シークエンス7 帆綱 拓馬の実生活2
「――つまり、量さえ守っていればジギタリスの葉は、心不全の薬にもなり得るということです。毒物だから、という理由で研究対象外にするのではなく、このように人の命を救うことが出来るということを忘れないでください。……っと、そろそろ時間ですね。」
数値さんがスライドショーを閉じ、時間を確認する。
よくよく忘れがちではあるが、この施設は表向きは医大も兼ねており、数値さんは研究者だ。
普通の生徒もいるため、このように真面目に講義を行っていたりする。
いやマジで、真面目すぎて逆に気持ち悪いけどね。
「では、拓馬くん。プリント配布して」
「わかりました」
ここではオレは補佐として活動している。
なので基本こういった雑用をさせられることが多い。
「えー……皆さんに残念なお知らせがあります」
オレがプリントを配っていると、数値さんが本当に残念そうに話し始める。
「私の講義はなかなか為になり、かつ楽に単位が取れると評判だと思うのですが……」
おいお前、仮にも教授だろうが。何でそんなことを言い始める。
「……なんと先日、言葉先生にマジギレされました……」
「へっ!?…………っと、失礼」
生徒より先に、素っ頓狂な声を出してしまう。
実際、数値さんの講義は分かりやすく、講義中は真面目にやっている。
何故言葉さんが怒ったのかが分からなかった。
「その理由は、私がめんどく……皆さんを信じて最終レポートだけで成績を判断しているのがバレたからです。」
あー…………
「なので、申し訳ないです!今期から、レポートを廃止し、出席点と期末テストで成績をつけます!!」
ざわめく教室、本当に面倒くさそうな数値、呆れるオレ。
「ですが!!ですがですよ、みなさん!」
ピタリとざわめきがとまる。
「テストの採点なんて面倒なことは私はしたくありません!だから拓馬に!!採点を押し付けようとしました!」
「ぅおい!!」
ずびしっ!と俺を指差す数値。
俺のツッコミの声を無視し言葉を続ける。
「しかし、言葉先生にはその目論見はバレており、『拓馬くんに採点任せたら減給だかんね!』と言われました。」
おそらく言葉さんはそんな言い方はしないと思う。
「なので!楽にテストの採点を行うために!マークシートを採用します!!2から4択です!」
ま、まあ、それは妥協できるだろう。
実際、そういう利点もあるので、マークシートというテスト方式が廃れないのだろう。
「そして私は公平にジャッジしたい。今までレポートで簡単に点数が取れていたのに、これから取りにくくなるなんて不公平だ!なので皆さんには、どのあたりをテストに出すかを言います!もちろん答えはいえませんが、範囲は絞ります!」
……これは妥協できるのか?
しかし、優雅にお辞儀をする数値に、学生たちは拍手喝采だった。
「では、本日の講義はここまでにします!」
その言葉が終わると同時に、チャイムが鳴り響く。
ガヤガヤと学生たちは教室から出ていった。
「……数値さん、これでいいの?」
「いいっしょ~。言葉の言う制約は守ったしね。」
「屁理屈感がすごいけどな」
「屁理屈も、まかり通れば理屈なんだよね~」
余ったプリントを回収し、数値のところに持っていく。
「お前、授業自体はすごくわかりやすいのに、なんでそういう部分は適当なんだよ」
「や、学生ってさ、他にも授業とかいっぱいあるわけ。その授業でも課題やらテスト勉強やらあるのに、私の授業でまで難しくしてしまったら、辛いだけじゃん?特に私の扱ってる分野って難しい部類なんだしさ。」
「本当は?」
「テストの採点マジ面倒!私大学院のとき、教授に手伝わされたけど、ほんとメンドイ!!」
「……あ、かなり前から経験あるのね」
「ま、授業では基盤作ってあげて、本当に興味持ったときに自分で調べるのが一番実力つくからねぇ」
数値は余ったプリントを、カバンに詰め込み、電気のスイッチを消す。
「君は次、どうする?」
「小休憩のあと、言葉さんの授業かな。」
「なーるほど。頑張ってねー」
「はいはい」
そう言って、教室をあとにし、自分の部屋に荷物を置きに戻ることにした。
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