第9章 王都アルキニス⑥
ガーウィルとの対談が終わり扉を出て来た道を引き返す。
扉を出る際ノレインが付いてこないのを見ると二人でガーウィルと何か話が有るのだろう。そう考えとりあえず歩き出す。
ただ、帰りはどうすれば良いのだろう。まさか歩いて宿まで戻れと言うと事だろうか。
が、その心配は要らなかったようだ。
「タクヤ様、お持ちしておりました。」
王城の扉を出てすぐに燕尾服を着たノレインとは別の男性が竜車を背に待っていた。
「はじめまして、帰りの送りを致しますモールケルと言います。」
「はじめまして、結城 卓也です。」
お互い軽くお辞儀をし挨拶を交わす。
「良かった、帰りは歩きかなと思ってたので助かります。」
「ノレイン様はガーウィル様とお話が有るそうでわたくしに送る様にとお申し付けておりました。しかし、タクヤ様にお話が無かったのはこちらの問題ですね、申し訳ございませんでした。」
モールケルは深く頭を下げ謝罪をしてきた。
「あ、頭を上げてください!別に怒ってるわけでは無いので!」
「そう言って頂けて感謝します。」
頭を上げてもらえたがその表情はやはり申し訳なさそうな感じがした。
「あまり立ち話をしていてはタクヤ様の体に堪えますね、どうぞ中へ。」
そう言いながらモールケルは扉を開け中に入るように促す。来る時と同じ内装で落ち着かないが座り心地が良いので無視した。
……この素材欲しいな。
扉が閉まりすぐに竜車がゆっくりと動き出した。
「しかしタクヤ様は凄いですね。」
「ん?僕がかい?」
しばらく揺られながら外の風景を見ているとモールケルが感心した感じで話しかけてきた。
「はい。ガーウィル様にお会いしに来られる人は大体有名な商人の方が多いのです。」
「そうなんだ、知らなかった。」
「そうなんです。ですから多分わたくしと同じ年齢であろうタクヤ様がガーウィル様にお会いし話をする事はわたくしからすると尊敬に値することなのです。」
前を見ているから顔が見えないが、モールケルはきっと興奮した顔で言ったに違いない。それが感じられるほどモールケルの口調は弾んだ感じがした。
だから僕は素直な感情を彼に言った。
「そんなふうに言ってくれて嬉しいよ、ありがとう。」
「いえ、感謝されるような事ではありません。」
彼は少し照れた様に頭を掻きながら笑った。
「そ、そろそろ着きますね。」
その声に外を見ると泊まる宿が見えてきた。
そしてゆっくりと速度を落とし竜車は宿の前で止まった。
「どうぞ。」
扉を開けモールケルが軽くお辞儀をして僕が降りるのを待っている。
うん、恥ずかしいから止めて欲しいが、きっとそうするように教育されているのだろうと勝手に納得し気にしない様にした。
「それではわたくしはこれで。」
「送ってくれてありがとう。」
「当然の事をしたまでです。が、感謝されるのは嬉しいです。では、またどこかで。」
「じゃあね。」
再度軽く手綱で指示を出された竜車はゆっくりと動きそして見えなくなった。
「……さてと、これからどうするかアスタルテと相談しなきゃ。」
完全に見えなくなってからこれからの行動をどうするか思考しながら宿へと入っていった。
「うむ……」
「どう思うアスタルテ。」
部屋に戻りアスタルテに話をした内容を教えた。
しばらくアスタルテは考え込みゆっくりと口を開いた。
「そうじゃな、今の感じじゃとわらわ達の考えすぎと感じるのう。」
「そう思う?」
「うむ、話の内容を聞くにそのガーウィルという奴は何か焦っておる様に感じるが悪意はさほど感じぬのじゃ。」
「てことは、単純に薬から検出した素材が貴重で手に入らない物だと知って軍事利用出来ないかと思い時間をかけて調査してたと?」
「そうなるのう。」
その答えに行き着いた途端に身体中を脱力感が駆け巡り椅子に深く寄りかかった。
「とんだ気苦労だったってわけかよ。」
「その気苦労のおかげで王都に来れたのじゃ、儲けもんじゃろ。」
カッカッカッと楽しそうに笑いながらアスタルテはベットに倒れた。
「ところでお主、村に戻ると言ったそうじゃが、いつ戻るのじゃ?」
「今日は疲れたからこのまま泊まるとして、明日は街を見て回ろうかと。ルミーネにお土産も買わないとね。」
「そうなると三日後に村に戻る訳じゃな。」
「予定としてはそうなるね。」
「うむ、了解したのじゃ。」
と話が区切れた頃合を見計らったようなタイミングで部屋に夕食が運ばれてきた。
かなりの豪華な料理を僕とアスタルテはお腹一杯になるまで食べ、その後ぐっすりと寝たのだった。
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