第8章 異変④

 次の日、アスタルテと王都に向かう為準備をしていた。

 一応商人らしくと思いある程度の道具が入ったリュックを用意して行くことにした。


「そうじゃ、お主にこれを渡しておこうかのう。」

「これは?」


 アスタルテが渡してきたのは長さ30センチ程の刃の部分が真っ黒の短剣だった。


「あの洞窟から出てくる時お主が持っていた錆びてた短剣じゃ。渡すのをすっかり忘れておったのじゃ。」

「錆びてたって……これ新品と変わんない程綺麗なんだけど?」

「それはこの村の鍛冶屋に頼んで治してもらったからのう。」


 いつの間にそんな事をしていたと思ったが1人でぶらりと出かけているアスタルテを思い出し勝手に納得した。


「結構苦労したようじゃ。なにせ見た事も、触った事も無い鉱物で出来ているらしいからのう。大事に使うのじゃ。」


 革で出来た鞘に短剣をしまい腰に付ける。


「うむ。一応さまにはなるのう。」

「そうかな、えへへ。」

「すぐに調子に乗らなければ満点だったのに、もったいないのう。」


 腰に付けた短剣の重みと初めての武器を手にした嬉しさで舞い上がって仕舞うのは仕方ないと思った。

 ただ、正直この短剣の出番が来ることが無い事を願う。


「それじゃ行こうか。ルミーネ、行ってくる。」

「行ってくるのじゃ。」

「うん、いってらっしゃい。」


 こうして僕達2人は王都に向けて出発したのだった。




 村から出て暫く歩いたところでアスタルテにドラゴンに変身してもらい背中に乗った。

 アスタルテは僕が乗ったのを確認し能力を使い姿をくらます。

 アスタルテの能力は姿を消すので無く、存在の認識を他に移しあたかも姿が消えた様に見せるものらしい。

 翼を羽ばたかせ空へと上昇した。

 この世界に来て2度目の体験だがやはりドラゴンからの眺めは良いものだ。


「タクヤよ、方向はどっちじゃ。」

「待って、エーネルがあっちだから……有った。アスタルテ、右に小さく見えるあの大きな塔の方向に向かって飛んで。」

「うむ、あっちじゃな。」


 小さくだが王都の象徴の王城と時計台が見える。

 その方向にアスタルテは身体を向け勢いよく飛び出した。


「うわ!ちょ、ちょっと待ってアスタルテ!落ちる!落ちちゃう!!」


 なんの予備動作も無く飛ぶからアスタルテの上から落ちそうになる。そして


「おぉ、すまんのう。」

「え、ちょ。うわああぁぁぁぁぁ……」


 そう言って急に止まったおかげでアスタルテの上から盛大に吹っ飛んだ。




「死ぬかと思った……」

「そ、その、大丈夫かえ?」


 あの後、急いで飛んできたアスタルテにキャッチしてもらい地面とご対面しなくて済んだ。


「すまなかったのう。久々に自由に飛んだものだから加減が出来なくて……」

「別に怒ってないから良いよ。」

「う、うむ……」


 あぁ、見るからに落ち込んじゃった。


「仕方ないさ、今まであの洞窟の中で生きてきたんだから。久々の外で飛ぶのはどうだい?」

「最高じゃ!!」


 多分人型になっていたら最高の笑顔で答えているだろうと思うほど声が弾んでいた。

 うん、やっぱりドラゴンは自由に飛んでいる方が良いに決まっている。

 だからこそドラゴンが虐げられているこの現状をどうにかしたい。

 再度自分の胸の中に決意をし王都に向かった。

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