第10章 思惑

ガーウィルと話した次の日、アスタルテと共に王都で一番賑わっている市場へと来た。


「タクヤ、わらわはアレが食べたいぞ!」

「アスタルテはさっきそこでラヴィの肉の串焼きを食べたばかりだろ。」

「でもあの丸くて甘い匂いのする物も食べたいのじゃ!」


アスタルテが指さす先には鈴カステラみたいに丸く一口サイズのお菓子が焼きたてで屋台に袋ずめされている。確かに美味しそうだが、ここまでアスタルテの食い意地が凄いとは思わずお金はそこまで持ってきていない。ルミーネに買うお土産の分も考えると昼食を取ってぎりぎり残るくらいだ。

だが、ここでアスタルテの要望を断るときっとがっかりするに違いない。

どうしたものか。


「そのお菓子一袋ください。」


屋台の前で値切りが出来るだろうか考えていると、横から白い軍服みたいな姿の男がお菓子を一袋買い上げた。


「まいどう。」

「はい、どうぞ。」



男は買ったばかりのお菓子をアスタルテに渡した。


「あ、ありがとうなのじゃ。」

「カルスさん!?」

「カルスでいいよタクヤ君。」


イケメン担当のカルスはアスタルテから僕に顔を向けにこやかにそう言った。




「騎士団団長がこんな所に居ていいの?」

「ははは、手厳しい指摘だね。今日は非番でね、散歩するついでに街を警備して回ってたんだよ。」


今は市場から近くにある噴水広場へ移動し、ベンチに腰をか落ち着いて話をしている。


「のう主よ。こやつは誰じゃ?」

「はじめまして、パクス騎士団団長カルス・エルマールです。」

「う、うむ。アスタルテじゃ。」


僕が紹介する前にカルスは自分から自己紹介をしアスタルテに握手を求めた。不意をつかれたアスタルテもぎこちない自己紹介をしカルスと握手をした。


「しかし、先程の光景を見ていたがお菓子を買うのに迷ってたみたいに見えたけどお金が無いわけではないのでは?」

「恥ずかしい所を見られましたね。本来の目的はガーウィルさんとの会談だったのでそこまでお金を持ってきてはいなかったのですよ。それに、アスタルテがここまで食い意地が凄いと思ってもいなかったので。」

「わらわはいつも通りじゃ。普段のわらわを知っているのなら分かっておる筈、それなりにお金を持ってくるのが普通じゃろ。」

「その事を考慮しても足りなかったんだよ。」


そんなやり取りを見ていたカルスが突然吹き出し笑い出した。


「あはは、ごめんごめん。見ていたらつい。君達は兄妹なのかい?」

「何をぬか、ウグッ!?」

「そうなんだよ、僕達は兄妹なんだよ!」


アスタルテが変な事を言いそうになったので急いで口を押さえカルスの問を肯定した。


「そ、そうか。仲良くていいね。」

「はは、あはは。」


若干驚きながらもカルスは納得した様に頷く。

ご、ごまかせたかな?


「暫くは王都に居るのかい?」

「いえ、明日のお昼頃には此処を出発して家に帰ろうかと。」

「昨日来てもう帰るのか、忙しいね。」

「はい、薬の調合を残したままなので戻って終わらせたいのと、ガーウィルと話をした事の返答を師匠と話がしたいので。」

「そうか。では今はゆっくりと観光しているってわけか。邪魔をして申し訳なかった、私はこれで失礼させてもらうよ。」

「アスタルテにお菓子を買って頂いて邪魔なんてとんでもない!」

「ははは、冗談だ。でも、私の方が用事が出来たようだから本当に失礼させていただくとするよ。」


カルスの目線の先には同じ軍服を着た女性が立ってこちらを見ていた。


「今度はゆっくりと観光しに来るといい。その時は王城に顔を出してくれたら街を案内するとしよう。」

「次回来た時はそうさせて頂きます。」

「うん、楽しみに待っているよ。」


その一言を聞きながら軽く握手をカルスとし別れた。


「のう主よ、あやつは人間なんじゃろうな。」

「ん?どうしたのアスタルテ?」

「いや、あやつから同族の気配がしたので気になったのじゃが、その反応を見るに人間のようじゃな。」

「アスタルテ同族の気配が分かるの?」

「そういえばお主に言っておらんかったのう。わらわ達龍は同族の気配を感じる事が出来る様になっておる。じゃが、わらわは他の龍とあまり会ったことがないのじゃ。もしかしたら先程の気配は気の所為じゃったのかもしれんのう。」


しゅんと肩を落として落ち込むアスタルテ。

もしかしたらアスタルテは同族に会えたと少し喜んだのかもしれない。だが違うと知って落ち込んだのか。


「アスタルテ、お昼は美味いもん食べよっか。」

「そうじゃな。」


少しでも気が紛れるかなと思い提案したが、少し嬉しそうにするアスタルテを見て間違いじゃ無かったようだ。

そうして市場に戻りアスタルテと並んで色々と物色を再開したのだった。

……因みに、昼食代は恐ろしい額になった。

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