第11話 友人と学園生活の幕開け

――煌華学園 学生寮――



「あーーー、疲れた!」


 今日は疲れた。風呂から上がった俺はベッドにダイブした。


 思えば、午前中はいきなり今後の方針の変更を一方的に告げられて、全く話したことないクラスメートとチームを組んだんだよな。


 そしてわかったことが少なくとも1つある。


「あいつら、思ってたよりもかなり強いな……」


 はっきり言って、ここの生徒のレベルを甘く見ていた。俺ぐらいのレベルなら《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》優勝なんて目と鼻の先にあるも同然だ、とでも言わんばかりの心持ちでいたのが間違いだった。


 能力はその人の食で得たエネルギーを消耗していくのだが、予想外にも今日の俺はかなりエネルギーを消耗した。今日の夕食はカツ丼にしたが、実はもう1杯は完食できそうなくらい胃に余裕がある。


 つまり、それぐらいエネルギーを消費するほどあの3人―――アラムとリンシン、そしてユリは強かったのだ。


「とりあえず一度整理しよう。」



 まず最初にアラムだ。まさかアラムがロシア帝国時代の特権的武装集団、コサックに関係する家系だったなんて予想外だった。それに剣さばきも侮れないことはよく分かった。


 加えて《超越者エクシード》としての強さもある。業火を出せる人なんて、そうそういないだろう。今後要注意だな。



 次にリンシン。彼女は柳葉刀の扱いに優れている。俺の氷の監獄をあんなに簡単に砕くなんて……。予測はしていたものの、確率は低めにとっていたからな。本当に破られた時は正直ビビったな。


 ただ、彼女は少し武器に頼りすぎている側面がある。本当の意味で武器の長所を活かしきれていない。もし活かせたら、俺は終始防御に徹することになりそうだ。



 そして最後にユリだ。多分彼女はあの中で1番、能力の才能があるだろう。炎を意のままに操って幻獣を生み出し、操作型リモート自律型オートかは分からないがお互いに連携をとらせる。並の《超越者エクシード》では出来ない芸当だ。


 彼女に教えられることといえば、1対1の接近戦で戦う方法ぐらいだ。あの幻獣を用いた能力戦は……教えるとしたらアレ・・ぐらいか……。



「これから大変だな。」


 振り返り終え、頭と体を休ませていると、部屋のチャイムと同時にドアがノックされた。アラムだろうか。もしそうなら、お互いのことを色々と話してみたいな。


「はいはーい。」


 そう言ってドアを開けると―――


「うう、リョーヤ……」


「え、ユリ?」


 ドアの前には、また寝巻き姿のユリが立っていた。その目が潤んでいるのは、何かあったのだろうか。さすがに悪夢を見たとかじゃないだろうけど……。


「また来たんだよー、メールが。」


 どうやら悪夢ではなさそうだ。俺はとりあえずユリを中に入れると事情を聞いた。


 それによると、食堂を出たぐらいの時間に昨日届いた例のメールと全く同じ文面のメールが届いたらしい。


『今夜あなたの元に行きます。待ってて下さい。』


「本当に心当たりないんだな?」


「無いってば!」


 ユリは全力で否定してきた。これはもう先生に報告した方が良いだろう。


 そう思ってると、またチャイムが押された。この部屋は人が集まるような魔法でもかかってるのか?


「はいはい。今開けます。」


 ドアを開けると、そこにはショートカットでスレンダーな、見知らぬ女子生徒がジャージ姿で立っていた。


「えっと……どちらで?」


「ここに、城崎百合さんはいますか?」


「っ!?」


 なぜここにユリがいることを知っているんだ!? まさかこいつが―――


「お前があのメールの送信者か!?」


「え、ユリに送ったメールのことですか? ならそうですよ?


 1年技術A組の霧峰 京です。」


「え!? きょーちゃん!?」


 相手が名乗るなり、ユリが部屋の奥から出てきた。どういうことだ? 知り合いなのか?


「あ、ゆりっちー!」


 霧峰京は俺の横をすり抜けて部屋に不法侵入すると、奥にいたユリと抱き合った。どうやら本当にユリの友達らしい。


「久し振りだね! 小学校以来かな?」


「うん! 大きくなったね!


 でもどうしてこの部屋に私がいるって分かったの?」


「えっと……入学式の日、グラウンドでそこの人が決闘試合をしてたじゃん? その時にゆりっちを見かけたんだけど、終わったらすぐにいなくなっちゃったから見失っちゃって。


 部屋に行くよってメールしたのに部屋にはいないし。


 だからあたしの《因果干渉系》の能力を使って、今夜ゆりっちの行く可能性の最も高い場所を計算したら、ここにいる可能性が高いってなったわけ!」


「えっと……ちょっと待ってくれ?」


 俺は頭の中で状況を整理した。もう何が何だか……。


「要は、あの不穏なメールの送り主はキミ――霧峰さんで、2人は実は古い友人だったと?」


「不穏なメールっていうのはよく分からないけど、まぁそうだよ?


 ゆりっちとあたしは小さい頃からの友達なの!」


 俺はユリに視線を向けた。結局知り合いだったじゃないか。ユリはそっぽを向いて知らんふりをしている。


 まいっか。何はともあれ、メールの送り主が不審者じゃなかったんだから、それが分かれば十分だ。


「友人なら良かった。


 そしたらユリを部屋に帰してやってくれるかな? どうも同じ部屋に女子がいると思うと寝れなくてさ。」


 すると霧峰さんは「何言ってるの?」と目で言ってきた。何って、なんでしょうか?


「あたしもここで寝るよ?」


「……はい?」


 すみません、突発性聞き間違え難聴を発症しましたぁー。


「だから、ここであたしも寝るよ? 帰るのめんどくさいし。」


「……はい、分かりました。」


 押し切られるようにして渋々了解した。もうどうとでもなれ。


 寝る直前――結局俺はまたイスで寝る羽目になった――アキにこのことをメールで伝えると、ドクロマークの絵文字と一緒に『リア充死すべし。』なんて返ってきた。俺だって望んでこうなったわけでは無いのに……。


 はた迷惑な2人の宿泊客のせいで、その晩はよく寝付けなかった……。




――煌華学園 武術科棟――



 ―――翌日。


「おはよーっす。」


 昨晩のことで若干の寝不足があったとはいえ、さすがに3日目ともなると余裕を持って教室に入れた。が、それはそれで朝から疲れる原因となった。


「ねぇ坂宮くん! 私に剣術を教えて!」

「おい坂宮、どうやったら能力をそんなに自由に使えるようになるんだ?」

「坂宮くん、結婚して!!」


 今の3人目は誰だ!? 俺さらっとプロポーズされたよな!? てか、そろそろ3人目おかしいシリーズやめないか!?


「えっと、順番に頼むよ……?」


 俺は何とかクラスメートを落ち着かせ、個々に簡単なアドバイスをしていった。その一方でユリとリンシン、そしえアラムはのんびりその様子を傍観しているようだった。


「リョーヤ、大変だね。」

「……人気者。」

「僕には誰も寄らないのに、なぜキミだけみんなが寄ってくるんだい!?」


 なんかもう、どうとでも言ってください。俺はこのままだと精神的に疲労して死にそうだ。


 やがてチャイムが鳴り、船付先生が入って来た。


「おはようございます。


 今日は午前の訓練の前に、皆さんにお知らせがあります。」


 先生はそう言うと電子黒板に、来月――5月のカレンダーを映した。


「《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》の煌華学園予選の開催日が決定しました。開催は今から約2ヶ月後、5月25日です。」


 2ヶ月か。能力や剣術の調整をするには十分な時間があるな。俺も能力だけじゃなくて、そろそろ師匠に教わった技を練習しようかな。


「皆さんの健闘を祈ってます。それでは今日の訓練はグラウンドなので、素早く準備して集合してください。」


 船付先生はそう言うと先にグラウンドに向かっていった。


「ねぇねぇリョーヤ。」


 クラスメイトが続々と教室を後にする中、ユリが声をかけてきた。


「これからもよろしくね!」


「おうよ!」



 こうして俺の――俺達の波乱の煌華学園生活が始まった。

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