第3話 学園と超越者
――煌華学園 学生寮――
ピロリン、ピロリン♪
携帯のメールの通知音で目が覚めた。シーツの上をまさぐり、携帯を手に取る。メッセージの内容を確認すると差出人はアキだった。
『なんかずるい。出張中のお父さんみたいな生活が毎日出来るなんて!』
いやいや、どんな例えだよ。なんか分かるような分からないような。
……ん? そういえば今何時だ?
「……やば!」
時計を見ると、入学式まであと10分だった。急いでクローゼットから制服を引っ張り出して着替える。
「マズイマズイ!」
これは昼飯抜きだな。教室の位置は……走りながら確認しよう。
飛びだすように部屋を出て階段を駆け下りる。既に寮には1年生らしき影は見当たらなかった。
初日から最悪のスタートだ……。
――煌華学園 武術科棟――
何とかチャイムが鳴る直前で滑り込めた。息を切らしながら手帳に示された自分の座席に座る。
「間に合った……。」
「どうしたの? そんなに急いで。」
隣を見るとユリが不思議そうな顔で訊いてきた。どうやら俺たちは隣の席同士らしい。
「寝坊した……」
「……はい?」
ユリの目が理解不能だと言っている。まぁ普通そうだろうな……。こんな時間に数時間前まで話していた生徒が息を切らしながら「寝坊した」なんて言うこの状況、ツッコミどころ満載だ。
「はーい、席についてください。」
担任の先生が入ってきた。眼鏡をかけたショートカットの女性だ。どちらかと言うと社長秘書の方が似合いそうな雰囲気だ。
「担任の船付
「「よろしくお願いします」」
「さて、まず入学式を済ませてしまいましょう。
A組生徒代表、城崎百合さん。その場でいいので代表の言葉をどうぞ。」
「はい。」
ユリが生徒代表!? 入試の成績がよほど良かったのだろうか。
ここへの入学は筆記試験と健康診断によって決まり、筆記試験はとりわけ難しいことで有名だ。俺もあんまり自信が無かった記憶があるな……。
「生徒代表の城崎百合です。
私達は―――」
ユリが生徒代表の挨拶をしたが、俺はまともにその話を聞いてなかった。というのも、ユリの制服がかなり似合っていて見とれてしまったのだ。
それに数時間前はゆったりしたワンピースを着ていたので分からなかったが、彼女のスタイルはいい方だった。
胸から腰にかけてのラインには余分な脂肪が付いてないように見える。足も細いがモデルのような細さではなく、健康的な程よい肉付きの―――
って、俺は何ジロジロ見てるんだ!
ふと周囲を見ると、明らかに鼻の下を伸ばしている男子生徒がちらほら見える。……思わずゲスだと言いたかったが、俺もそんな大差ないか……。
「―――以上です。」
気付くと挨拶がちょうど終わってしまった。全く聞いていないどころか、変態的な目で見そうになったことは黙っておこう。
「城崎さん、ありがとうございます。
それでは私ども職員からのメッセージです。
皆さん、くれぐれも死なないよう頑張ってください。」
死なないように、これと似たフレーズを今日だけで何回聞かされたか……。
「さて、オリエンテーションを兼ねて、学園とそしてあなた達について少しおさらいをします。」
船付先生は電子黒板に学園の見取り図を映した。
「この私立煌華学園の総生徒数は、都会の生徒数より少なめの、3学年180人ですね。学習カリキュラムは独自のものを採用してますが、教育理論は日本のものが元になっています。
学科は武術科と技術科に分かれていて、武術科のみ2クラスに分かれています。
さて、ここで皆さんに質問です。武術科と技術科の違いは何でしょうか?」
「はい!」
ユリが勢いよく手を挙げた。生徒代表だから1番に答えようと思ったのだろうか。ユリは立ち上がると―――
「武術科の生徒は主に《自然干渉系》の能力を持ち、技術科は《因果干渉系》の能力を持つ生徒が在籍しています。」
「はい、正解です。ちなみにそういった能力を持った人のことを世間ではなんて呼ばれていますか?」
「《
そう、俺たちはただの学生――いや、それ以前にただの人間ではない。入学選抜に健康診断を用いるのも、俺達が普通の人間ではないがゆえの手段だ。
10年前、某国の兵器実験施設から事故によって大量の化学物質が大気に放出された。すぐに一帯は封鎖されたが、気流に乗った化学物質は地球上にあっという間に拡散した。
その化学物質を吸い込むと低確率で人間の免疫、治癒能力、反射神経、運動神経などの代謝性能や基礎運動能力を底上げする。
さらに、これより低い確率で人知を超えた力を持つものが現れることがある。それが俺達のような《
そして、日本にある《
「さて、それでは別の人に質問です。
《自然干渉系》と《因果干渉系》の違いは……城崎さんの隣のキミ、答えてくれるかな?」
……あ、俺だ。新生活1日目にして早速当てられたのか。後でいいことありますように。
「はい、《自然干渉系》能力はいわゆるオカルトの世界で描かれる魔法に近い能力のことです。
火、水、氷、
「その通りです。では《因果干渉系》とは何でしょうか?」
「《因果干渉系》の能力を発現すると、その人の脳の活動は通常の人よりも遥かに活発になります。
その度合いには個人差がありますが、発現した人のほとんどでIQ400以上を記録しています。さらにごく稀に未来予知に等しい、いわゆる脳内シュミレーション能力が発現することもあります。」
「はい、その通りです。ありがとうございました。」
あぁー緊張した!
発言し終わった俺は肩の力を抜いて席に着いた。
「はい、これでひとまずこの学園とあなた方自身についての復習は以上です。その他疑問等があれば生徒手帳の校則欄に書いてありますのでそれを見て下さい。
それではこれにて入学式を終わります。明日からは通常授業になりますのでテキストタブレットを忘れずに持ってきてくださいね。
今日の予定は以上です。お疲れ様でした。」
船付先生はそう言うと教室を後にした。
これで終わりか。昼飯食いそびれたから、今からでも食いに行こうかな。
「ユリ一緒に―――」
「え、えっと……あはは」
昼食に誘おうと振り向くと、ユリが既に数人の男子に囲まれて質問攻めに遭っていた。
「ねぇ、どこ出身なの? 俺はモンゴルの―――」
「この後空いてる? 一緒に飯食わないか?」
「お、俺、キミに一目惚れしました!!」
おい、最後のやつ、いきなり過ぎるぞ。ユリはどうしていいか分からない様子でこっちを向いた。
俺は立ち上がると、さり気なく助け舟を出すように声をかけた。もちろん内容は昼飯の誘いだが。
「俺さ、実は昼飯食い忘れたんだよね。だからちょっと食堂付き合ってくれるかな?」
ユリは救われたと言わんばかりの笑顔を浮かべて頷いた、時だった。
「おいおい、何お前? 俺達と城崎さんとのコミュニケーションに割り込んできて、何様のつもりだ?」
いかにもガラの悪そうな男子生徒が引き止めてきた。見た目と雰囲気からすると、中学時代はガキ大将とか言われてそうだ。
「何って、困ってるの見えるだろ?
まさか見えてないのにユリと仲良くしようとしてた、なんてことないよな?」
「テメェ、調子こくんじゃねーぞ? 初対面で俺にそんなセリフ吐いたのはテメェが最初だ。
たしかこの学園は力で全て決まるらしいな。だったら今ここで誰が上の立場か、拳で分からせてやらぁ!」
その短気な男子生徒は殴りかかってきたが、取り巻きの1人が慌てて制止した。
「おい、ここで殴るのはマズイ。入学早々喧嘩はよくねぇって。」
「……そうか、ならこうしよう。」
男子生徒は生徒手帳を取り出すと、画面に校則第8条を表示させた。
「俺と試合しろや。それなら問題にはならないだろ?」
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