第5章 アルーべ村②

「どうじゃ、当たっておるじゃろ。」


 悪戯をしそうな笑を浮かべこちらを見てくる。その視線に寒気を覚えた。


「えっと…。」

「青年よ、聞くことを恐れるでは無い、聞かない事を恐れるのじゃよ。」

「……。」


 確かにそうだ、僕は色々と聞きたい事がある。でも……。


「でも、まだ整理しきれていないって顔じゃな。少しふざけが過ぎたようじゃな。」

「いえ、実際整理しきれてません。」

「ふむ、まずは自己紹介からするかのう。ワシの名はグレイ・アレバードじゃ。」

「僕は結城卓也です。こちらの少女はアスタルテです。」

「ほう、あの伝説のドラゴンの名と同じとは珍しいのう。」

「知っているのですか。」

「わらわは有名だからの、知っておってもおかしくないじゃろ。」


 アスタルテは自慢げに胸を張っている。そうゆうのは誇りたいのか……。


「ではグレイさん、旧言語って何でしょうか。」

「旧言語は、今ワシらが使っている言語じゃな。元々この世界は、この言語で統一しておったのじゃ。しかし、お主は旧言語について知らんと。」

「はい、その事でお話が……。」




「タクヤって異世界から来たのかえ!」


 横で聞いていたアスタルテが驚きで声を上げる。


「言っていなかったね、僕はこの世界の住人じゃないんだ。」

「ふむ……、少し旧言語について語るとしようかの。」


 そう言うと村長はどこかへ行ってしまった。数分後、お盆に湯気の立った湯呑みを持ってきた。……湯呑み?


「ほれ、熱いから気を付けるのじゃぞ。」

「……ありがとうございます。」


 受け取った湯呑みを見る、どこからどう見ても湯呑みだ。それが不自然だった、だって異世界って言ったらマグカップやグラスみたいなのが出てくると思う。


「不思議そうにしておるの。」

「え、あ、はい。」

「そのユノミも旧言語もある1人の人物が伝えたものでの、もう数百年も前じゃ。まだ、この世に共通の言語が無かった時代があったのじゃ、それぞれの種族は自分達の言語を使い生活し、平和に暮らしておったのじゃが、そう上手くは行かないものじゃ。」

「……。」


 湯呑みに入ったお湯を飲みながらゆっくりと話を聞く事にした。


「異界の者共が攻めてきたのじゃ、世界は混乱に落ち、状況は最悪じゃったそうじゃ。連合軍を作ろうにも言葉が通じない、そんな状態の寄せ集めで軍を作っても統率なんて取れたものじゃ無かった。そんな混乱の最中に1人の男が現れた、名はクロガネ シズクと言ったかの。聞いた事も無い言語で何かを訴えていたそうじゃが通じるはずも無く、最初は相手にされなかったそうじゃ。しかし、彼は武器を手に戦の中を走り回ったと言われておる、その姿を見た軍は彼に付いて行く様になったそうじゃ。言葉は通じないが言いたい事は通じたようじゃな、次第に軍は統率が取れる様になっておった。その後は次第に連合軍が押し始めた結果、多くの犠牲を出したが異界の者共に勝利を収めた。」


 凄いと思った、言葉が通じないのにも関わらずそこまやって除けた結果、勝利を手にした。


「その勇気ある行動を称え、英雄と呼ばれる様になった。彼は戦いの中でいつの間にかそれぞれの言語を覚えていたらしく、ある提案をそれぞれの種族に出した。」

「言語の統一ですね。」

「そうじゃ、それがこの言語と言うわけじゃ。」


 英雄と言われる程の人からの提案だ、簡単に物事は運んだと思う。だからこそ、なぜこの言語が言語と言われているのかが疑問だった。


「暫く彼は言語の他、色んなものを世界に広めたのじゃ、そのユノミもそうじゃな。だがの、老いには勝てる筈も無く寿命を迎え死んだ。彼が死んでから数十年の月日が流れた、突如異界の門が再度開き、異界の者共が攻めてきおった。奴らは知恵を使い魔族と結託しておった、未知の攻撃に統一言語で統率が取れていた軍も壊滅状態、再度世界は混乱へと落ちたのじゃ。」


 あ、話の展開が読めたぞ、多分これは……。


「その時、またしても英雄と呼ばれる様になる存在が現れた。」


 ほーらね、だと思ったよ。


「名はアルバーナ・ヴィ・グローリアと言ったかの、言葉が通じない彼は状態判断の能力と戦略の能力が素晴らしかった。結果は当然勝利で終わった、人々は彼を英雄と崇め彼が使っている言語を共有しようとした。」

「そうなると、古いのは忘れられてしまうと。」

「そうじゃの、生きて知恵を持つ者の良い点でもあり悪い癖じゃ。新しいモノに食いつき古いモノは忘れる、進化をするには必要な事じゃ。じゃが、それを良しと思わん者も少なからずおる。ここはそんな者達が集まる村なのじゃよ。」


 グレイは何処か寂しそうに言葉を吐いた。

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