第9章 王都アルキニス⑤
「ふぅー……」
深いため息と共に椅子に腰を下ろし一人の少年が出て行ったドアを眺めた。
「急ぎすぎたか……」
自分が出世出来るであろうチャンスを目前にして判断を誤った。
少年、タクヤはここを立ち去る前に村長と師匠に話すと言ってたが、それは落ち着いて考えればすぐに分かる事だ。
師匠の方はどんな人物かは知らないが村長は昔から居る存在、契約の事も当然知っているだろう。
その二人と話をする事は今回の話は断られる事も要因に想像出来た。
「はぁー……」
その場で頭を抱えこんだ。
「お困りのご様子で。」
声の方に視線をやるとノレインが不敵な笑を浮かべこちらを見ていた。
此奴は時々気味の悪い笑を浮かべこちらの考えを見透かすかの様に的確なアドバイスをすることがあった。
今回もそうだろう。
「ガーウィル様、お困りならばこちらを使って見てはいかがでしょう。」
そう言い懐から出した小さな瓶をテーブルの上に置いた。
中身は透き通った薄い赤色で日の光を浴び怪しく輝いている。
「これは?」
「数滴で1回だけ相手を思い通りに命令出来る特別な薬です。」
驚いた。
何故そんな物をノレインが持っているのか疑問だったがそんな物が存在した事に驚いた。
「貴方様が望むのでしたらこれをお渡し致します。中身は無味無臭、飲み物にでも混ぜて使えば簡単に相手に飲ます事もできます。」
「だが、良いのだろうか……」
今は書類を眺め整理し問題が有れば対処しているが、昔はこれでも騎士だった。
そんな自分がこれを使うという事は許せないとブレーキをかけているのが分かった。
「何を迷っているのです。これを使えば貴方はこんな所で缶詰になって書類を整理しなくて済むのですよ。」
「し、しかし…」
「これを知っているのは私と貴方だけです。1回使った程度ではバレません。それに、貴方の屋敷ならば地下牢にでもあの少年を入れておけば見つかることは無いでしょう。」
「だ、だが………」
「迷う必要はありません。アナタがここから出る機会ではないですか。さぁ、手に取りなさい。」
「………」
目の前の瓶を取った瞬間、自分の中の何かが崩れて消えるのが分かった。
もう後には戻れない。
手の中に有る瓶を見つめながらそう思い、その場を後にした。
「フフフ……あぁ、言い忘れてました。成功失敗問わず使った場合は代償を頂きますね、ガーウェン様。」
そう 、自分以外誰も居なくなった部屋で不敵に笑っているノレインが居るとは知らずに……
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