第7章 旅商人の為の街エーネル④

 役場を出て市場に向かう。

 ルミーネが背負ってる野菜を売りに行くためと、自分の薬を売れる場所を探す為だ。

 市場に着いてルミーネは真っ先に1件の八百屋に向かった。


「ガジットおじさん、こんにちは。」

「おう、ルミーネじゃねーか。」


 夜に出会いたくない人ナンバーワンに浮上しそうなイカツイ店主に親しく話しかけるルミーネ。


「ルミーネが来たって事はもうそんな季節か。」

「まだ春になったばかりですよ。」

「そうか、てっきり俺は夏になっちまったのかと。」


 少し離れた場所から楽しそうに話す2人のやり取りを眺めていた。


「っと、後ろの坊主はお客さんか?」

「いえ、僕はルミーネの付き添いで。」

「そうだったか。って、今なんて言った?」

「ルミーネの付き添いでっと……」

「なんってこった!ついにルミーネに男が出来たのか!?」

「「違います!!」」


 綺麗にハモった。

 2人に否定され目を点にして驚いた様子だ。


「わ、わりぃ。俺の早とちりだったか。」

「本当にもう、おじさんったら。」

「ははは、許してくれや。ところで坊主、オメーさんどこかで合わなかったか?」


 こんなイカツイ筋骨隆々の人に会ったら間違いなく覚えてる自身がある。

 でも、確かにこの人とどこかで会ったような気が………


「「あーーーーー!!」」


 今度は男2人の大声でルミーネが驚いて硬直した。


「あの時のおじさん!」

「あの時の坊主!」



 そうだ、この人はこの街に初めて来た時に1番最初に話かけた人だ。


「元気にしてたかー。あれ以来、姿が見えなくなったから心配はしてたんだぜ。」

「あれから色々とありまして。覚えていてくださったのですね。」

「あたりめーだ、今どきテティール語を話す奴なんざ命知らずか、それしか知らねー田舎もんだけだからな。」


 テティール語、旧言語の差別用語だ。

 旧言語をテティール語、新言語をアルバー語と言うとルミーネに教わった。

 ついでに、村以外の場所で人間がテティール語を使って話すのは禁止されているそうだ。

 1部、国のトップや憲兵は他国への密告などを防ぐ為にテティール語を覚えているらしいが。


「元気そうにしていた事も分かったし、話を戻して、ルミーネ今日は何を持ってきたんだ。」

「これよ。」


 リュックから取り出したのは直径20cm程の大きさのキャベツに似た野菜だ。


「ほーう、見事なキベットだ。だがキベットは夏に収穫の時期を迎える野菜の筈だが?」

「品種改良してみたの。どうかしら?」

「んー、1枚食べていいかい?」

「どうぞ。」


 ガジットは1枚千切りそれを口に運び味わう様に食べる。


「美味いじゃねーか!」

「でしょ、これいくらで買い取ってくれる?」

「そうだな、一つ4ネールでどうだ?」

「もうちょっとおまけして欲しいなー。」

「しゃーね、6ネールでどうだ!」


 1玉6ネールはかなりの価格だと思った。

 ネールはこの世界でのお金の値で、ルーナ、ネール、ヴィーネの順で価値が上がる。

 10ルーナで1ネール、15ネールで1ヴィーネと計算するらしい。

 今回の取引は1玉6ネール、それが5玉有る、だから儲けは2ヴィーネとなる。

 因みにこの世界の単価は安く基本の野菜は袋詰めされており大体平均価格は、2ルーナから3ルーナと手頃だ。

 それを1玉6ネールで取引を成立させたって事はよほどルミーネが作った野菜を気に入ったのか、お得意様だから高く買ってくれたのかは分からない。


「ほら、2ヴィーナだ。落とすよ。」

「ありがとう、おじさん。」


 ルミーネは金で出来ているヴィーナのコインを受け取り嬉しそうに尻尾を振ってる。


「所でおじさん、この近くに薬を買い取ってくれそうなお店知らない?」

「薬をか?そーだな、1件だけ知ってるが……」


 渋い顔をし黙ってしまった。


「ガジットさん?」

「大丈夫だとは思うがあまりおすすめはぁしねーな。」

「「?」」


 顔を見合わせ首を傾げる僕とルミーネ。


「この裏の路地に1件薬を取り扱ってる店が有る。ただ、そこの店主は噂では魔女だって聞いてんだ。」

「魔女ですか。」

「噂だから本当はどうか知らねーがあそこの薬は良いもんが有るから俺もたまぁに行くけど、不気味って言うかこー言い表せない感じの雰囲気があるんだ。まぁ、どうしても行きてぇって言うのなら教えるが。」

「是非お願いします。」


 他にも薬を売ってる所は幾らでもあるだろうがなんとなく其処が安全だと思った。


「そうか、なら道は……」




 ガジットのおじさんに聞いた道を辿り裏路地を進む。


「あった、ここね。」


 其処には確かに怪しい感じの店が1件ポツンと営業していた。

 ただ、この怪しい感じどこかで感じた事の有る様なー……


「行きましょ。」


 そう言ってルミーネは臆することなく店の扉を開けて中に入って行くだった。

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