第7章 旅商人の為の街エーネル③
「準備は出来てる?」
「うん、終わってるよ。アスタルテは本当に行かないの?」
「この村の者達とおぬしらは平気なのじゃが、まだ人が苦手なのじゃ。うっかり滅びしかねん。」
かっかっかっと笑いながら冗談を言っているが昔を思い出すのだろう、強く握られた手が小さく震えていた。
「分かった、お昼までには戻るから。」
「うむ、気おつけるのじゃ。」
アスタルテに手を振りながら街に向かって出発する。
クルスに相談したあの日から数日が経っている。
『クルス君に許可もらってるなら良いんじゃない。』
家に戻りルミーネに相談したらそう言ってあっさり承諾してくれた。
自分も用事が有るから数日待って欲しいと言われたので、特に急がないからゆっくり準備して良いよとだけ言って話を終わらせた。
そして今日、街に行く日としては絶好の晴天になった。
街までは竜車に乗せてもらって向かうとの事だ。
「ちょっと待ってね。」
森を抜ける前にルミーネが足を止める。そしてその場で人型に姿を変える。
久々に見た為か不覚にもドキッとしてしまった。
「さ、行こ。」
何事も無いかのように先に歩き出すルミーネに、顔を少し赤くしながら後に付いていく。
竜車に無事に乗れ、近くの街まで向かってくれた。
「若いのにこんな遠くまで偉いねぇ。」
長旅で暇だったのか乗せてくれたおじさんが話かけてきた。
王都で暮らしている僕達は、姉弟で離れて暮らしている祖母の所に向かっているという設定になっている。
「毎月の事ですから慣れました。」
笑顔で話してるルミーネ驚きながらも、自分が話を理解出来ている事に安心と嬉しさが心に込み上げてきた。
1ヶ月以上ルミーネが毎日教えてくれたおかげだ、商品が売れた時にでも何か買ってあげよう。
そんな事を考えながら竜車の荷台に揺られながら座っていた。
暫くして竜車が止まった。
何事と思いながら荷台から顔を出すと、おじさんが荷物点検が有ると教えてくれた。時間がかかるとの事だったので歩いて向かうと告げ竜車から降りた。
おじさんにお礼を言い歩き出す。街までは目と鼻の先程だった。
『ようこそ商売の街エーネルへ。』
街の入口には初めて来た時に読めなかった看板が変わらずかかっていたが文字を覚えた今では普通に読めた。
「着いたわね。」
「初めて竜車に乗ったからお尻が痛い……」
「慣れると楽しいわよ。」
「時間がかかりそうだ。」
「あはは。さて、まずタクヤは役場に行かないとね。」
「そこで販売許可証を発行してもらうだよね。」
「そうね、問題が無ければすぐに終わるから先に役場に行きましょ。案内するね。」
歩き出すルミーネに遅れない様に後に続く。
この街に来たのは2回目だが最初と違って言葉が分かるだけで印象は全然違って見えた。
「賑やかでいい街だね。」
「そうね、心地いい騒がしさだわ。」
嬉しそうに尻尾が揺れてる。
「見えてきた、あそこに見える大きな時計の所が役場よ。」
ルミーネが指さした先を見ると、大きな時計が確かに見えた。
「確かに大きいな。」
「凄いでしょ。」
自分が作った訳でも無いのに自慢げに胸を張るルミーネに思わず吹き出してしまった。
「なによ、いきなり笑って。」
「ごめん、つい可笑しくて。」
少し不機嫌になったルミーネに叩かれながらも役場に向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
役場に着き手続きの為に窓口に向かうと受付のお姉さんが決まり文句で用件を聞いてきた。
「販売許可証の作成がしたくて来ました。」
「わかりました、暫くお待ち下さい。」
そう言い残して席を外す。
そのまま待っていると奥から違う人がやってきた。
「許可証の作成ですね。こちらへどうぞ。」
案内されたのは簡単なテーブルと椅子が有る部屋だった。
「この用紙に必要事項の記入をお願いします。」
笑顔で用紙を渡してくる。
名前、年齢、許可して欲しい商品、あとは注意事項とそれの同意にもう1度名前を書くだけと内容は至って簡単なものだ。
「書き終わりました。」
「失礼します。」
軽く目を通して頷く。
「大丈夫です。お売りする物は薬品との事ですので検査用でお一つ頂いても宜しいでしょうか?」
「はい。」
あらかじめルミーネからは聞いていたので準備はしてあった。
サンプル用で準備した薬を渡す。
「それでは検査しますので暫くお待ち下さい。」
係の人は薬の入った瓶を持って部屋を後にする。
「あとは待つだけだね。」
「そうだね。」
暇な時間が出来てしまった為ルミーネとこの後どうするかについて話をして時間を潰した。
数十分後、係の人が戻ってきた。
「問題が無かったので許可がおりました。こちらが許可証になります。」
そう言って鉄で出来た小さなカードを渡してきた。
「これが許可証……」
「良かったね。」
自分の名前が彫られたカードを見て安心した。
「良かったですね。液体状の薬は許可がなかなか通りにくいので私からも祝福致します。」
にっこりと笑って係の人は祝ってくれた。
「ありがとうございます。」
「それではこれで終わりですのでお気おつけておかえり下さい。」
「失礼します。」
席を立ち外に向かう。
これでやっと自分が作った物を売れる様になった嬉しさでカードを見る度ににやけてしまうのはしょうがないと思う。
さて、次はこの薬を売る場所を探さなくては。
そう思いながら市場へと向かうのであった。
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