第4章 皆で笑う為に⑥

「………。」


 痛みはない、あっさり殺されたのか。


「……。」


 恐る恐る目を開ける、頭は体と……繋がっている。どこか無くなってないか体を触って確認する。


「生きてる……。」


 確認を済ませ生存に安堵する。


「そうだ、アスタルテ!」

「なんじゃ、うるっさいのう。」


 アスタルテは目の前に居た、頭を僕の高さまで下ろしていた。


「僕を信じてくれるの?」

「人間は嫌いじゃ。じゃが、おぬしならもう一度信用してみようと思っただけじゃ。」

「アスタルテ……。」


 嬉しかった、信用してもらえた事が凄く嬉しかった。


「ほれ、何をしておる。その首輪を早う付けるのじゃ。」

「それはしない。」

「何故じゃ。」

「言ったでしょ、首輪を付けたら、君は自由じゃなくなるでしょ。だから、それはしないよ。」

「……それもそうじゃな。」


 苦笑いで笑う。アスタルテも、恥ずかしそうに頬を掻きながら顔を上げる。


「タクヤのばかーーーー!!!!」

「グエ!痛い、痛い!」


 ルミーネが突然抱きついてきた。

 あ、モフモフ……。って、そうじゃなくて痛い!折れた腕がガッチリとホールドされ悲鳴を上げる。


「本気で何考えてるのよ、ばかーーー。」

「痛いから離れて!」

「ばか……。」

「ルミーネ……。」


 泣いていた。それだけ彼女に心配させていたのだ、安心して溜まっていたのが溢れてしまったのだろう。駄目だな僕は、泣かせるなんて。


「グスッ……。」

「落ち着いた?」

「!?な、泣いて無いから!こっち見んな、食うぞ!」

「ははは。」


 いつもの照れ隠しで文句を言ってきたが、離れようとはしなかった。


「アスタルテ。」

「何じゃ。」

「ありがとう、信用してくれて。これからも宜しくね。」

「うむ、宜しくじゃ。それと娘よ。」

「何よ。」

「その、今更じゃがすまなかったのじゃ。」

「本当よ、ボロボロになちゃったじゃない。」

「そうだ、ルミーネ怪我は大丈夫なの?」

「平気よ、全てかすり傷よ。」


 ルミーネの身体能力が高かったおかげのようだ。


「アスタルテ、ここから出るにはどうすれば良い?」

「うむ、待っておれ。」


 そう言うとアスタルテの体に変化が起きた。徐々に小さくなっていき少女の姿に成った。見た目は12歳くらいだ。


「この姿も久々じゃのう。」

「「…………。」」


 突然の事に唖然となったが、まずい事が。彼女は裸だった。


「タクヤは見ちゃだめーーーー!」


 グキッ


「グエ!」


 首を無理矢理逸らされ、首から嫌な音が聞こえた。




「死ぬかと思った……。」

「すまんかったのじゃ、裸になる事を忘れておった。」


 ルミーネに連れて行かれ、布で取り敢えず体を隠しているアスタルテ。見た目は今だ危ないが……。


「本当にびっくりよ。」

「かっかっかっ。ほれ、行くとするかの。」


 そう言い歩き出すアスタルテ。僕達はため息をつきながら後を追いかける。




「ほれ、ここが出口じゃ。」


 やっと洞窟から外に出れた、外はすっかり明るくなっていた。


「もう朝か。」

「朝日が眩しい……。」

「うむ、確かに眩しいのう。」


 長かった夜が終わり、ほっと安心する。


「これからどうするのじゃ?」

「私は村に帰るわ。一緒に行こタクヤ。」

「良いけど僕達が突然行っても大丈夫?」

「んー…なんとかなるわよ。あー、体洗いたい。」

「行く宛が無いのじゃ。甘えるとしようかのう。」


 そう言いながら2人は歩きだす。


「タクヤ、置いていくわよーー!」

「……行くか。」


 これから先は長いけどまだ初めの1歩を踏み出しただけ、まだまだ色んな困難が待っていると思うが今は、今だけは忘れよう、そう思い後を追いかける。

 皆で笑っていられる今を大切にしながら。

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