第9章 王都アルキニス④

「ガーウィル様、タクヤ様をお連れ致しました。」


カルスと別れ王城の多分別棟であろう塔の1室の扉の前にて中からの返事を待っていた。


「入れ。」


短い返答を聞きノレインはドアを開ける。

中は至ってシンプルに物が置かれており応接用のソファーにテーブル、簡単な装飾と壁には色々な本が仕舞ってある天井まで有る本棚。

そしてドアの正面に書類の山が出来ている机にはガーウィルと思わしき男性が座って仕事をしていた。


「すまない、もう少しで一段落付く。そこに腰掛けて待ってくれ。」


チラッとこちらを見てそう言いながらガウィールは書類に視線を戻す。

ノレインに案内されソファーと思わしき横に長い椅子に座らされた。

数分待ったのち、ふぅと息を吐き、ひと段落ついたガウィールが椅子によっかかり天井を眺める。


「すまない、待たせた。」

「いえ、お忙しい中訪ねたのです。かえって申し訳ございません。」

「気にするな、呼んだのはこちらだ。」


ガウィールは椅子から立ち上がり、僕の対面のソファーに腰を下ろす。


「では、本題に入ろう。君はエーネルの街にて薬を販売している情報は役場から通達で我々は知っている。それに関しては問題なく続けてくれて構わない。ただ…」

「ただ?」

「ただ、君の売っている薬に使われている材料。これについて少し問題がある。」


はて、なにか問題になる材料を使っていただろうか?

クルスに聞いてまずい材料を抜き制作をしているはず。なのにも関わらずガウィールは問題がある材料が使われていると言っている。


「これを。」

「これは何ですか?」


ノレインから1枚の紙を渡された。


「それは役所から届いた君の情報と君が売っている薬の情報が書かれている物だ。」


そう言われ、紙に視線を移すと確かに登録した時の自分の情報と薬に関しての情報が事細かく書かれている。


「その情報の使用素材欄を見てくれ。」


言われた通りに使用素材欄の所を見ると1箇所だけ赤く丸を付けられている素材があった。


「エルフェスの根……」

「そうだ、その素材は一つまるまる使うと薬の効果を何倍にもしてくれる代物だ。」


それはクルスに教わっていた為知っていた。だから薬の調合には少量しか使わないようにと注意されていた。

そしてこの根はどの薬にも対応できる。

そう、にもだ。


「それさえ有れば、どの薬も効果は何倍にも出来るって事はだ、王都の軍に使われている回復薬の効果を向上させることもでき、更には兵士の恐怖心を緩和させる薬の効果も向上させる事が出来る。それは国にとっても素晴らしい事だとは思わないか。」


クルスは軍がもしエルフェスの根を手にしたら絶対いい方向に使われないと警戒していたが、その通りだったようだ。

この世界ににも元いた世界で軍に使われていた言わば麻薬の様な物が有る事を教えてもらっていたから予想は出来ていた。


「だが、その素材は取れる場所が現時点で2箇所しか分かっていない。1箇所目は北の国に有る大きな谷、グルームの谷と呼ばれている所の最深部と、もう1箇所。それは君が住んでいるであろう森、エスナルの森。我々の間では帰らずの森と呼ばれている森の中だけなんだ。」

「!?」


驚きのあまり立ち上がりそうになったが堪えた。

何故、僕の住んでいる場所が解ったんだ?

書類には王都在住と書いたはずだ。


「驚いているようだね。すまないがその根の事を知ったあと、君の事を調べさせてもらったよ。すると王都の住民の中には君の名前が無かった。だからノレインに頼み君の事を調査してもらったんだ。」

「な!?」

「あの街の管理を任せられているのだ、当然だと思わないか?得体の知れない者に街での販売を許可すると思うか?」


確かにそうだが、それならいつだ?

ルミーネと一緒なら視線を感じたら彼女は教えて来るはず。

そうなると一人で出かけていた時か?


「…少し逸れたな。話を戻すが、その根はエスナルの森で採取は出来る。が、そこに住んでいる者達との昔の契約で森での素材採取は禁止されている。そこで君と取引をしたいと思う。」

「取り引き?」

「そうだ。こちらの条件は森でエルフェスの根の採取の許可、そちらは今まで通り販売の許可。悪い条件とは思わないがいかがだろうか?」


なるほど、採取が出来ない場所に住んでいる人間を取引と言う名の一方的なやり取りでエルフェスの根を採取しようとしているのか。


「一つ良いですか?」

「なんだ。」

「この取り引きに応じたとして、あなた方はどれ程の量のエルフェスの根を採取しようとしているのですか?」


問題は他にも有るがまずはそこを確認する必要があった。

もし際限なく採取されればこちらの損害は大きい。何より、大量に軍事利用されたとなれば何が起きるかわかったもんじゃない。


「それは心配しなくていい。必要最低限だけを毎月頂く程度だ。」

「そうですか…」


それなら問題は無いと思うが……


「すみません、少し時間を下さい。」

「良いだろう。いきなりの事だ、考える時間も必要だろう。」

「考える時間もそうですが、これは私一人で答えを出せる問題では無いと思いまして。なので1度村に戻り私の師匠と村の村長を交えて結論を出そうかと。」

「……成程。確かに君一人で答えて良い問題ではないな。それなら王都を出る時にすまないがもう1度顔を出してくれ。その時に次回会う日取りを話あうとしよう。」

「わかりました。」


それを期にお互い立ち上がり軽く握手を交わす。


「良い返事を期待している。」

「ええ、こちらもそのつもりです。」


そして一言交わしその場をあとにした。

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