第6章 薬師のクルス
広場に出て直ぐに薬師の家が分かった。
「……目立つな。」
「そうじゃろ。」
他の家と比べていかにも怪しい事をしていますよと言う雰囲気が滲み出ている家が1件、魔女が大釜で危ない薬でも作ってるのではと思う程危ない感じがする。
………正直入りたくない。
「ほれ、行くかの。」
「アレに?」
「アレにじゃ。」
「……行きたくないんだけど。」
「……気持ちは分かるのじゃがお礼を言いに行くのじゃろ?」
「うぅ〜……」
渋々アスタルテに付いて行く、入口まで来たけど薬品のにおいが外まで漏れてる。
「邪魔するのじゃ、クルスは居るかの。」
「はーい、ちょっと待ってくだ……わっ!」
奥から子犬の見た目の少年が出てきたが躓いて盛大に転んだ、棚に飾ってあった瓶やらが音を立て落ちる。
……頭から転んだが大丈夫か?
「忙しないやつよの。ほれ、大丈夫かえ?」
「すみません、助かります。」
アスタルテに起こされながら立ち上がるが店の中がぐちゃぐちゃだ。
「あ〜、片付けなきゃ……」
見て分かるくらいに尻尾が落ち込んだ。
「大丈夫?」
「あっ、すみません。お客様ですね、いらしゃませ。」
「いや、違うんだ。ここの回復薬で腕が折れてたのが治ったからお礼をと思って。」
「そうですか、それは良かったです。でも、お礼なんてされる程の事はしてないですよ、薬師として当然の事をしたまでですし。」
「だとしてもお礼は言わせて欲しいかな、ありがとう助かったよ。」
「えへへ、素直に感謝されるのはいつまでも馴れないものですね。照れちゃいます。」
おぉ、凄い勢いで尻尾を振ってる、相当嬉しいのかな。
「あ、ぼくクルス・ネルトルと言います。クルスでいいです。」
「よろしく、クルス。僕は結城 卓也だよ。」
「タクヤさんですか、こちらこそよろしくお願いします。」
軽く握手をしてお互い自己紹介をした。
ぐるっと店内を見てふと気になった事が出来た。
「このお店って、クルスが1人でやってるの?」
「はい、そうです。」
「それは凄い、じゃあ回復薬も君が作ったの?」
「はい!」
あぁ、そんなに尻尾振ってアスタルテの顔に当たってるよ、彼女怒ってるよ気づいて。
「回復薬ってこんなに凄いものなの?」
「いえ、街で売っている様な回復薬は体力の回復、切り傷や擦り傷程度の傷の回復、他には王都の騎士団や警備隊が使ってる大きな怪我を1週間程度で治す事が出来る物ですね。だけど、ぼくが作ってる回復薬は他と作り方や材料が違うので効果が大きいのです。」
「なるほど。」
本来の回復薬では骨折を治すのに約1週間以上かかるのを、ここの回復薬はほぼ一瞬で治したという事か。
その話を聞いて興味が出てきた。
「その回復薬って僕でも作れるかな?」
「んー、どうでしょ。出回ってる普通のなら作れるとは思いますが、ぼくが作ってるのは難しいかもしれません。」
「そっかー、興味が出てきたから作れるなら教えてもらおうと思ったけど無理なら止めよくよ。」
「あ、作るのは無理では無いです。材料と分量を間違えなければ似たものは作れます。ただ効果が同じのは作れないかもってだけですので、良ければ教えますよ。」
「本当に!?」
「ええ、ぼくで宜しければ。」
「それじゃお願いするよ。」
やった、少しでも良いこの世界の知識を身に付けなければもしも何かあった時に対処出来ないと困る事になるのはゴメンだ。
「では時間が空いた時で良いので寄ってください、お店はご覧の通り暇なので。」
「ありがとう、近々またお邪魔するよ。」
「はい、お待ちしております。」
「話は終わったかの。」
暇そうに棚にあった瓶を眺めていたアスタルテが聞いてきた。
「ごめん、暇だったでしょ。」
「別に良いのじゃ、おぬしらが楽しそうに話をしていて、わらわを忘れてたとしてもの。」
あぁ、拗ねちゃった。
「だからごめんって。」
「ふんっ。」
「あはは……」
「すみません、拗ねちゃったので帰ります。」
「いえ、わざわざお礼を言いに来てくださっただけでも嬉しかったです。」
「アスタルテ帰るよ。」
「子供扱いするでない!」
見た目が子供だったからついなんて言ったら殺されるな……
「それではお邪魔しました。」
「邪魔したのじゃ。」
クルスの元を後にしアスタルテを連れて村長の家に帰る事にした。
……途中でアスタルテに思いき蹴られた、後でちゃんと謝ろ。
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