第10章 思惑③

「タクヤ様、朝早くに失礼いたします。」


 朝の光が眩しい部屋にノックの音と共に女性の声がこだまする。


「ん……タクヤ、来客のようじゃぞ。」

「はーい……今行きます。」


 寝起きでまだ重い瞼を擦りながら部屋のドアを開けた。

 すると、宿の受付のお姉さんが手紙を持って立ってた。


「タクヤ様宛にお手紙が届いておりましたのでお持ちいたしました。」

「ありがとうございます。」

「それでは失礼いたします。」


 手紙を受け取りドアを閉め部屋に戻った。


「なんじゃのじゃ?」

「手紙が届いていたみたい。宛先は僕で送り主は…ガーウィルからだ。」

「開けて内容を確認したほうがよさそうじゃな。」


 アスタルテの言葉にうなずき封を開けた。

 中から手紙を取り出し内容を確認しアスタルテにも渡して読んでもらった。


「ほう、迎えが来ると。」

「時間はまだ有るね。迎えが来る前に支度しちゃおうか。」

「そうじゃな。」

「アスタルテは一緒にガーウィルの所に行くかい?」

「いや、わらわは昨日と同様に待っておることにするのじゃ。」

「分かった。」


 どうやらアスタルテは時間いっぱいまで寝ていたいようだ。今もあくびをしながら目を擦っているし。

 ドラゴンになったらかなり体力を使うみたいだし今のうちに休ませて無理なく村に帰った方がいいかな。

 そんな事を考えながら準備を進めているとアスタルテが何かを感じ取ったのかドアの方を振り向いた。


「タクヤよ、どうやら迎えが来たみたいじゃ。」


 その言葉の数秒ごに部屋のドアがノックされ受付の女性が部屋に入ってきた。


「タクヤ様、ノレイン様がお迎えに参りました。」

「ありがとうございます、今行きます。」

「お連れ様は?」

「戻って来るまで休んでいるそうなのでこのまま残して行きます。」

「かしこまりました。」

「それじゃアスタルテ、行ってくるね。」

「気をつけるのじゃ。」


 アスタルテに手を振りながらノレインが待つ玄関まで向かった。




「おはようございます、タクヤ様。」

「ノレインさんおはようございます、お待たせ致しました。」


 ノレインに挨拶を交わし慣れた感じに竜車に乗り座席に座った。


「アスタルテ様は着いてこられないのですね。」

「はい。この後長旅になるかもしれないから休みたいとの事です。」

「そうですか。分かりました、ではお帰りはこちらの宿でよろしいですか?」

「そうですね。」


 簡単な確認を済ませた後ゆっくり動き出した竜車に揺られながらノレインと会話をし時間をつぶした。

 しばらく進んで外の景色を見ているとふと気になった事が出てきた。


「あの、ノレインさん。この道王城に向かう道ではないですよね。」


 そう、王城に向かう道とは違い知らない道を通っているのに気づいた。


「そういえばまだ伝えていなかったですね。本日はガーウィル様はお休みですのでご自宅まで送りすることになっております。」

「そうだったんですね。」

「お伝えするのが遅れて申し訳ございません。」

「いえ、この前通った道と違うのが気になったので。」


 気にしないでくださいと手を振りながら窓の外の風景を眺める作業に戻った。




 どれぐらいの時間が経っただろうか、日の光にうとうとしていると。


「タクヤ様、見えてきました。あれがガーウィル様が住んでいるお屋敷です。」


 その言葉に窓から身を乗り出して前の方を見ると他の民家より一回り大きい屋敷が見えてきた。


「大きいですね。」

「ガーウィル様は今は城内でのお仕事をしておりますが、少し前までは戦場で指揮を取っておられたお方でしたので、他の城内で働く者よりは良い家に住んでおります。」

「そうだったんですか。」


 道理で、ガーウィルをはじめて見たときに感じた軍人みたいと思ったのは間違っていなかったのか。


「着きました。どうぞお降りください。」


 竜車から降り屋敷に向かう。これが終われば村に帰ってルミーネのご飯でも食べたいなと暢気に考えていた自分を怨む事になるとは知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る