シークエンス5 能力開花
実地訓練、体験学習……そう言えば聞こえはいいだろう。
しかし、これは失敗すれば命を落とす事柄である。
手には渡された特殊なハンドガン。
腰にはサバイバルナイフがホルダーに収められている。
「あの、霧羽(きりばね)さん……」
「言葉(ことは)でいいよ、拓馬くん」
15分未来の世界は、荒廃していた。
ビルは崩壊、半壊しており、人や車などはほとんど見当たらない。
おそらく、重力に潰されたのだと言う。
言葉さんは刀を構え、次の敵を待っている。
オレは、言葉さんの背中を護るように銃を構えていた。
「……本当に、まだいるの?」
「ええ……怪物は18体アドベントした反応があった。でもまだ8体しか、ディスパッチ(倒)していない」
倒した……ディスパッチというのだろうか?
ディスパッチした怪物の8体は、すべて言葉さんの成果だ。
オレは何をすること無く……いや、何もすることはできなかった。
『……お二人、聞こえますか?』
インカムから、江渕(えぶち)さんの声が聞こえる。
「美春(みはる)、聞こえます」
言葉さんが返す。
『こちらで捜索していますが、怪物の位置が特定できません。もう暫く耐えてください』
「承知しました。マージまで後どのくらい?」
『8分です』
「……急ぎ目で」
『……はい』
マージ……現実時間の世界が、この未来の世界の時間に追いつくこと。
もしこのままマージしてしまえば、怪物がリアライズしてしまうだけでなく、この悲惨な状態が現実化してしまう。
「……拓馬くん」
後ろから言葉さんの声が聞こえる。
「……ごめんね、まさかこんな希代な状況になるとは思わなくて……実地訓練でこんな辛い目に合わせてしまって」
「……大丈夫。初めてが辛い経験なら、後が楽だと考えるよ」
ゆっくりとあたりを見回す。
物音一つ無い。
聞こえてくるのは自分の心音のみだ。
「…………ふー…………」
ゆっくり息を吐く。
冷や汗が背中を伝う。
緊張でまばたきをしていなかったのか、目の前が霞む。
一度、ギュッと目を閉じる。
――――脳裏に光が走った。
「言葉さん、いたよ」
「えっ!?」
何故気が付かなかったのか。
いや、何故見えなかったのか。
違う、見えないのだ。
「やつら、オレたちを囲んでる」
しかし見えてしまった。
何故襲ってこないのかはわからない。
「な……に言ってるの……?」
困惑している言葉さん。
それはそうだ。
だって今、奴らは見えていないのだから。
「っ…………」
集中する。
手で物を叩き壊すイメージをする。
目の前の怪物が、よろけた。
『反応あり!!え!?……こ、言葉さんたちの周りにいます!!』
戸惑う江渕さんの声がインカムから聞こえる。
その瞬間、怪物が一斉に視界に映った。
「っ!!ディスパッチします!!」
言葉さんが動く。
1体、2体……確実に仕留めていく。
『マージまで後1分!』
銃を構える。
我武者羅に引き金を引いた。
――反動はない。
狙ったところに弾が当たったのか、怪物が一体霧散した。
『30秒!!』
残りの怪物は2体。
うち、言葉さんが1体と戦っている。
「っ!!」
もう一体が迫ってくる。
咄嗟のことでエイムがずれる。
「拓馬くん!!」
言葉さんの叫び声が聞こえてくる。
怪物の手らしき部分から、鋭利な爪が出てくる。
銃を諦め、怪物を突き飛ばすイメージをして、手を突き出す。
「トベっ!!!」
バチンッ!
意に反した音がなる。
無意識に閉じていた目を開けると、怪物から煙が出て……そのまま霧散した。
『…………』
インカムから息を呑む音が聞こえた。
「……い、今のは……?」
言葉さんがあっけにとられた顔でこちらを見ていた。
「さ、さあ……」
自分でも何が起こったのかはわからなかった。
『…………え、あ、ま、マージします!!』
その言葉で我に返る。
街は何事もなかったかのように、活気にあふれていた。
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