氷炎の皇剣伝(ブレイド・ストーリー)

Orca Masa

第1章 私立煌華学園 編

第1話 別れと旅立ち

――日本 東京都――



「涼也! そろそろ行くわよ! 朝ごはん食べた?」


「食べたよ、母さん。見てただろ?」


 俺の名は坂宮 涼也りょうや。年度の変わる4月1日、つまり今日から、自宅から離れた高校の寮に住むことになっている、16歳の男子高校生だ。


 昨日までは都内の高校に通っていたのだが、今日から別の学校に通うことになった。


 荷物を持って外に出ると、既に両親が車を準備していた。俺はトランクに荷物を乗せて後部座席に乗り込む。


「忘れ物ない? 歯ブラシ持った? タオルは? 下着は入れたの?」


「大丈夫だよ母さん。無くてもあっちで買えるからさ!


 ていうか、心配しなくてもちゃんと1人で生活できるから!」


 俺の母親、坂宮 鈴音はかなりの心配性だ。今日から息子と離れ離れになるのがよほど寂しいのだろう。ずっと手に写真を持っている。


「はぁ……それと母さん。写真を胸に抱えるのやめて。それじゃ遺影みたいじゃんかよ。」


「だって……」


すず、大丈夫だ。心配しなくていい。


 この子ならきっと上手くやるさ。」


 俺の父親、坂宮 良吾は母さんに比べてそれほど心配性ではないが、たまに放任すぎることもある。


「僕らの息子さ。上手くやるに決まってる。」


「……うん、そうね。あなたが言うなら。」


 俺の言葉は完全に信用されてなかったのかよ!?


「さて、行こうか!」


 父さんはそう言うとアクセルを踏み、空港へ向かった。




――日本 羽田空港――



『JNA航空新千歳空港行き345便は、ただ今ご搭乗いただいております。


 当便をご利用になるお客様は――』


 車は渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズに空港に着くことができた。荷物を自動チェックインカウンターに通し、後は保安検査場を抜けて搭乗口に向かうだけ――


 ――なのだが、母さんは空港に着いてもずっと不安がっている。


「やっぱり心配だわ……。」


 いや、心配しすぎる母さんの方がよっぽど心配です……。それに、そろそろ写真を抱えるのは本当にやめて欲しい。背中に大勢の視線が突き刺さるのを感じる……。


「ったく母さん。


 たまに手紙――ってかメールも送るし、電話とかもするからさ。」


「そうは言っても……くれぐれも死なないでね?」


「……分かってるよ。」


 俺は父さんの方を向いた。父さんは俺の手を握ると―――


「お前は自慢の息子だ! 胸を張って、トップを取ってこい!


 お前なら出来るさ!」


「ありがとう父さん。」


 俺は父さんと母さんと抱き合うと、保安検査場に向かった。振り返ると2人とも――特に母さんが――目に涙を浮かべて手を振っている。


「いってきます!」


 館内に響くような大きな声で両親に言った。



 保安検査場を通り、搭乗口を探していると携帯が鳴った。母さんが泣きながら電話でも掛けてきたのだろうか。


「もしもし?」


「あー! リョーヤ! 何で私を置いてくのよ!


 見送りもさせてくれないなんて酷いなぁー!」


 うっ、この朝から元気すぎる声は……


「なんだ、アキかよ。おはよう。」


「おはよー。ってちがーーう! なんで私を置いてくのよ!」


「あー、わりぃ。忘れてたわ。」


「ひっどー!」


 藤ヶ峰 秋代。俺の幼なじみにして、つい昨日までクラスメイトだった女子だ。ボブカットの黒髪で、健康的な体つきをしているアキをまぶたの裏に浮かべた。そういえばアキともしばらく会えなくなるのか……。


「おばさんの様子どうだった?」


「ずっと俺のこと心配してたよ。いくら何でも今年で17歳、ある程度の事は1人で出来るのにさ。」


「でもわかるなー、おばさんのその気持ち。リョーヤ不器用そうだもん。」


「根拠ないだろ?」


 話しているうちに搭乗口に着いた。それに、ちょうど搭乗が開始したらしい。同年代らしき人たちが続々と搭乗口に入っていく。あれが俺のライバルになる人達か。


「そろそろ飛行機乗るわ。また今度な?」


「そっか、もう行っちゃうのか……。」


「なんだ? 寂しいのか?」


「さ、寂しくないし! ほら、早く行けば?」


「はいはい、んじゃな」


 電話を切ろうとした時だった。


「ねぇ、リョーヤ。」


「ん? なんだ?」


「……気をつけてね。」


「あいよ、そんじゃな」


 俺は携帯の電源を切り搭乗口へと進んでいった。


 飛行機の行先は洋上学園都市ヒースネス、これから俺の通う学校がある人工島だ。


 俺は高鳴る胸の鼓動を感じながら飛行機に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る