第5章 アルーべ村⑤
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
「邪魔するのじゃ。」
元気よく玄関のドアを開け中に入るが返事が無い、ルミーネは気にせず入っていく。その後に付いていく形で家に入る、中は生活に必要最低限の物しか置いてなかった。
「何じゃ、両親は不在なのかえ?」
娘の帰宅に返事が無い事に疑問を持ったアスタルテがルミーネに尋ねる。
「んー、お母さんもお父さんも居ないよ。」
「出かけておるのかの?」
「違うよ。私、両親の顔知らないの。村長に聞いたことがあったけど、物心が付く前に死んじゃったみたいなの。」
「そうじゃったのか……、すまんのう。」
「へーき、村の皆優しいから淋しくないもん。」
辛い事を聞いてしまったと思ったのだろう、アスタルテは素直にルミーネに謝った。謝られた当の本人は気にしてはいない様子だが、アスタルテは少し気まずそうにしている。
「それよりご飯にしましょ、何あったかなー。」
そう言って家の奥へ消えて行くのを見守った後、アスタルテがこちらを向き不安そうな顔で見てくる。
「……本人が平気って言ってるのだから大丈夫だよ。」
「そうかのう……」
無責任な事を言っていると思う、彼女の心境は分からないが為にこの話に触れるべきではないと判断した結果から出た言葉だった。
「そうじゃの、この話は終わりじゃ。それより、おぬし腕を見せてみ。」
「?」
「我慢せんでも良い、折れておるのじゃろ。」
「やっぱり分かった。」
「当たり前じゃ、わらわの攻撃をもろにくらったのじゃ、その程度で済んでおるのが奇跡じゃ。」
ルミーネに心配させまいと我慢していたが腕に力が上手く入らないうえに、動かす度に激痛が走っていた。
「ほれ、早う出すのじゃ。」
折れた腕を見せる、真っ赤に腫れ上がった腕は痛々しかった。アスタルテはポケットから小さな瓶を出して中身を腕にかけた。
「これは?」
「この村の薬師に頼んで作って貰った回復薬じゃ。」
そのまま暫く待つと腫れが引いていくのが分かる、痛みも引き普通に動かせる様になっていた。
「凄い。」
「そうじゃの、ここまで凄いとは思ってなかったのじゃ。」
「アスタルテ、ありがとうね。」
「礼などせんでもよい、これはわらわがした事じゃ。当然の事をしたまでなのじゃ。」
「それでも、僕の為にしてくれた事だからねお礼は言わないと。」
素直にお礼を言うとアスタルテは照れくさそうにしながらそっぽを向いた、その仕草が見た目の年相応だったのが可笑しくて笑った。
ふと奥からいい匂いが漂ってきた、匂いに釣られて奥へ向かうと台所でエプロンを着けて料理をしているルミーネが目に入ってきた。
「あっ、タクヤ手伝って。そこにある棚からお皿取って。」
「分かった。」
チラッとこちらを見て指示を出してまた直ぐに料理に戻る、その姿に驚いたが言われた通りに棚に向かう。中にはガラスで出来た綺麗な皿がしまってあった、そこから適当に割らない様に気をつけながら皿を取ってルミーネに渡す。
「ありがとう。」
「それは何?」
「これ?これはフィーレって言うこの森にしか生息していない鳥の肉よ、さっぱりした味わいだから朝に食べても胃が驚かなくて美味しい食材よ。」
「へー。」
などと話しながら受け取った皿に出来上がった料理を盛り付けて、それをテーブルに並べていく。気がつけばテーブルの上にはバランスを考えられて作られた色鮮やかな料理が並んでいた。
「さっ、食べましょ。」
「「…………」」
唖然して見ていた僕達に声をかけながらエプロンを外し椅子に座る。
「どうしたの?早くしないと冷めるわよ。」
「そうじゃの、いただくとしようかの。」
「う、うん。」
同じ様に椅子に座る、美味しそうな匂いにお腹が鳴る。
「じゃ、いただきまーす。」
「いただくのじゃ。」
「いただきます。」
それぞれが自分の器に料理をよそう、気になっていたフィーレの肉を一口食べてみる。口に入れた途端に溶けて無くなった様に感じるほど旨味となって口の中に広がる、脂っこく無くあっさりとしていて食べやすかった。
「美味しい……」
「でしょ、獲れたてだから尚更だよ。」
さっき隣の家の方に頂いていたのを見ていたが、その肉がこれだったとは思わなかった。
「ルミーネって料理出来たんだ。」
「何よ失礼な、出来ないと思ってたの。」
「正直思ってた。」
「酷い、これでも一人暮らしは長いのよ。甘く見ないでよね。」
「すまんルミーネよ、わらわも思っておった。」
「そんな!?アスタルテもなの。」
「昨日の姿を見ておったらのう。」
いつ以来だろう、こんなに楽しく食事をしたのは……
そう思いながらゆっくりと食べながらな、談笑し楽しい食事を過ごした。
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