第3話 動機と銀氷の剣士

――煌華学園 第2アリーナ――



 俺とユリ、リンシンの試験は無事終わり、いよいよアラムの試験が始まろうとしていた。アラムはサーベル型の《創現武装》であるナザロートを召喚し構える。


『1年武術A組 アラム・カシヤノフを確認しました


 それでは試験を開始します』


 ブザーが鳴り、試験が開始された。


「さて、それじゃあいくよ!」


 アラムはナザロートを炎で包み、アンドロイドに向かって駆け出す。


 アラムは剣術に優れている、が能力の制御はユリに劣っている。つまり、特訓でアラムがやっていた鍛錬は、シンプルかつ基礎的な―――


「能力を自在に操る、ただそれだけだ。」


 俺はボソッと呟いた。


 アラムはアンドロイドを首を積極的に狙ってナザロートを振るが、対するアンドロイドはギリギリでかわしていく。ただ、アンドロイドの方もかわすのに精一杯で、積極的な攻撃は出来ないようだ。


 そういえば、この試験で使われている敵役のアンドロイドはかなり作り込まれているようだ。機械だということを、モーションシルエットだけ見ていればつい忘れそうだ。


「入った!」


 ついにアラムがアンドロイドの首を焼き切り、勝利した。が、アンドロイドに見とれていてアラムの動きをよく見てなかった。……まぁいいだろう。事実、10秒しか経っていないのだから上出来だ。


「どうだいリョーヤ? 僕もやる時はやるだろう?」


「おうそうだなよかったよ」


「なんか、棒読みされた気がしたけど、まぁいい。


 この試合、華麗に勝利した方の勝ちさ。」


 いや試合じゃないし、そもそも華麗に勝利してもタイムは俺の方が早いし。……もういいや。


 試験が終わった人から順次解散というシステムらしい。俺達の前に試験を受けていた生徒達は大半が既に帰っていた。


 俺達は一応ちゃんとアラムが戻ってくるのを待ってから帰ることにした。


「どうやら結果は明日の朝発表らしいから、今日はもう飯食って寝ようか。」


「そうね、そうしましょう? 今日はカルボナーラにしよっかなー。」


「……リンゴジュース。」


「僕は今日はアップルパイにしようかな。リンシンも一緒にどう?」


「……邪道。」


 入学して1か月、このメンバーにもすっかり慣れたな。他愛もない会話をする面々を横目に、俺は少し嬉しい気持ちになっていた。




 東京にいた頃の俺は、友達と呼べる人はほぼいなかった。理由は明白、自覚できるくらいかなり自己中で、少し傲慢な所があったからだ。


 中学3年で能力に目覚めてからは、周囲に「こいつに近づくと風邪ひくぞ」「うわっ今日寒いな、お前のせいだろ?」「冬に冷房つけんなよ! あ、坂宮か」なんてよく言われてたな。


 そんな中、ずっと俺の味方でいてくれたのはアキだけだった。俺がどんなにいじめられてもいつも慰めてくれた。


 それに加えて俺の性格を直すのも手伝ってくれた。おかげで自己中なのは少し改善されたかな。


 そして何よりも―――


「リョーヤの氷、私は好きだよ? 見る角度を変えると、ところどころ虹色になってさ、キラキラしてて素敵じゃん?」


 俺はいつしか言われたその言葉がすごく嬉しかった。誰かに認められることがこんなにも嬉しいことだったなんて、そう思った。


 だから俺は煌華学園の入学が決まった時、心に誓った。《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》で優勝すれば、アキが褒めてくれた俺の氷が世間で認められるようになる。そのために俺は頑張るんだ、と。


 小さい頃にとっくに辞めていた古流剣術だって、優勝するために入学直前までもう一度教わってた。


 アラムに剣術をしていたことはバレたけど、最近までやっていたことは看破されなかったな。昔教わっていた程度で今も鈍ることなく剣を振れる、なんてことは不可能に近いという考えに行き着きそうなのに。




「ん? リョーヤ、どうした? 行かないのか?」


 昔のことに思いを馳せて足を止めていた俺に、アラムが声をかけてきた。


「ああ、悪い。ちょっと考えごとしててさ。」


「なんだよ? ユリのことか? アツアツだもんな?」


「はぁ? んなことじゃねーよ、バカ。」


 俺はアキと同じように、軽蔑せず普通に接してくれるこいつらのことを、結構気に入っている。




――煌華学園 武術科棟――



 ―――翌日。


 昨晩の試験によって俺たちの順位が決定したらしい。先生が下位から読み上げていく。


「中澤優美さん、117位

 ユリア・ニールバードさん、100位

 フランチェスコ・ダグネスさん 84位

 ―――」


 あの試験でアンドロイドに負ける、もしくはタイムアップになった人は技術や戦法、能力の才能で90位以下でランク分けされるらしい。


 ちなみに90位以下のほとんどは技術科の生徒だ。霧峰さんいわく、たまに60位ほどに食い込む生徒もいるようだが、技術科の生徒は基本的にランクは気にしていないらしい。


「―――位

 エレーナ・クリカレフさん、47位

 白林杏さん、47位

 ―――」


 リンシンは俺たちと比べて少し低いようだ。まだまだ伸びしろはある。大丈夫だ。


「―――位

 リー・ファン・ミンさん、24位

 城崎百合さん、24位

 ―――」


 約15秒で試験を終えたユリですら10位入りしなかったのか。これは俺も10位以内に入れるかどうかだな……。


「―――位

 アラム・カシヤノフさん、11位

 坂宮涼也さん、9位


 ……え?」


 え? 今何位って言われたんだ俺?


「坂宮さん?」


「はい?」


「……ズルしてませんよね?」


「してませんよ!」


 船付先生が目で何度も手元の資料と俺を往復する。先生自身も結果に驚いているようだ。


 先生は軽く咳払いすると―――


「えっと、い……以上です。


 なお、10位以内の生徒は通り名の登録が出来ます。生徒手帳のホーム画面にある名前欄に追加で書き込むことが出来ます。」


「何度も変えたりできますか?」


 一度決めたら変えるつもりはないが、一応訊いてみた。


「いいえ、一旦登録した名は、仮にランクが落ちても卒業まで使われます。」


 なら慎重に決めないとな。


 早速訓練までの休み時間に考えることにした。なんだか見物人も多い気がするが……。


「《氷刃》とかは?」


「なんか単純だな、もう少し長くてもいいかな。」


「《煌めく氷原の剣》とかどうだい?」


 いや、さすがに長すぎるだろう。俺は首を横に振って否定した。そういうのは真技の名として付けるべきだろう


「ちなみに1位のアッシュさんはどんな通り名を?」


「たしか……あっ、これこれ。」


 ユリが生徒手帳に映されたランキングを見せてきた。


「《深海の竜レヴィアタン》か……。」


 旧約聖書に出てくる海の怪物だ。ということは水関連の能力の持ち主なのだろう。


「えっと……《銀氷の剣士》なんてどうかな?


 ミステインの白銀とリョーヤの氷の白銀をふまえて作ってみたんだけど……変かな?」


 ユリが自分のネーミングセンスに少々自信ないといった感じで提案してきた。


 なかなかに良さそうだ、と言おうとしたが―――


「お! いいじゃんそれ!」

「私もいいと思う!」

「《銀氷の剣士》で決定だな!」


 取り巻きがこうなってはなかなか却下できないだろう。元々却下するつもりは無かったが。


「うん、いいと思う。ありがとうユリ。」


「どういたしまして!」


 ユリは満足気に笑って返した。俺は生徒手帳に入力し、決まった通り名を登録した。


「《銀氷の剣士》誕生おめでとう!」


 なんだか知らないけど祝われた。かなりこの状況は恥ずかしい。


「やめてくれよ、改めて言われると少し恥ずかしい。」


 リンシンが俺の顔を覗いて一言。


「……照れてる。」


「照れてねーよ!?」


 教室でどっと笑い声が上がった。


 その時、教室にあった全ての生徒手帳にメッセージが入った。


「『《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》煌華学園予選の組み合わせ発表のお知らせ』?」


 開いてみると、詳細が記載されていた。添付ファイルもあるが、これはトーナメント表だろう。


『《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》煌華学園予選のトーナメントが発表されましたので、ご確認ください。


 なお12月開催の本選には、各トーナメント優勝者が代表として出場することとなります。


 トーナメントは全部で4種類あるので、自分の対戦相手と競技順の把握をしておいてください。』


 なるほど。つまりはいくつかに独立したトーナメントの優勝者の連合チームで修帝と戦うのか。


 添付されていたトーナメント表を開き、自分の名前を探した。


「えっと、俺は……おっ、第4ブロックか。」


 どうやらいつも訓練を一緒にしているメンツの誰とも被らなかったようだ。ただ……初戦の相手がまずかった。


「おい、マジかよ。」


「リョーヤ、どうしたの?」


 ユリが俺の血の気が引いたであろう顔色に気づいたらしい。心配そうに声をかけてきた。


「俺……いきなり初戦から格上だわ。」


「格上? まさかそんなこと―――」


 ユリも俺の初戦の相手を見て、表情が固まった。どうやら言いたいことは分かったらしい。


「だ、大丈夫よ。リョーヤなら勝てるよ!」


「そ、そうだな。俺ならできるよ……な。」


 その相手がこの間食堂で会った、校内ランク8位のカレン・ローレンスであっても。

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