第2話 到着と出会い

――洋上学園都市 ヒースネス――



「ここがヒースネスか。」


 羽田空港を出発した飛行機は無事定刻通りにヒースネスに到着した。


 俺を含めた乗客は飛行機に接続されたタラップから空港の滑走路に降りていく。


「やっぱり、少し暑いな。」


 羽田空港から飛行機で約2時間、ひたすら南に飛んだ海の上にある人工島だ。


 つまり赤道も近いというわけだ。そりゃ暑くもなるか。


「きゃっ!」


 不意に背中に誰かがぶつかった。倒れそうになるのをこらえて振り返ると、白いワンピースを着て麦わら帽子を被った少女が尻もちを付いていた。


「だ、大丈夫ですか?」


「すみません、帽子深く被ったら前が見えなくて……」


「いえ、気にしないでください。俺もぼーっとしてたんで。」


 手を差し伸べ、立ち上がるのを手伝った。


 立ち上がったその少女の顔を見るとなかなかの美人だった。髪は栗毛のストレートヘアで瞳は濃い茶色。ルックスだけで見れば好みの方だ。


「あ、あなたも1年生ですか?」


 思わず訊いてしまった。ナンパだと思われないだろうか……。


「はい、煌華学園武術科1年の城崎きざき 百合です。」


「あ、煌華学園なんですね! 俺も煌華学園に入学するんですよ。


 武術科1年の坂宮 涼也です。どうぞよろしくお願いします。」


 するとユリさんはクスッと笑った。


「同年代ですし、タメ口でいいですよ? 私もそうですけど、男性はその方が話しやすいでしょう?


 それに呼び名はユリでいいですよ。」


「そ、そうですね。わかりました。


 えっと……ユリ?」


 そう呼ぶとユリの顔が赤くなった。どうやらそう呼ばれるのは慣れてないようだ。自分で許可したのに……。不思議というか少し抜けてるというか……。


「さて、行きましょ?」


「え? 荷物は?」


「荷物は別で寮に運ぶって、学園のホームページに書いてたわよ?」


「あれ? そうだったけ?」


 俺もあまり人のことは言えないようだ。




 空港から学園へのシャトルバスの中でそれぞれの学園の職員らしき2人の女性が、この洋上学園都市について説明した。



 洋上学園都市ヒースネス。2つの私立学園があり、世界中に3つしかない洋上学園都市の中で1番小規模だが生徒の質は高いことで有名だ。


 この都市は立地を考えると日本の法律や制度に従うことになっているが、特例として適応されない罪がある。


 傷害罪と銃刀法違反罪だ。ただしこれは生徒と職員のみ、場合によってではあるが認められている。


 さらに、この都市は基本的に学生に対してかなり融通を効かせている。


 飲食店から服飾店、ジュエリーショップに至るまで、学生である証拠――生徒手帳や制服に付いている校章――を見せれば半額で買い物が出来るのだ。


 加えて、ここの生徒なら島内の交通手段は完全に無料だ。どこにでも行き放題。まさに金欠になりやすい学生にとっては天国だ。




 一通り説明を終えるとちょうどバスが最初の目的地、煌華学園に着いた。


「それでは楽しく充実した学園ライフを!」


 運転手はそう言うと俺達を校門の前で降ろし、バスを次の目的地である修帝学園へと発車させた。


「ここが煌華学園……。」


 入試で来たことがあったが、何度みてもその敷地の広さに圧倒されそうになる。ユリも呆然とその景色を眺めていた。


「はい皆さん、今日はこの後各クラスにて入学式を行います。


 時間は今からお配りする電子生徒手帳のメモ欄に書かれていますので確認しておいてください。」


 バスから一緒に降りてきた煌華学園の職員が全員に生徒手帳を渡して回った。


「画面に親指で触れてください。指紋を読み取り、それぞれの生徒情報がデータベースからダウンロードされ、そこに表示されるようになります。」


 俺は指示通り親指で画面に触れた。手帳はスキャンを開始し、しばらくすると俺の情報が表示された。


「煌華学園1年。クラスは武術A組か。」


「あれ? リョーヤもA組なの?」


 ユリが俺の手帳を覗きながら言った。ユリの手帳を見ると、俺と同じく武術A組と書かれていた。


「へぇ、同じクラスみたいだな。これからも引き続きよろしくな!」


「こちらこそ!」


 と、ほとんどの生徒が生徒手帳を起動させたのを確認した女性職員が、数回手を叩き注目を集めた。


「はいはい、注目!


 皆さんそれぞれのクラスと時間を確認したら一度寮の自室に行ってください。制服と荷物は既に運び込まれています。


 昼食をとりたい人がいれば、食堂は使用可能なので気軽に使用して構いません。ただし時間になったらちゃんと教室に集合してくださいね。


 それでは解散!」


 式の時間を確認し忘れていた。メモ欄を見ると午後3時からだが、今は午後0時。まだ少し時間はある。


「ユリ、寮の部屋は?」


「私は105よ。リョーヤは?」


「俺は407だ。見取り図によると女子は1階と2階、男子は3階と4階みたいだな。」


「そうみたいね。


 さ、早く寮に行きましょう! どんな部屋なのかな?」


 高級マンション、とまでいかなくても広い部屋だといいな。


 俺も色々と想像しながら寮に向かって行った。




――煌華学園 学生寮――



「それじゃまた後で!」


「うん、それじゃあね!」


 ユリと別れると、俺は階段を登って自室のある4階へと向かった。


 部屋の前に来ると、玄関のオートロック式の鍵を生徒手帳をかざして開けた。


 中に入るとそこはいくつも小部屋があるようなマンション、というよりホテルのようなそこそこ広い部屋だった。


 玄関扉のすぐそばにはユニットバス。風呂も部屋と相まって少し広めだ。反対側には冷蔵庫付きの小さな台所があり、ある程度の自炊はできるようになっているようだ。


 部屋の奥に進むと、壁に向かって机と椅子が備え付けてあり、反対の壁には少し大きめのシングルベッドが置いてある。


 ベランダに繋がっている大きな窓からは街の様子が見える。ここから見える夜景は綺麗なのだろうか。


 俺は部屋の様子を写真に撮り、両親とアキに送った。


 そのまま着替えもせずにベッドに倒れ込むと、シーツの肌触りがとても気持ちよくて思わずニヤケてしまった。この顔を誰かに見られたら、確実にベッドでうつ伏せになってる変人認定されるな。


 その気持ちよさのせいで、大して眠くはないのにいつの間にか寝てしまった。

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