第8章 異変③

 メリーネさんと別れてから今は昼食を取るために近くの店に立ち寄った。


「それで、これが王都からの手紙なのね。」

「うん、正直どうしていいか分からないから相談してみようと思って。」


 王都から届いた手紙をルミーネに渡して見せた。


「押されていた蝋封ろうふうは王家専用ね、城で働いている人達は必ず手紙を出す時はこの蝋燭を使うように決められているらしいから間違いないね。」


 そう言って封筒に蝋で押されていたライオンと思わしき動物と王冠が描かれているハンコの跡を指さして説明してくれた。


「そうなるとこれを無視はできないわね。もし悪戯いたずらだったら無視して良かったけど。」

「なら行ったほうが良いよね。」

「そうね。それにガーウィルって人は私ですら知っているから尚更無視したら何がおきるか。」


 ルミーネは両手で自分の身体を抱き身震いをした。


「んー、どうせ暇だし早い方が良いよね。なら明日にでも行ってみるよ。」

「それなら私も付いて…」

「いや、今回はアスタルテに付いてきてもらおうと思ってる。」

「どうして?」

「森から王都迄はかなりの距離が有るから移動にはアスタルテに頼んで運んでもらう。ルミーネが付いてきてくれても助かるけど多分1日では帰って来れない。そうなると誰が畑の手入れをするのかい?」

「それは村の誰かにお願いねして…」

「うん、それもいいけど、毎日野菜の管理を一生懸命やっているルミーネはそれで本当に良いの?僕だったらせっかく丹精込めて育てた野菜を1日や2日だけと言って任せるのは正直嫌だな。」

「うっ……」

「これは毎日手伝いをしてルミーネを見ている僕だからこそ分かる事なんだ。ルミーネは人に任せれる程あの野菜を軽視していない。」

「それは……」


 ルミーネの耳と尻尾がみるみる萎れていく。

 ちょっと言いすぎたかなと思った。


「うー……。良いわよ、そこまでに言うなら無理を言って付いては行かないわよ。」

「本当にごめんね。」

「謝らなくてもいいわ。正直王都には興味が有ったから行ってみたかっただけだから。」

「何かお土産を買ってくるよ。」

「期待はしないで待っているわ。」


 舌を可愛く出して冗談を言い返してくるのを確認して少しほっとした。

 しかし、ルミーネを連れて行かないのは別に野菜の事が理由ではなかった。

 正直この手紙の件は自分の中で嫌な予感として小さな芽を生み出していた。

 これが思い過ごしであって欲しいと願うばかりだ。


「さて腹ごしらえも終わったし帰ろ?」

「そうだね、遅くなる前に帰るか。」


 軽く2人前を平らげたルミーネが席を立つ。


「あ、支払い宜しくね。」


 そしてちゃっかり支払いを押し付けて店を出ていった。




「と、言う訳でアスタルテ悪いが明日王都まで一緒に来て欲しい。」


 その日の夜、街から帰ってきてすぐにアスタルテに今日の事を伝えた。


「嫌じゃ。」

「そう言わずに頼む。」

「わらわは運び屋では無いのじゃ。他を当たる事じゃな。」


 理由を聞き王都まで運んで欲しいとお願いしてから少し怒った様にそっぽを向きながら嫌だの一点張りで現状困っていた。


「それにじゃ、まだ何か隠している事が有るのではないのかえ?」

「うっ……」


 図星だった。

 胸の中のモヤモヤした嫌な予感の事はルミーネにもそうだが、アスタルテにも伝えるか迷って話してはいなかった。

 だがアスタルテに指摘されても尚、黙っているのは無理だと判断し話す事にした。


「……実は手紙を貰った時からずっと胸の奥に嫌な感じがしているんだ。」

「ほう、それはどうしてじゃ?」

「それは何故いきなり王都から手紙が来たのか。まぁ、これについてはもしかしたら単に普通より効果の良い薬を売っている自分に話を聞きたいって事だろうと思った。だがそれなら何故このタイミングなのかが気になった。」

「タイミング?」

「ん?あぁ、ごめん。タイミングってのは僕のいた世界で使われていた言葉なんだ。」

「うむ、それは後で聞くとしよう。すまぬ、話をそらしたのう。続けるのじゃ。」

「うん。本来なら1回目の売りに行った時に僕の話がガーウィルって人に行っていると思った。それならその時にでも呼べば良い。」

「もしかしたら単に話が行ってなかっただけではないのかえ?」

「それは考えた。だからこそ2回目の時に手紙が来ていなかった。そして3回目にようやく手紙が来たと。」

「普通ならそう考えるのう。」

「だがメリーネさんはこう言った。昨日この手紙を渡されたと。」

「それがどうしたのじゃ。王都からその街までは結構な距離が有るのではないのかえ?それで遅れてたまたま昨日届いただけでは。」

「2回目と3回目の間は1週間空いている。旅商人に聞いた事だけど王都からエーネル迄は一日半有れば着くそうだ。それともう一つ。役場の人にも聞いてみたが、手続きした次の日には必ず王都に書類を送る決まりになっているらしい。」

「そうなると2回目の時にはもうおぬしの存在は知られているっと。」

「そうなるね。そして僕は手続きしたその日メリーネさんの店に行き薬を売った。」

「………」

「必ず次の日には書類が王都へ送られる。それが約2日王都に届くのがかかったとしても2回目の時にはもう店の場所まで特定出来ている筈だ。普通のとは違う薬なら尚更。」

「それ程度の事に時間をかけてる……」

「無能が探してやっと見つけたのなら話は別だがもし、今までの空いた期間が違う事に当てられていたら。」

「うむ……」


 アスタルテは少し考えると顔を上げ。


「よかろう。明日お主に付いていくとしよう。」


 そう言ってくれたのだった。

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