第14話 無限と零
――煌華学園 グラウンド――
「リョーヤ!!」
「いい加減、お前の攻撃パターンには慣れた!」
俺は刹那で氷の障壁を背後に生成し、爆炎を防いだ。爆炎は障壁沿いに広がり、熱風が吹き荒れた。
「バカな、防いだのか!?
けどタイミングは完璧やったはず―――」
「お前の爆発は俺の背後で起こることが多かったからな。それを元に予測できていたから防げたんだ。」
あり得ないとばかりにデルバードは首を振った。悪いな、相手の傾向を読むのは得意なんだよ。
「さてと、足元のユリといい医務室爆破といい、散々やられたお返しをしないとな。」
ミステインを拾い上げ、氷翼を大きく広げて攻撃の体勢に入る。
「今度は翻弄されてないからな!
反撃開始だ!」
「……へぇ?」
俺は広げた翼を大きく羽ばたかせると、冷気の暴風を起こした。グラウンドの周囲に生えた木の枝が揺れ、葉が舞い飛んでいく。
「おぉ!?」
デルバードが風圧でよろめきそうになりながら火球を放った、が俺に届くことなく全て消えてしまった。
「どうなってるんや!」
「俺の周りだけ冷気と風の影響で温度が極端に低くしてるんだよ。多分氷点下20度近くかな? お陰で寒いけどな。
つまりだ。そんな寒い所に火球を飛ばしてくりゃ、向かい風と発火点以下の温度でさすがの炎も消えるだろうさ!」
発火点とは言っても、何を燃やしているのかは分からないけどな。でもこれは小中学生でも分かる原理だ。
「こいつむちゃくちゃや!」
「こんなんでむちゃくちゃとか言うなよ?
まだまだこんなもんじゃないからな!」
武蔵よりかは随分戦いやすい相手だ。攻撃傾向も読めてる分、この勝負は俺の方が有利に進められる!
「行くぞ、エセ関西人!」
氷の槍をできるだけ大量に生成し、デルバードに掃射した。
対するデルバードは炎の壁で防ごうとするも、吹き続ける暴風の影響で上手く防御できないようだ。何発かが壁を貫通していくのが見える。
「調子に乗るなや、このクソ野郎!」
デルバードは悪態をつくと両手を地面についた。
なるほど、分かりやすい攻撃だ。避けられない方が恥ずかしい。
俺は飛んで地中からの爆発をかわそうとしたが、飛び上がった頭上から赤い光が差してきた。
「ヤべ―――っ!」
赤い光が走った刹那、爆炎が頭上で炸裂した。衝撃でめまいをおこし、吐き気を催した。
こんな別の意味でわかりやすい攻撃を受けるなんて―――
「クソッ! 油断した!」
どうにか体勢を持ち直し、今度は
「貫け、ゲイボルグ!」
投擲されたケルト神話の伝説の槍の名を冠した氷の槍は、目にも留まらぬ速さでデルバードに向かっていく。
「まだやられんわい!」
周囲で数回爆発が起きたが、ゲイボルグは進路を変えることなく直進していった。
「なんやあの槍!?」
標的のすぐそこまで迫るとゲイボルグは分身を自動的に生成。大量の刃となって降り注いだ。
デルバードは炎の壁で何とかカバーしようとしているが、脇腹や腕、太ももなどに深い傷が刻まれていく。
「こ、の……」
ゲイボルグがデルバードを襲っている間に背後に着地すると、剣身を冷気で覆い真技を発動した。
「〈
冷気が猛烈な暴風となり、デルバードの背後から襲いかかった。
「――――――!」
声を上げる間もなくデルバードは氷結していった。
終わったように見えたが、デルバードは自力で身体を覆っていた氷を砕くと、火球を撒き散らした。
「あいつ……意外としぶとい!」
氷の障壁を多重展開し爆発を防いだ。かなり広範囲に飛び散ったようだが、ユリは大丈夫か?
ユリの方を振り返ると、どうやら火球は命中していなかったようだ。が、まだ起き上がれる様子ではない。
「ええかげんにせいこの野郎! 肉片一片たりとも残しはせんわぁ!」
一方的にやられてたのが癪に障ったのか、怒鳴ったデルバードはメイスの先に極小の火球を生成した。あんなので攻撃するつもりなのか?
「〈
そう言うと火球を飛ばしてきた。こんなもの簡単に防げる―――
そう思ったのが間違いだった。火球はその大きさに見合わない威力の爆発すると2つに分裂、さらに爆発し今度は4つ、と数を増やしながら爆発の連鎖を紡いでいく。
「ぐっ!――あ゛ぁぁ!――がはっ!!」
爆発の熱が毛を焦がし、皮膚を焼いていく。それに数が増えていくに連れ威力も増してきているようだ。どうにか出ようにも追尾してきてすぐに追いつかれる。なんだこの技は!?
デルバードは高笑いすると、自らの真技の特性を自慢気に語り出した。
「あっははは! どうや、ワイの真技は?
そいつらは延々と爆発を繰り返していく特別な火球や。数も理論上は無限に増えていくから、囚われたらかなり危険やで?
ちなみに時間で消えるが、その間ワイも制御できひんからな?」
なんだそれ、もはやチート技だろ!
何とか結界を張ったが、一瞬でヒビだらけになってしまった。
なにか対策は……そういえばあいつ「無限に増える」って言ってたな。
〈無限に増える〉のなら、もしかしたら〈すべてを止める零〉で……っ!
結界を敢えて弾けさせ、衝撃で火球の連鎖が弱まったところから脱出すると、火球の群体を極厚の氷の監獄で閉じ込めた。
「これは返す!」
監獄をデルバードの直上まで移動し静止させた。デルバードの気が俺から逸れた瞬間に懐に入り込む。
「終わりだ、デルバード!」
「しまっ―――」
気付いてももう遅い!
周囲に霜が降りるほどの白い凍気をミステインに纏わせ、〈
「〈
渾身の力と凍気で斬り上げ、ビル3階にも匹敵するほどの白く輝く塔をデルバードの足元から出現させた。
「うぉぉぁぁぁああああ!!!」
断末魔の叫びを上げたデルバードは、氷点下270度近い塔の中に巻き込まれていった。あれではもうなにもできないだろう。
〈
絶対零度ならさすがに止まると思ったけど、なんとか成功してよかった―――
真技発動の反動による極度の疲労感で倒れそうになったところを、ユリが支えてくれた。
「お疲れ、リョーヤ。」
「サンキュー、ユリ。
もう動いても大丈夫なのか? あんなボロボロで倒れてたのに。」
「爆発の衝撃で倒れただけだったから大丈夫よ。ていうかそのセリフ、今のリョーヤには言われたくないよ?」
「あはは……違いないな。
でも支えはもう大丈夫だよ。ありがとな?」
ユリは「うん、分かった」と言ってゆっくり俺から手を離した。巨塔からの凍気で寒いようだ、腕を擦りながらさっきの真技について訊いてきた。
「リョーヤ、あの技も真技なんだよね?」
「あぁ、そうだよ。〈
〈
「そうなんだ……。
なんかもうリョーヤが別次元の人のように見えてきたよ。」
「あはは……」と苦笑しながらユリがそんなことを言ってきた。
「? どうして?」
「だって、真技を2つ以上使える人って《
しかもこんな大規模な技を、食べたもので得たエネルギーだけで繰り出せるって……凄いなんて一言で言い表せないくらい凄いと思ってね。」
……食べたもののエネルギー……か。
たかが数百キロカロリー程度のエネルギーで、
「なぁ、ユリ?
俺達は本当に、食った物のエネルギーを利用して、こんな異能の力を使いこなしてるのかな?」
「……いきなりどうしたの? そんな難しいこと考えるなんて、リョーヤらしくないよ? 頭でも打った?」
「普段から俺が単純な思考で生きてる、みたいな言い方された気がするが……
ま、確かに俺らしくないかもな。」
「うん。今さらだけど援軍も来たみたいだし、リラックスしよ?」
そう提案してきたユリの視線の先には、校舎から走って向かってくる教員とアッシュさんがいた。
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