第10章 思惑④

「よく来てくれたね、待っていたよ。」

「お招きいただきありがとうございます。」


ノレインに案内されとおされた部屋にはガーウィルが椅子に腰をかけ読書をしていた。


「そこに座ってくれ。」


近くにあった椅子に案内され腰をかけた。


「今日のお昼には村に戻るようだね。」

「はい、急で申し訳ないと思っております。」

「いや、気にしていないから安心してくれ。」


顔に似合わないほど優しく笑ってガーウィルは僕を安心させようとしてくれた。


「で、次に会う日取りを決めようと思うのだが。」

「自分もそのつもりで来ました。」


ノレインが目の前のテーブルに入れたての紅茶だろうか、いい香りのする紅い飲み物が入ったティーカップを差し出してくれた。


「珍しいだろ、それは北の国が作った飲み物でなめったに手に入らない物だ。名前は何て言ったかな?」

「ガーウィル様、アールグレイです。」


アールグレイって確か紅茶の種類だったはず。この世界にも有ったのか。


「もし飲んでみて苦いのでした砂糖をお使いください。」


角砂糖が入った小さなビンを一緒にカップの横に置きノレインは部屋から出て行った。


「さて、日取りの話だがどれぐらいかかるか検討はつくかね?」


ガーウィルはゆっくりと紅茶を口に含みながら質問してきた。


「そうですね、戻るのに数日。そこから村長や師匠に話しをして決めるのに数日。戻って来るのにも帰りと同じ日数必要としますので、十日ほど頂きたいと思います。」

「そうか、もう少しかかると思ったのだが意外と早いのだな。」


ガーウィルの言った通り本来の移動手段ならたぶんもう少しかかるだろうがこちらにはアスタルテが居る、戻るのに一日もかからない。だが、疑われないように日数を多く言ったつもりだったがミスったか?


「よほど足の速い地竜か他の移動手段があるのだな、是非それについても聞かせて頂きたいことだ。」

「その質問の返答は前者ですね。村で飼っている地竜の足が速いのでさほど時間がかからないで移動できたのだと思います。」

「そうか、今度見てみたいのだがいいだろうか?」

「申し訳ございません、村長に無理を言って借りた地竜でして、そのときに他の者にはけして見られないように言われてまして。よほど大切にしている竜みたいでして、約束を破る事はできません。」

「なるほど。仕方ない事だ、あきらめるとしよう。」


ガーウィルは残念そうに目を伏せた。


「話がそれたな、戻ってくるのに十日ほどだったな。了解した、それにあわせて予定を組むとしよう。ところで、紅茶はいかがだったかな?」

「紅茶ですか?入れるのが上手いのか凄く美味しかったです。」

「そうか、飲んだのだな。」


その返答を聞いたとたんガーウィルはいやらしく口元を歪めこちらを見る。

その瞬間、いっきに嫌な予感が脳を横切った。


(しまった、飲み物に何か入れられてたのか!)


それに気づいて急いで吐き出そうとしたが遅かった。

目の前がいっきに歪み視界が上手く定まらない、頭の中に霧がかかった様な感覚が襲う。ガーウィルの声が催眠効果を得たように脳内に響く。


「タクヤ君、君にこの書類に名前を書いてはしい。」


差し出された書類に目を向けたが何を書いているか読めない。それどころか、身体が勝手に動き一緒に差し出された羽ペンに手が伸び歪ながらもしっかりと自分の名前を記入していく。


「うむ、よろしい。君の筆跡できちんと君の名前が書かれたな。ノレイン!!」

「お呼びでしょうか?」

「こいつを地下の牢獄に連れて行け、こいつは他国にこの王都の情報を流そうとしていた。本人が自白した。」

「かしこまりました、仮牢獄に入れておきます。」


ガーウィルはノレインにそう言うと連れて行けと言わんばかりに手を振り合図をした。


(何を言っていやがる!くそ、身体が上手く動かせない!)


必死に動こうと足掻くが指一本動かない。

そして僕はノレインに抱えられ地下の牢獄に連れられて行った。

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