第5章 アルーべ村③
「この村は、別名はぐれ者の村って言われておる、言葉の意味通り村じゃ。新しいものに馴染めず古いモノに縋って生きておる。」
「……。」
どの世界にでも有る話だった。意見が別れ少数派は切り捨てられる、そして世界から弾かれる。
「じゃがワシらはこうして生活しておる、何の問題も無くの。……さて、しんみりした空気ここまでのようじゃの。」
そう言ってドアに目を向ける。釣られて振り返ると、いつの間にか着替えを済ませたルミーネが立っていた。
「マリーさんが呼んでるよ、準備出来たみたい。」
「そうか、どれワシらも行くかの。」
立ち上がり湯呑みを下げ戻ってきた。
「アスタルテ、僕達も行こうか。」
「そうじゃの。」
ルミーネとグレイの後について外に出る。
「ほう、凄いのう。」
「確かに凄いね。」
村の広場に着いて驚いた、色んな料理がテーブルに山の様に置かれていた。
「さ、早く行こ。もう我慢出来そうに無い…。」
あぁ、ヨダレが出てる、これ以上我慢させていたら暴れそう……。
「皆、揃ったようだね。じゃ、ルミーネの無事を祈って乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
それぞれが持っていたコップを掲げ乾杯をする。それが終わると同時にルミーネは料理に向かって行った。
「うっまーい!!流石マリーさんの料理、絶品だわ!」
「誰が作ったと思ってるだい。」
お皿に乗り切らない程に料理をよそって頬張っている。……流石大食い、あっという間によそったのが無くなりおかわりをしてる。アスタルテは……、いた。珍しいのか目を輝かせ料理を見ている。離れて2人を眺めているとグラスを2つ持ったエルフの青年が近づいてきた。
「楽しんでるかい?」
「君は確か。」
「はい、この村の警備隊隊長を務めています、アルテ・リターナです。先程は失礼致しましたルミーネの命の恩人にあの様な無礼を。」
「いいって、気にしてないから。それより誤解が解けて良かったよ。」
「そう言って頂けると助かります。」
グラスを1個渡してくる、中には甘い匂いのする飲み物が入っていた。一口飲むと果実の甘味と香りが口の中を満たす。
「これは?」
「村で作ってる果実酒です。」
確かに少しアルコールが入っている様に感じる。
「如何です?」
「飲んだ事の無い味わいで美味しいです。」
「それは良かった、まだ沢山有りますので遠慮せずもっと飲んで下さいね。」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます。」
その言葉を聞き嬉しそうに微笑む、暫く話をしているとアルテはどうやら他に呼ばれたらしく会釈をし離れていく。ゆっくりと味わう様に果実酒を飲みながら広場を見る。村人は色んな種族が入り混じっているが人間の姿が見えない、不思議に思いルミーネに聞こうと探す。
……居た、って酔ってる!?だいぶ飲んだのかふにゃふにゃに成っていた、あれじゃぁ聞けないな。参ったな、村長に聞こうにも聞ける様子じゃ無いし、他の村人も酔ってどんちゃん騒ぎだ。
「かっかっかっ、飲んでおるかータクヤよ!」
「アスタルテ、って顔真っ赤じゃないか!」
「この飲み物が美味くてのー、ほれタクヤもー、飲んでみー。」
そう言って持っていた樽を差し出す。ん、樽?樽!?
「アスタルテ、まさかとは思うけどそれ何個目?」
「んー、まだ三つ目じゃが?」
「……」
絶句した。意外とアルコール度数が高いと思う果実酒を、樽で2つ以上カラにしていると思うとやはりドラゴンと言うべきなんだろうか。しかし見た目が子供だから世間体的には宜しくない、凄く宜しくない。
「ほれほれ、タクヤよ、飲め〜。」
酒樽を片手で持ちながら迫ってくる姿は、少女の姿をした鬼の様だった。
「ちょ、ちょっと待ってアスタルテ。怖いよ、その笑顔すっごく怖いよ!」
「えぇい、うるさい!おぬしも男じゃろ、黙って飲め〜!!」
「ガボボボ……」
「きゃははは、タクヤ何やってるの〜。面白〜い。」
溺れる、陸で溺れる!ルミーネ……はダメだ笑って助ける気ねー!他の皆も見て笑って助ける気は無さそう……
「どうじゃ〜、美味しいじゃろ〜?って、タクヤ大丈夫かえ?」
「………ゲホゲホっ、殺す気かー!」
「生きておるではないか、ならまだ行けるじゃろ。」
「止めろー、その笑顔で迫るなー!」
「あははは、もっと飲ませろ~。」
イラ
「ねぇタクヤ?この手は何?その笑顔は何?」
「ルミーネ、楽しそうだね。」
「ちょっと、離して。怖いわよ!?」
青ざめた顔で訴えてくるが離さない、そのまま笑顔でアスタルテに振り向く。
「アスタルテ、ルミーネがどーしても君のお酒が飲みたいって。」
「!?冗談よねタクヤ。ねえってば!」
「そうか!ルミーネも飲みたいとな、よーし待っておれ!新しいのを持ってくるからの!」
わー、すっげー楽しそうに新しい酒樽を取りに行ったぞ。
「お願いタクヤ、私まだ死にたくないわ!」
ニッコリ
「え?何で無言で笑ったままなの?お願いだから離してー!」
「ルミーネ、共に溺れるとしようか。」
「嫌よ!はーなーせ〜!」
「大丈夫、最高の笑顔で樽を持ってくる鬼がすぐそこまで来ているから、もう少しの我慢だよ。」
「タクヤ〜、ルミーネ〜、新しい酒じゃ〜。」
「いやーーーーー!」
その日、ルミーネの叫びが森中に響いたのだった。
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