第8章 異変

コンコン


ここは王都の中心に位置する場所にある王城の1室。

ドアの前には燕尾服を着た男性が中からの返事を待っている。


「入れ。」


中から入室の許可の声がかかると男性は静かにドアを開け中に入った。


「今月のエーネルの街の状況報告をしに参りました。」

「そうか。」


椅子に腰を掛けながら山の様に積まさってる書類に目を通す眼帯をした男性は一旦手を止め燕尾服の男性へと目を向ける。


「で、どうだ。何か変化はあったかノレインよ。」

「特に大きな変化はありません。いつもの様に平和な街ですガーウィルさま。」

「そうか。」


大きく息を吐きながらガーウィルと呼ばれた男性は椅子に寄りかかり煙草に火をつける。


「交易が盛んな街の管轄かんかつを任されたが書類が多くて頭が痛い。そこに問題など起きたらお手上げだ。」


勢いよく煙草の煙を吐きながら愚痴をこぼすガーウィル。

そんなガーウィルにノレインは1枚の書類を差し出す。


「これは?」

「書類に目を通している時に見つけたものです。」


ガーウィルは渡された書類に目を通す。


「ただの販売許可証申請結果の書類ではないか。軽く目を通したが一般的な回復薬よりも効果が良いだけの代物の許可書だな。これがどうしたと言うのだ。」

「えぇ、わたくしも初めはそう思いましたがそこに書かれている使用材料候補に目を通して下さい。」


そう言われガーウィルは該当箇所を見る。


「これは!?」

「はい、そこに書かれている素材。そのどれもが普通に手に入る物。その中に一つだけ手に入らないであろう代物の名前が記載されております。」

「……」


書類に書かれている素材はノレインが言った通り何処にでも売っているであろう素材ばかりだ。だが、その中の一つだけ明らかに異質の素材の名があった。


「いかが致しますか?」

「この者と1度話をしたい。どうにかしてここへ連れて来い。」

「承知いたしました。」


その命令を聞き終えたノレインは一礼をしその場を後にした。

部屋に残ったガーウィルはもう一度書類に目を通し、そこに書かれていた販売者の名前を口にした。


「ユウキ タクヤ……」


呟いた口は三日月の様に歪んで笑っていた。

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