第8章 異変⑤

「そろそろ降りて歩こうか。」

「うむ、そうじゃの。」


 王都に近くなってきたので近くの草原へと降り立ちアスタルテは人型に戻った。

 服は事前に用意していたので裸のままって事はない。


「ほれ、もう良いぞ。」

「それじゃ行こうか。」


 竜車が行き交う道に近づきその道に沿って歩いて王都へと向かう。

 道中通りすがる竜車から商人が挨拶をしてきたので軽く会釈をした。

 するとスピードを落として僕達と並ぶ形で寄ってきた。


「お前さん達見ない顔だが旅の者かい?」

「はい、旅をしながら商人をしています。」

「そうか、兄妹でか?」

「えぇ。」

「ほう、偉いな。家のバカ息子は何もしないで家でのうのうと生活しているからお前さん達を見習って欲しいもんだ。」


 苦笑いをしながら自分の息子のダメさを話してきた。


「此処で会ったのも何かの縁だし自己紹介でもどうだ。俺の名はグランだ。」

「僕は卓也でこっちがアスタルテです。」

「タクヤにアスタルテだな。しっかしタクヤとは変わった名前だな。」

「よく言われます。」


 当然だ、この世界では無い人間の名前なのだから。

 それに日本人の名前は異世界では聞くことの無い名前だろう。


「そうだちょっと待ってろ。」


 そう言うと荷台をガサゴソと漁り出した。


「ほれ、やるよ。」


 何か2つ投げて渡してきた。

 それは森で見た事の無い果物だった。


「珍しいだろ。東の国では手に入らない果物だ。」

「うむ、甘い香りがするのう。どれ1口。」


 そう言って果物にかぶりつくアスタルテ。

 味わって食べていたがその動きがピタッと止まった。


「アスタルテどうしたの?」


 心配になりのぞき込む様に顔を見ようとした。


「美味いのじゃ!!」


 思いっきり顔を上げるアスタルテにぶつかりそうになった。


「なんなのじゃこれは!これ程甘くて美味しい物は食うた事が無いのじゃ!」

「ははは、そうか気に入ったか。それは北の国で取れるクレルって言う果物で最高に甘くて美味いんだ。」


 試しに自分も1口がじってみると口の中に今まで食べてきたどの果物よりも甘い果汁が溢れた。

 しかもかなりの甘さなのにも関わらず口の中に残らない。


「確かに美味しい……」

「のう、お主。これもっと無いのかえ?」

「お嬢ちゃん、俺は商人だ。流石にタダではこれ以上やれねぇよ。」

「そうか、そうじゃの……」


 わかりやすい程にアスタルテは落ち込んだ。

 当然の事だと思う。そんなホイホイと商品をタダであげていたら生計が立てられなくなる。

 だた、久々の村の外に出たアスタルテが落ち込んでいるのを見るのはやっぱり可哀想だと思った。


「おっちゃん、幾ら?」

「お、そうだな一つ1ネールと2ルーナでどうだ。」


 ちょっとどころか高い。普通のなら果物で高くても5ルーナ程度、それの2倍をふっかけて来ているところを考慮すると……


「どうするんだ?」

「グランさん僕達駆け出しでそこまでお金を持ってないのです。もう少し値を下げて貰いたいと思うのですが。」

「そう言われてもなぁ、この商品を手に入れるのに1週間以上かかってる。それにな、取引先にはもっと高値で売るつもりだ。それに比べれば安いと思うのだがな。」

「それでも僕達には高いです。せめて7ルーナでどうですか?」

「安い過ぎる。1ネールだ。」

「いいえ、7でお願いねします。」

「おい、兄ちゃん。あんまり商人舐めんなよ。てめぇの懐具合は見た目で分かる。ぱっとみ真新しい服だな。さぞ安かったんだろうな。」


 っく、服の状態で探りを入れていたのか。


「わかりました、8ルーナでダメですか?」

「そこまで指摘されているのに自分の有利に事を運ぼうとするか……」


 グランは少し考える様に唸り出したが。


「ククク。アハハハハ!気に入った!分かったよ、一つ8ルーナでいいぜ。」

「!!有り難うございます!」


 交渉とは言い難いがなんとか値下げに成功した。


「兄ちゃん、さっきも指摘したが商人は少しの情報で相手の懐具合をある程度分かる。今度交渉する時は気ぃつける事だな。」

「はい、無理を言って申し訳ございません。」

「良いって気にするな。で、何個欲しいんだ?」

「三つ下さい。」

「あいよ。」


 グランからクレルを三つ貰いお金を渡した。


「あ、それとグランさんこれ。」


 そう言ってポーチから回復薬を一つ渡す。


「これは?」

「自分が売っている回復薬です。お礼と商品の認知の拡散にお渡しします。」

「け、ちゃっかり自分も商人としてやる事はやるってか。まぁ、タダで貰える物は貰っとくぜ。ありがとうな。」


 多分効果は期待してないが貰っとくか程度だろう。だが、それでも自分という存在が薬を売っているって事を知ってもらうのは今後の役に立つと思い渡したのだ、その程度でもいいから覚えていて欲しい。


「じゃ、俺は先に王都に行かせて貰うぜ。」

「はい、もし王都で会ったらその時は商人の心得を酒を交えながら聞かせてください。」

「あははは、そこまで抜かり無いか!良いだろう、今度会ったらその時は俺の奢りで話をしてやるぜ。じゃあな。」

「楽しみにしてます。」


 言葉を交わし手を振って見送る。

 流石竜車、あっという間に見えなくなった。


「ほれアスタルテ、三つしかないからゆっくり食べなよ。」

「タクヤよすまんのう。」

「気にする事は無いよ。自分も欲しかったし。」


 アスタルテの頭をワシャワシャと撫でる。

 最初は逃げようとしていたが今では気持ちよさそうに撫でらているアスタルテを見てホットしながら王都に歩みを進めた。

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