第7章 旅商人の為の街エーネル

 この村に住み始めて約1ヶ月が過ぎようとしていた。

 最初の頃はルミーネ達と同じ家で住む事に困惑していた生活も慣れ始め、その間に色々と学んだ。

 この世界の時間は二種類の方法で知ることが出来る。

 一つは太陽や月の位置で知る方法、これは昔から有る方法の様で日時計に近い。

 もう一つは時計で知る方法だが、時計が作れるのは手先の器用なエルフしかいない為、かなりの高価な物の様でまず持っている人は少ないらしい。ただ、大きな街や王都には大きな時計が有るらしく、そこに住む人々はそれで時間を知っているそうだ。

 時間の区切りは元いた世界と同じく一日が二十四時間だった。

 季節も春夏秋冬とあるらしく、今は春から夏にかけての時期らしい。

 クルスに教わってた薬の作り方もある程度習得し、今では解毒薬などを教わり始めた。

 言語の方も少し変になるがある程度までは会話が出来るまでになり、文字も書ける様にはなった。




「タクヤこっち手伝ってー。」

「分かった、今行く。」


 今は毎日の日課となった畑仕事の手伝いをしている最中だ。

 驚いた事にルミーネは自分の畑を持っており、冬以外は毎朝欠かさず畑を見ているだそうだ。


「ここに種を巻けば良いの?」

「うん、お願い。」


 丁度種まきの時期で夏野菜を育てる。

 出来た野菜は自分で料理をし食べたり、街に行き売って新しい種の資金調達などに使っていると誇らしげに話していた。


「ふー、今日はこれぐらいで終わりにしましょ。」

「疲れたー。」


 毎日手伝っているとは言えやった事の無い作業に疲れを覚える。

 まぁ、体力作りにと思って自分から手伝いたいと言い出した事だから投げ出す気は無いが。


「ご飯にしましょ。」


 そう言いって平気な顔で家に向かうルミーネを見て、自分の情けなさにため息をつきながら後を追いかける形で家に帰る事にした。




「おぬしらは朝から元気じゃな……」


 目を擦りながら出迎えるのは、今起きてきたであろうアスタルテだ。

 別にアスタルテの起床の時間が遅い訳では無く僕らが早いだけで、至って普通の生活をしているアスタルテに文句の言葉は出ない。


「おはよ、アスタルテ。」

「アスタルテちゃんおはよ。今お風呂入ったらご飯作るから待っててね。」

「うむ、顔を洗ってくるのじゃ……」


 大きな欠伸をしながら外の井戸まで向かうアスタルテを見送りお風呂に向かう。

 お風呂はルミーネ達が入る女性用と僕しか入らない男性用のに分かれている。男性用はルミーネが村の人に頼んで作って貰ったもので意外と立派な造りだ。


「覗かないでよ。」

「誰が覗くか。」


 などと冗談を言いながらそれぞれのお風呂に向かう。

 服を脱ぎ汚れた体がを洗い流し、温めておいた湯船にゆっくり浸かる。畑仕事の疲れが溢れたお湯と共に流れていくような感覚に囚われながら暖まる。

 暫く浸かり体から疲れが抜けたかなと言うぐらいに湯船から上がり、体を拭いて着替える。

 服はアルテが使っていない昔のを貰いきている。

 お風呂はルミーネより先に上がる為、朝食まで少し時間が出来るのでお皿を出したりして時間を潰す。

 ルミーネはお風呂から上がってくと料理を始め、リズム良く野菜などを切る音が聞こえる。

 顔を洗ってきたアスタルテが自分の定位置に座りお腹を鳴らしながら待っている。

 これが今の僕らの毎朝の日常風景になっている。




「タクヤはこれからクルス君の所に行くの?」

「そうだね、今日は素材採取しにいく予定だよ。」

「そっかー、じゃあ今日はついて行かない。」


 最初の頃、迷惑をかけないつもりで黙ってクルスの所に行っていたがルミーネにちゃんと事情を話て理解してもらい今は普通に行ってる。

 それでも時々付いて来てはクルスを困らせていた。


「アスタルテは……いつもどうり森を散歩するのかい?」

「そうじゃの。」


 最近日課の様に森を散歩するアスタルテにどこかおばあちゃんみたいな感じがすると思い始めている。本人は長く閉じ込められていたから運動と外の景色を堪能したいとは言っていた。


「それじゃあ、お昼は皆バラバラになるのね。」

「そうだね。早めに帰ってくる予定だけど、自分で適当に作るから僕の分は作らなくて大丈夫だよ。」

「わらわは森の木の実を適当に食べるから平気じゃ。」

「分かったわ。」


 このやり取りも最近の日常となっている。

 週に2回は皆でお昼を食べているが、基本はバラバラの時間にそれぞれ食べている。


「さて、時間だから行ってくる。」

「気をつけてね。」

「おう。」


 そう言い残してクルスの家に向かった。

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