シークエンス4 数値視点

表向きは大学病院を装ったこの建物は、総合大学並みの広さがある。

しかし、その建物の中でも最大の広さを誇る研究棟の地下2階には、

私、天谷 数値(あまや かずね)の研究室が存在する。


エレベータは特殊なキーと指紋認証がなければ、作動しない。

乗り込むと、行き先ボタンはないただの箱のようだ。

一応非常用ボタンは物理的に存在するが、まあ、この施設の機械が故障することはまず無いだろう。


カードキーをエレベータのホルダーにセットする。

すると、操作パネルがある位置に、仮想的なボタンが浮かび上がる。

カードキーの権限によって、押せるボタンの数が増減すると言った仕組みだ。


「さてと……」


ニヤリと口角がつり上がってしまう。

迷いなく私は自分の研究室の階をタップする。


手元には拓馬くんのカルテと、言葉の血液と、言葉の血液を輸血する前の拓馬くん血液が入ったシリンダー。

先程、使用許可が下りたため、みんなを放置してオペレータ室から飛び出したのだ。


実際にこれらを混ぜ合わせて、どのような反応が起こったかを見てみることにする。

上手く行けば、もっと超能力者を人工的に増やせるかもしれない。


「ワクワクしますな~」


興奮してアドレナリンが出ているのか、頭がクラクラしてくる。

研究者として、追求すべきことと自身の興味が一致したのだ。

こんなに楽しい時間はない。


エレベータを降り、カードキーを研究室の扉に設置されている認証装置にあてがう。

ピピッと電子音がし、解錠される。


電気をつけ、血液が入ったシリンダーをデスクの上のホルダーに置き、顕微鏡を探し始める。


「あっれー……暫く、プログラムのコードしか書いてなかったから、何処置いたか忘れちゃったなぁ……」


部屋はなかなかな荒れようだ。

論文集や、インスタントのカップ類のゴミ、エナジードリンクの空き缶が散乱している。

しかし、荒れているのはデスク周りの床だけで、奥の本棚や、サーバルーム、電子部品のようなものが置かれている棚は、チリひとつ無い状態だ。


「お、あったあった。こんな奥にしまってたのか」


前言撤回。

使っていないものがそのままきれいに並んでいるだけのようだ。

現に顕微鏡は、サーバルームの片隅に放置されていた。


「さってとー……」


パソコンと顕微鏡をデスクに置き、パスコンの電源を入れ、プレパラートを顕微鏡にセットする。

顕微鏡とパソコンを端子でつなぐ。


「酸化するから、急がなきゃね」


シリンダーから、ピペットで適量の言葉の血液を吸い出し、プレパラートに垂らす。

パソコンでは、血液の解析が始まったようだ。


「しっかし……血液で能力者かどうか分かるのかなぁ。」


基本、能力者かの判断は特殊な波長を体から発するか否かで判断する。

能力者は、電気的な信号を体から常に発しているのだ。

まあ、それは特殊な波長なので、基本的に誰もが知る由もない。


「うむ、通常の人間の血液だねー……そりゃそうか」


健康診断はずっとしているのだ。

人間の血液以外の反応が出ているのであれば、すぐに分かる。


「つぎは……」


拓馬くんの血液を、別のプレパラートにセットし、解析を開始する。


「うむ、通常の人間だ」


そこに、追加で言葉の血液を混ぜてみる。


「――え?」


一瞬、パソコンの画面にエラーの文字がデカデカと表示される。

慌てて、原因を調べるためにキーに手を置くと、エラーの文字は消えており、通常の血液として解析されていた。


「……何、今の?」


再度同じことをする。

同様の事象が起こる。


私はすぐに備え付けの内線器へ手を伸ばす。


「…………私です。すぐに様々な血液型を2グループずつ用意してください。とりあえず5セットで」

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