第4章 皆で笑う為に⑤

 あの娘じゃった、口に男を咥え逃げる。一瞬の出来事に、何が起きたか分からず逃がしてしまった。


「あがああぁぁぁぁぁあああ!!」


 行き場のない怒りに、ただ喚くしか出来なかった。


 憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくい!


 やはり人間は憎む存在だ。




 あの後、とどめを刺す為に洞窟内を探したが、どこに隠れたのか見つけ出せず、怒りが増すばかりだった。


「ドコイッタアァァア!」


 壊せる所全て破壊する勢いで蹂躙する、いくら探しても姿が見えない。まさか、出口を見つけ逃げたか。そう考えたが、それならとっくに逃げているはずじゃ。暴れているから姿を出さないと思い、能力を使い闇に溶け込む。




 暫くし、やはり出口を見つけて逃げたかと、能力を解除しようとした時。


(居た……。)


 松明の灯を見つけ、静かに近づく。どうやら、わらわを探している様じゃった。能力を使っているからと油断せず、背後に迫る、そして。


「ミツケタ。」


 最高の絶望の顔をして固まる、してやったりと思いながら攻撃をした。だが、寸前の所でまた逃しまった。あの娘は厄介だ、ちょこまかとすばしっこ。すぐに飛んで後を追いかける、今度こそ、今度こそ仕留める為に。

 右に、左にと方向転換し距離を取ろうとする、面倒やつじゃ……。イライラしながらも距離を詰めて居た時、何かが投げられた。反射的にそれを叩き落とした、それが間違いじゃったようじゃ。


「!?」


 目の前でそれは割れ、炎を巻き上げる。目が焼けるように熱い、体制を崩し地に落ちる。異物を取るために目を擦る、その隙にどうやらコチラに向かってきていたらしい。目が回復した時には、目の前に迫っていた。


「舐めるなぁァァ!!」


 だが、回復の方が早かった、寸前に吹き飛ばす事が出来た。小僧は吹き飛ばされ、壁に叩きつけれた、そして動かなくなる。


(死んだか。いや、念のために首を落とすかのう。)


 そう思い近づくが。


「させない!」


 その声と共に、娘が邪魔をしに来る。


「……娘よ。このまま、こやつを見殺しにすればおぬしだけでも助けてやろう。どうじゃ、悪くないと思うのじゃが?」


 娘の存在なんてどうでも良かった。憎いのは人間だけじゃったから、邪魔さえしなければ本気で見逃すつもりじゃった。


「いやよ!」

「ほぅ、死にたいと。」

「だって、決めたもの。まだ会ってそんなに時間が経ってないけど、タクヤと笑って話しをしたいって。もっと話しをしてみたいって!」

「そうか、なら仲良く死ぬのじゃな…。」


 理解出来なかった、何故人間のこやつにそこまでの感情を持つのか。裏切るかも知れないのに、何故助けようとするのか。




 そこからは、一方的じゃった。速さで勝負をしてきたが技量が足りなすぎじゃ。ボロボロになりながらも立ち向かって来る。


「もう良いじゃろ。何故そこまでするのじゃ。」

「私は、彼に短時間で何回も助けられた、そのお返しもしたいけどさっきも言った。タクヤともっと話しがしたいって、笑い合いたいって……。」

「……。」


 分からん、何故じゃ。人間は自分勝手じゃ、自分の為になら平気に裏切る、なのに……。


「タクヤ、逃げて!」

「……さい。」

「タクヤ、早く起きて逃げて!」

「うるさい!」

「タクヤ!逃げて!」

「だあぁぁあ、まぁああ、れえぇええ!!」


 もう惑わされない、惑わせれてたまるものか。もうあんな気持ちをするのじゃったら、もう……。


「ルミーネ!」

「貴様!!やはり、生きておったのじゃな!!」


 こやつを殺せば、今この胸に有るものが消える。


「アスタルテ、全部間違っていた!僕も、君も!」


 うるさい、聞きたくない。惑わせるな。

 人間は自分勝手じゃ、だから何故わらわはこやつに自分の胸の内をぶちまけているのじゃ。1度言葉にして出た感情は紛れもなく本音じゃった。





「悔しよ!恥ずかしいよ!」


 その言葉が発せられて言い争いが止まる。小僧から発せられたそれは、今までの言葉より強く感情が乗せれれていた。ただ聞いているだけなら、子供が喚いているだけの様に聞こえる。じゃが、こやつの一言一言は本気で言っていると伝わる。そしてこやつは言った、皆が笑えるように世界を変えると。その最初にわらわを自由にし、手伝って欲しいと。解除した後に決めて欲しいと、気に食わなければ殺せと。

 正直、心に有った感情は何かは分かっていた。認めたくなかっただけじゃった、認めればそれは人間を許す事と同じじゃと思ってた。じゃがもう一度、信用する事が出来るならわらわは……。

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