シークエンス6 帆綱 拓馬の実生活
かの怪物はいつ何時現れるかは不明である。
この世界に巻き込まれたオレは、今まで通っていた学園をやめ、この大学病院に補助教員として採用されたことになっている。
故に給料も発生し、親にはすごく驚かれた。
月曜日から金曜日は、仕事……と、称した訓練や実地。
土日は休日ではあるが、怪物が現れた場合は、急患が来たと言う名目ですぐに集まる。
そんな感じだ。
今日は土曜日。
のんびりとゴロゴロするか、マンガでも買おうと思っていた。
……いたのだ。
「いや~悪いねぇ、荷物持ち」
今は、言葉とは裏腹に一切悪びれていない、天谷 数値(あまや かずね)の強制的な荷物持ちをさせられている。
「あの……まだ回るのこれ……?」
「あったりまえじゃん!」
秋葉原のジャンク通りを、ウキウキしながら歩く彼女。
オレの手には既に……なんかよくわからないパーツの紙袋が3袋持たされている。
「いや~この時期はいい感じにセールしてるねぇ……おお!ラックサーバのケースが3000円だ!」
店のテント状の屋根の下に、無造作に組まれた網棚に乗っているパソコンの本体を眺めだす。
「お、しかもこれ……マザー残ってんじゃん!CPUはなにかな~」
開けれる部分を全力で開け、パーツの確認。
「このシールどおりなら、Webサーバくらいにしかならないスペックだなぁ……」
ブツブツと考え込む。
「……あのさ、まさかそれ買うの?」
「その予定。何で?」
「すっっっっごくかさばる気がする」
「大丈夫!持つのはキミだから!」
「だからオレがその心配をしてんだろうが!」
「そのために今日呼んだんだから、いいじゃん。じゃ、会計してくる!」
「うおい!」
話を聞かずに、パソコンを店内のレジに持ち運んでいく彼女。
…………ため息が出た。
数分して、数値が出て来る。
「おまたせー!」
「本当にまったよ……ってなんか増えてない!?」
手には先程のパソコンの入った袋の他に、よくわからないパーツが入った袋があった。
「ハードディスクに、メモリ、CPUが安かったよー。後グラボ」
「ちょ、まじでギブ!!コインロッカーに預けよう!!」
「えー、ひ弱だなぁ~」
「重さじゃない、かさばりの方!!」
今でさえ、歩くことが億劫になるくらいかさばっている荷物が、更に増えるのだ。
勘弁していただきたい。
「じゃあ、とりあえずロッカーに……お、このHDDはもしや……?」
言葉の途中で、隣の店先に投げ入れされているジャンク品のカートに手を伸ばす。
「おおお!isoをそのままマウントできるHDDじゃん!買いだね!」
「言ってるそばから荷物増やすなーー!!」
◆◇◆
「…………あ~……つかれた」
かさばる荷物というものは、何故こんなに体力を奪うのだろうか?
「やーい、ひ弱ひ弱~」
休憩にファミレスに入った。
あれから、荷物を一旦コインロッカーに入れ、更に同じくらいの買い物袋を持たされ、歩き回ったのだ。
「はい、とりあえずお疲れ」
机に突っ伏しているオレに罵声とねぎらいの声をかけてきやがる。
ことり、と置かれたのはドリンクバーのウーロン茶だ。
「……ああ、ありがとよ」
一気に飲み干す。
「おお~、いい飲みっぷりだねぇ」
タブレットをカバンから取り出し、操作をしながら言ってくる。
「お前がこき使ったせいで、のどが渇いてたんだよ」
「あ~そりゃメンゴメンゴ」
「くっそ、腹立つな!!」
オレの言葉を無視して、数値は凄まじいスピードでタブレットをタップし始める。
「ほい、これ見てみ」
そしてタブレットを渡してきた。
「…………これは?」
タブレットには世界地図が描画されており、様々な場所からこの近辺に線がつながれている。
「怪物が現れるのってね、この近辺だけじゃない。世界各国に現れてるんだ」
数値は急に真面目な顔で、真面目なトーンで話し始めた。
「その情報を、私は全て記録している」
机の反対側から、オレの持っているタブレットのボタンをタップする。
画面が切り替わった。
グラフが表示される。
「それらの情報をもとに、機械学習で出現位置と出現時間を予測しようとしているけど、未だその的中率は50%をきっている。」
更に画面上をタップする。
日本地図が表示され、点がその上に数十個描画される。
点には日時が記載されていた。
「ナイーブベイズ、k-近傍分類、アダブースト、ニューラルネットワークなど、様々な方法は試した。それでもまだわからない。そしてこれらの演算には、膨大なCPUなどのリソースを消費する。」
その言葉でオレはハッとした。
「……そっか。」
今日の買い物は、おそらくそういうことだろう。
「……そう、だからもっともっとリソースを強化しないといけない。勿論今これを動かしているのは、所謂『スーパーコンピュータ』というものでやってるけど……それでもまだ足りていない」
「……数値って、すごいんだな。」
「ん?」
「こうやって、休日でもパソコンのパーツを買って、ずっと怪物を倒す研究をしてるんだろ?」
「…………はぁ?」
「…………え?」
「怪物を倒す研究?このパーツは全部趣味だけど?」
「はぁ!?じゃあ今までの話は何なんだよ!?」
「今の現状」
「え?いや、だからパーツを買い足してリソースってのの強化を……」
「アホか!こんな安売りのジャンクパーツで、膨大なデータの機械学習なんて出来るわけない!と言うか、そういうのは国から援助で最高級のパーツを送ってもらってるわ!!ポイントが正確に割り出せないのは、そもそもに出現確率がランダムすぎるのと、未来という時間軸が無限にあるから出せないだけ。」
「…………え、じゃあ、何で今日オレ呼ばれたの?」
「可愛い女の子の荷物持ち」
「ふっざけんなよおおおおお!!!!」
…………結局、なんやかんや言いくるめられ、帰りの荷物も持たされました。
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