シークエンス3 シンギュラリティー2

「やっほー、言葉(ことは)!連れてきたよん」


数値さんに釣れられ病室を出て、暫く建物の中を歩くとそこにあったのは、

オペレータ室のようなところだった。

様々な画面が映し出され、20人位の人が応対をしていたり情報を書き込んだりしているようだ。


「……ああ、数値(かずね)!ありがとう」


優しい笑顔を浮かべ振り向く、言葉と呼ばれた彼女。

サラリとなびく長い黒髪が特徴の女性だった。


「えっと、拓馬(たくま)くん……だよね。無事でよかった」


「えっと……あ、ありがとう?」


急に心配され、反応に困る。


「言葉は、怪物に腹を抉られたキミをここまで連れてきて、キミの輸血もしたんだ」


数値さんが説明を補足してくれる。


「だからこそ!キミのカラダが謎なんだよ!!」


そして頭を抱える数値さん。


「これまで、輸血で、超能力が、コピーされるなんて、事例はない!!試しにそこらのオペレータに同じことをしても超能力反応は出なかった。キミは一体何なんだ!!!」


「…………いや、オレが知りたいです……」


「そうだよね!!分かったら教えてね!!!」


「すごい食い気味で来るね………」


「まねー……これでも研究職がメインなんで」


そう言いながら数値はオペレータの近くにおいてあるチョコレートを口に放り込む。


「むぐむぐ……むがっ!?これビターじゃんかよー……美春(みはる)~、普通のないのー?」


「…………え?あ、数値さんいつの間に!?」


オペレータ席に座って、ずっとカタカタPCをいじっていた美春と呼ばれた女性が顔を上げる。

茶髪に大きめのポニーテールがチャームポイントだ。


「って、まーた私のお菓子勝手に食べたんですか!!」


「うん。何でビターなの?」


「数値さん対策です!」


「やってくれるねぇ……今度、ハバネロの粉でもチョコレートにふりかけといてあげるよ」


「結構です。あ、はじめまして拓馬くん!私は、江渕 美春(えぶち みはる)と言います。」


「あ、ど、どうも。帆綱 拓馬です」


「これから、よろしくお願い致しますね」


「はい……」


何がどうよろしくされるのか、まだ謎なのであまりよろしくしたくはないけど……


「あ、言葉さん!言葉さんが倒した怪物が、リアライズした後……やはり何もリアル世界に影響はありませんね。」


「……となると……奇妙ですね……」


「はい。実際彼は怪物に脇腹を抉られたわけです。これはまごうこと無くリアライズ……なのに、リアル世界にその影響が反映されてないのは…………」


「もう一つ有りますね。あの怪物が現れた時、重力場の歪みは感知できましたか?」


「う……そう言えば……アドベント反応だけでしたね」


「ですね。重力場の歪みが出来てしまえば、私も一瞬で引き込まれていたでしょう……となると仮説としてはアレが有力的では?」


「そうね……新しい物理エネルギーか……はたまた未発見の量子エネルギーか……数値さんはどう思いますか?」


「んー?そうさねー」


話の途中から地べたに寝転がってタブレットゲームをしていた数値さんに話が急に飛ぶ。

なお、オレは話には一切ついていけてないけど大丈夫かこれ……いや、何が大丈夫かよくわかんないけど……


「まあ、宇宙には未発見、未計測の暗黒エネルギー(ダークエナジー)とか暗黒物質(ダークマター)なんて、ワクワクさせてくれる物もあると予測されてるんだし、その仮設はあってもいいと思うよ。あぁ……死んじゃった……」


「……数値、任務中にソシャゲは如何なものなの?」


見かねた言葉さんが数値さんに言う。


「かったいな~、結果は出してるんだしちょっとくらいいいじゃん。」


数値さんが立ち上がる。


「まあ、私の当面の研究は、何故輸血で超能力が現れたか、かな。」


「う~ん、できればこっちの謎の解明もお願いしたいところなんだけど……」


困ったように江渕さんが頬を掻く。

薄々思ってはいたけれど、数値さんはなかなかな問題児なようだ。


「あっはっはっはっは~拓馬くん、その顔は、私についてどんな意見を隠し持っているのかをさらけ出してるよ~?」


「ああ、ごめん。嘘がつけない性格で」


「あちゃ~、損な性格をしてるね~。お陰でキミは今から私によって八つ裂きにされるよ?」


すっと手を構える数値さん。


「は~い、ストップストップ!数値!まだ、拓馬くんは未経験者なんだから!」


止めに入ってくれる言葉さん。

でもその言い方はなんか語弊が……いや、語弊は無いから余計に傷つきます。


「なるほどなー、未経験者だったのか~」


そしてわざとらしくニヤニヤとする数値さん。


「そうよ!だから優しくしてあげないとダメじゃない!」


それに気が付かずに言葉を続ける言葉さん。

突っ込むにも突っ込みにくいこの状況に、とりあえずダンマリを決め込む。


「へ~へ~……仰せのままにっと。お仕事ですよ」


クイッと画面を指差す数値さん。

そこには”ADVENT”の文字。


「っ!!美春!!」


言葉さんの顔色が変わる。


「まってください!今調べています!」


江渕さんも真剣にキーを叩き始める。


「ポイント発見……モンスター、アドベントしました!」


「直ぐ行くわ。ゲートを開いて」


「承知!101番ゲートを抑えたわ!」


「わかりました!」


刀をつかみ、オペレータ室を飛び出す言葉。


「……さーて、拓馬くん。ここからは真面目にキミの研修だ。」


目の前のモニタに、言葉さんが映る。

青白い光が言葉さんを包んでいる。


「あの光で、自信を量子化したときに、自分の量子が飛び散らないようにしてるだ。私達の科学と、超能力を合わせていて、どちらかに欠陥が生じても大丈夫なようにね。」


そのままゲートに入っていく。


「言葉さんのゲート通過を確認……量子をペアリングします。ペアリング完了!アドベント地点へのブランチを作成……作成完了!テレポートさせます」


淡々と、しかし確実に処理が行われていく。


「……すごいでしょ、量子化コンピュータ。軍事よりも何よりも先に、この世界平和のために導入された最初のパソコンだよ」


「何が違うの?」


「計算処理が0秒で出来る」


画面から目を離さずに力強く答える数値さん。


「そこに差異が生まれるとしたら、入力処理と出力処理部分だろうね」


サブのタッチパネルを勝手に操作し、手持ちのタブレットを接続する。


「今回、言葉は30分先の未来へ行っている。様子はそっちのディスプレイの通り、何もかもが吹き飛んだ状態だ」


ディスプレイを見ると、待はメチャクチャになっている。

ビルは崩壊し、人や車はディスプレイ上には見当たらない。


「怪物がアドベントすると、そこに一瞬重力場が出来て、吸い寄せられてしまう。その力でビルとかが崩壊するんだ。人とかはそっちに吸い寄せられてる」


数値さんがタブレット上の仮想キーボードを操作すると、モニタの位置が怪物の近くに変わる。

黒い霧のようなものに覆われたそれは、形容しがたい姿をしている。


「しかしこれは30分未来の話。もしこの怪物がそもそもいなかったらこんな悲惨な未来にはならない」


怪物が切られる。

言葉さんの刀に。


「だから私たちは、この世界が30分経つ前に、奴らを殲滅する。」


1体、2体……あっという間に8体。

切られた瞬間に怪物は霧となって霧散する。


「……こいつらは……どんな世界から来てるんだ?」


「世界?」


「キミが言ったんだろう?4次元は時空だって」


「ああ、言ったさ。あくまで空想上の理論をね」


「空想?」


「そう。2次元に住む生物にとって、3次元というものは想像できない。自分たちの知らない次元軸を持っているのだからね。同様に、3次元に住む我々にとって4次元と言うものは想像することも見ることもできない。」


机の上のビターチョコを口に放り込む。


「しかし、4次元目は時空。そう考えることによって、力学は発展できた。それならばそれが正しいと仮定しても問題はないでしょ?」


「……そういうもん……なのかな?」


「さあねえ……少なくとも、都合はいいよ。…………お、アドベント反応は終わったね。」


タブレットを操作し、未来の世界を確認する。

数値さんと江渕さんは目が合うと、二人して頷いた。


「言葉さん、お疲れ様です。アドベント反応は消えました。」


『承知しました』


江渕さんと言葉さんのやり取りを聞いて、ふと思う。


「どうやって戻ってくるの?」


「向こうにゲートはないから、30分未来にいったのであれば、30分待つしか無いね。」


「……なるほど……」


「まー意外と崩れてないビルの中とかに入ると面白いよ。商品とか勝手に食べても、全然バレないし。」


「…………アナタ、そんなことしてるんですか」


「おっといけね」


オレたちの会話を江渕さんは聞いていて、冷ややかな目で数値さんを見ていた。


………………………


「……そろそろですね。言葉さん、マージまで後30秒ほどです」


『承知しました。マージまで待機いたします。』


言葉さんは残り時間を利用して、本部に戻ってきていた。


「マージって何?」


「マージってのは、未来世界とリアル世界の結合タイミングのこと」


「はーい、3、2、1……マージします」


江渕さんの言葉とともに、オレの隣に言葉さんがすっと現れる。

それはもう最初からいたかのように。


「おかえり」


「ただいま」


何気ない挨拶をし、


「じゃあ、次はキミも言葉に付いてってね」


数値さんがオレに爆弾発言を残して部屋を出ていった。

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