰め込んだら、読み返すのに面倒だ!」


「知りたいことを探すのにも不便ですね……」


「というわけで、今回はこれで終わり。ではな!」

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