第10章 思惑②

「食ったのじゃ。」

「あんなにいろんな物を食べたのにまだ食えるとは……恐ろしい子。」


 現在は昼食を終え再度市場をふらふらと見て回っている。まぁ、ルミーネのお土産を買ったらホテルに戻る予定だ。

 アスタルテも満腹で眠いのか欠伸をしているし。


「ルミーネのお土産買ったら帰ろっか。」

「うむ…そうするかのう…」


 目を擦ってアスタルテはもう限界なのかもしれないな。早めにお土産決めて宿に戻るか。

 暫く露店を物色しながら歩いていると気になる品が目にとまった。


「これは。」

「おっ、お客さんいい目をしているねぇ。そいつはここいらでは取れねぇ鉱石を使って作られた品で、名前は確か……ねっくれすと言ったかな?なんでも森に住むエルフが身につけている物で街に出て来たエルフが売った商品なんだと。」


 宝石だろうか赤い透明な綺麗な石が加工られたネックレスが気になった。


「値段は?」

「5ヴィーネと7ネールだ。」

「うっ……高い。」


 手持ちは今ポケットに少し持っていたのと合わせるとぎりぎり6ヴィーネだ。

 値切りをしてみるか。


「おっちゃん、4ヴィーネと5ネールで売ってくらないかな?」

「バカを言うな。それを手に入れるのにどれだけ苦労したと思っている。」


 値切りの初手はかなりの無理難題な金額で交渉に出る。そこで相手が乗ってこなかった場合は……


「では、4ヴィーネと8ネールで。」

「5ヴィーネと4ネールだ。」


 次に少し高く金額を提示をする。ここで相手が乗ってくれば、あとは擦り合わせていけば。


「5ヴィーネで。」

「だー!分かったよ。5ヴィーネでいいぜ。」


 安く買うことが出来ると。

 良かったー、ネトゲーで交渉術を身につけておいて。


「そっちのお嬢ちゃんにあげるのか?」

「いえ、うちで待っている姉に渡す用です。」


 それを聞いた途端店主はアスタルテと僕を交互に見て何かに気が付いたような顔をしだした。


「なんでそれを先には言わねぇ!4ヴィーネでいい、持っていけ!」

「え、でも。」

「いいって言ってるだろう。」


 アレ?何で店主は今にも泣きどうな顔をしているの?

 取り敢えず店主の勘違いでネックレスを安く買えるのだから黙ってよ。


「まいどぅ、元気に生きろよ。」


 と、声をかけられ愛想笑いを残しその場を去った。




 宿に戻るのに歩いていると人混みの中にノレインの姿が見えた。


「ごめんアスタルテ、ちょっと良い?」

「うむ。」


 どうやらアスタルテにも見えた様で少し離れるのを承諾してくれた。


「ノレインさん。」

「これは、タクヤ様。こんな所で会うのは奇遇ですね。」


 小走で近付き話しかけるとノレインは驚いた顔でこちらに気が付いた。

 手には野菜や果物が沢山入っている紙袋を抱えている。


「買い物ですか?」

「ガーウィル様に頼まれた用事のついでに自分のご飯を買いに行っておりました。」

「そうですか。あ、そうだ。ガーウィルさんに伝言をお願いしてもいいですか?」

「はい、大丈夫です。帰る日程が決まったのですか?」

「そうです、明日のお昼には此処を出勤しようかと。」

「わかりました。ではお伝えしておきます。」

「よろしくお願いします。」


 これでガーウィルには帰る日程が伝わる。多分明日の朝に一度会って今後の予定を話し合いをする事になるだろう。


「それではガーウィル様をお待たせしておりますので失礼させていただきます。」


 申し訳なさそうに軽く頭を下げノレインはその場から立ち去った。


「んー、わらわはやはりあやつが苦手じゃ。なんて言えばいいのかのう、こう嫌な感じがするのじゃ。」


 ノレインが離れていくのを確認してからアスタルテは難しい顔をしながら近づいてきた。


「そうかな?僕はいい人だと思うよ。」

「ドラゴンの感かのう…」

「考え過ぎじゃないかな?」

「うむ…そうじゃとよいのじゃが。」

「そうだ、さっき買ったプレゼントのお金余ってるから何かデザートでも食べに行こうか。」


 その言葉を聴いたとたんにアスタルテは先ほどまで考え事をしていたの忘れたかの様に満面の笑みを浮かべこちらを見た。


「良いのか!?」

「いいよ、夕食まではまだ時間があるしね。」


 あぁ、せっかくのかわいい顔が台無しになる程に口からよだれを出して。

 持っていたハンカチでよだれを拭いてあげると袖を引っ張られた。


「なら、あっちから甘くてとろけそうな程に美味しそうな匂いがするのじゃ!はよう行くのじゃ!」

「アスタルテ!そんなに引っ張らなくても食べ物は逃げないから落ち着いて!」

「なにを言っておる!無くなってしまうかもしれん、時間は無限じゃが食べ物は有限じゃ!」


 そう叫びながら走るアスタルテに引っ張られ、転びそうになりながら僕たちは市場の中に消えていった。

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