燃えよキーボード
小川じゅんじろう
第1話 地の文!!
「ジャンル創作論とあるが参考になると思うなよ!!」
「いきなりわけわからんことを言わないでください!! 先生、それよりも早く、地の文を教えてください! 地の文を!」
「地の文! それは、会話文以外のものを指す!」
「そうではなくて、地の文をどう書けばいいんですか! ネットでは会話文ばかりなのはダサい、もっと地の文に力を入れるべきとかなんとかあるじゃないですか! やはり、そういう意見を――」
「うっっしゃあああああ!」
「あうぅ! な、なぜ殴ったんですか!?」
「殴ってはいない! 頬を殴り抜ける寸前、お前は首をひねった! そして俺の拳はかすめたりもしなかった! 殴ってはいない!」
「奥歯がグラグラするんですけお……」
「いいか! お前に言っておこう!」
「な、なにを――」
「ネットの意見に振り回されるんじゃあない!!」
「え、ええ!? ど、ど、ど、読者の意見は取り入れるべきじゃあないんですか!?」
「そいつらはお前の読者ではない!! お前以外の読者でもない!!」
「ど、どういうことですか先生!!」
「地の文が多いものも、少ないものも、同じくらい世にはある! なのにそういうことを言うのは、ただたんに読もうとしてないからだ! 未来永劫、読者になることはない!」
「そこまで言います!? アニメ化とか、実写化とかしたら、話は変わるかもですよ!?」
「夢みたいなことを言うな!! 言うなあああああああ!!」
「……はい」
「だいたい、地の文が多かったら、どうだというのだ」
「そ、それは……」
「地の文が少なかったら、どうだというのだ」
「お、多かったら、描写も説明も増やせます! 具体的に、どういう情景なのか、どういう匂いがするのか、どういう色なのか、たくさん書けます!」
「ほお。つまり、読者に完璧にお前のイメージを、伝えられるということか」
「はい!! そのとおりです!!」
「――――作家と読者がイメージを共有させることなどできるかぁ!!」
「できないんですかぁ!?」
「当たり前だ! そんなものはテレパシーの領域、俺たちに超能力はない! どれだけ懇切丁寧に説明したところで、イメージは伝わらん! 読者は作者の投げたボールを受け取るが、想像は多種多様だ!」
「じゃあ、地の文はまったくいらないんですかぁ!?」
「いいや、必要だ。ここは――どこだ!」
「こ、ここですか? 先生の家ですけど……」
「嘘をつくなぁ!!」
「ええええええ!?」
「ここは俺の家などではない! 鄙びた商店街にある雑居ビルの三階だ!」
「い、いやいやいや、一軒家じゃないですか! 都会の住宅街にある一軒家! その二階にある先生の書斎、仕事場ですよ!」
「男が嘘をつくなあ!」
「私は女ですよおおお!」
「――と、このように、地の文がなければ嘘八百並べても通じてしまう。例えば、実は俺達は台本を読んでいるだけなんだが」
「早速、嘘をつかないでくださいよ! そんなものはありません!」
「はいはい。とにかく、こういうふうに会話文だけでは情報が読者に伝わらん。そのためにも地の文が必要なわけだな。大事な情報を伝えたり、逆に隠すことで読者を騙すことができる」
「この会話だけだと人間ではないかもとか、そういう可能性もありますね……」
「うむ。で、話を戻すが、地の文を多いか少ないかで考えるのはよせ。そんなもの作風によりけりだ。ここにこの描写、この説明がいるとなったら入れる。会話文がほしいとなったら入れる。そういうものだ。決して、多いか少ないかではない」
「も、もう少し、具体的なアドバイスはないんですか……?」
「そうだな。キャッチーな会話劇、例えばボケと漫才をさせたいんだったら会話文を多めにする。推理ものなどで思考を深めてなにかを探るようなら、会話文を最小限に控え、場面転換のために挿入する程度にするなどかな」
「本当に普通のアドバイスがきた……」
「ほかには、そうだな。地の文は、雰囲気作りに役立つ。例えば中二病というか高二病というか、そういう読者を対象にするとなると、いわゆる堅い文体にするというのがある。難解な漢字、聞き覚えのない漢字をぎゅうぎゅう詰めにし、ひらがなとカタカナがほとんどねーぞ、みたいなやつだ」
「あー、漢字の使い方ですね。漢字をひらく、とか言うやつ(ひらがなにする)」
「漢字ばかりだとページが真っ黒になるからな。しかし、このページ真っ黒の漢字ぎゅうぎゅう詰めが大好きというのもいる!! これは好みだ!! 得手不得手ではないのだ!!」
「そこ大声で叫ぶところなんですか!?」
「叫ぶところだ!! ほかにも『笑う』という言葉を『綻ばす』『哄笑』『爆笑』『ほくそ笑む』などなど類語に置き換えたりして雰囲気を作るのもありだ!!」
「雰囲気ですか!!」
「あとは地の文にも!! エクスクラメーションマークを!! 挿入して!! 勢いを!! つけるのも!! ありだ!!」
「なんでもありみたいですね!!」
「な! ん! で! も! あ! り! だ! 究極的には!」
「それなら、
た
と
え
ば
こんなのもですか!?」
「場合によるが、かまわん!!」
「ならば
空白を入れるのも!」
「もちろんだ!!」
「どんなこともありなんですか!!」
「そうだ! しかし、しかしだ、俺たちが思いつくことは、先人がやり尽くしているといっていい!」
「で、では、後追いになるだけなんですか!?」
「それはお前自身が決めることよ!!
何事も試さなければ、真似にもならん!! 新しくもならんのだ!!
だが、一つ言うとしたら!!
恐れるな!!」
「恐れるなとは!?」
「変なことをしようとすると、まず編集に嫌な顔をされる!! 校正も面倒だろう!! ページをネットに上げられて『最近のラノベぷぎゃーw』なんてされるだろうが、無視しろ!!」
「無視!」
「まともなものを書けと言われるだろうが、無視だ!! アドバイスめいたものを送ってくるやつもいるだろうが、無視だ!! ネタ帳にでも突っ込んでおけ!! お前のことを散々に、けちょんけちょんにけなすやつのために書くな!!」
「だ、誰に……?」
「お前の読者にだ!!
それっぽいことを言ったところで終わり!!」
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